実は逮捕されていた!? リスクを冒して「難解グラフィティを読みやすく」書き直したアーティストにその真意を聞いてみた
Pocket

いま一番注目のグラフィティ関連のアーティストといえば「落書き、読みやすく書き直したよ」の男だろう。ここふた月、その“奇行”は衝撃のビフォーアフター画像とともにネット上でさんざん話題をかっさらった。

8_before
8_after

汚くて読めやしない他人の書きなぐりのグラフィティを、ご丁寧に書き直してしまった彼。
“その真意”については日本のメディアでも様々な憶測が飛び交っていたので、直接聞いてみた。
「ねえ、一体、何のため?」

なぜ書き直したのか、が気になって

 1970年代、ヒップホップカルチャーから生まれたグラフィティ。はじめは悪印象だったものの、作品の批評性が高いバンクシーやバスキアの出現により次第に認知度を増し、近年ではカルチャーとして受け入れられてきている。
 許可ナシに公共物に書くことは内容問わず依然として立派な犯罪なわけだが、市民権を得つつあるのはアート性の高いグラフィティのおかげだ。一方いまだに迷惑行為だ、不快だと煙たがれているのが「落書き」というグラフィティ。

9_before

 今回、その「落書きを読みやすく書き直すプロジェクト『Tag Clouds(タグ・クラウズ)』」を遂行したのが冒頭で述べた話題の男、フランス人のMathieu Tremblin(マテュー・トレンブリン)。ヨーロッパを拠点に活動するアーティストだ。

 各国メディアが取り上げ世界中に知れ渡ったこのプロジェクト。日本でも「不快な落書きを消さずに、景観を取り戻すのが目的じゃ?」やら「読みづらいメッセージを、皆にわかりやすく伝えるため」やらさまざまな見解が飛び交った。ならばここらで真意をはっきりさせましょうか。

9_after

HEAPS(以下、H):単刀直入に。なぜ、読みやすく書き直そうと?

M:グラフィティの認知度を高めたかったんだ。興味深いものけど、まだまだ煙たがられているものでもあるから。

H:と、いいますと? すでに知っている人が多いイメージですが。

M:グラフィティって、実際は読みづらいものがほとんど。道端で見つけた読みづらい落書きを、わざわざ解読しようとする人って少ないでしょう? でも、その落書きに込められているライターの主張や、ハンドライティングスキルを全部取っ払ってシンプルに表現すれば、視界に入ってきやすくなる。グラフィティ本来の面白みは減るんだけど、認知はされやすくなる。逆転の発想だよね。

1_before
1_after

H:確かに、がっつり描かれたタイプのグラフィティはじっくり見るし、わざわざ見に行ったりしますが、ささーっとスプレーで書かれたようなグラフィティは注視しないかも。
書き直すというその行為、余計なお世話だという意見もあるかと思うのですが、どうですかね?

M:もちろんライターには敬意を払ったうえで書き直したよ。可能な限り、ライターや地元シーンを支えてるクルーには連絡を取った。このプロジェクトが彼らにどう受け止められるか、リアクションを知りたかったからね。消すのではなく“書き直す”ことによって、彼らを尊重していることを理解してもらえたよ。

4_before
4_after

H:ライターのスタイルは千差万別、解読には苦労したかと。

M:実はそうでもなかったんだ。でもどうしても解読不能なときは、街中を歩き回って同じ色のスプレーやマーカーで書かれたタグを探した。あとは似ている形でより解読しやすい文字を見つけたり、地元のライターたちに誰が書いたか聞いたり。

H:そこまで忠実に再現しようとしていたとは!

M:あ、でもね、一度だけ解読ミスしたことがあって。「1&2」を「182」って書いちゃったんだよね。それ以来、曖昧なものは必ずライターに確認を取るようにしたよ。

7_before
7_after

H:しっかりしてらっしゃる。ちなみに書き直す壁はどうやって選んだんですか?

M:壁は、市のサービスによって定期的に清掃される場所を選んだ。決して歴史的建物なんかにはしなかったよ。
最近ではほとんどの都市がグラフィティ禁止政策を採用する傾向にあるから、フランスの落書きは減ってきてるんだよね。

3_before
3_after

H:やっぱり、政府の取り締まりも厳しくなっていたり?

M:もちろん。このプロジェクトが特別許可されたわけじゃなかったから、実はオランダの都市アイントホーフェンで逮捕されちゃって。罰金もしっかり払わされたよ。どんな内容であっても、ここではグラフィティは迷惑行為には変わりないからね。

H:なんと。

M:でも、市の職員っぽい格好で作業してると、通報されないってことに気付いたんだ。なんなら通りすがりの人が「ご苦労さん」ってな感じで話しかけてくる。これって実はひとつのテクで、地元のライターやアーティストはよくやってるみたい。

12

H:ところでマテューさんは、グラフィティって、バンダリズム(景観破壊)と考えますか?

M:僕はそうは思わない。だってグラフィティは何も破壊しないから。

10

H:詳しくお願いします。

M:書かれた壁は、その後もちゃんと壁としての役目を果たすでしょう? 結局、単に壁のレイヤーが1枚増えただけのことで、その見た目を個人的な好みでジャッジしてるだけに過ぎない。バンダリズムの定義って、それぞれの国の文化から見る視点によって違うと思うんだ。実際、いくつかの国ではグラフィティは違法じゃないし、なんなら奨励されてるくらい。

2_after
2_before

H:では、今回のプロジェクトもバンダリズムではないと?

M:これは決して破壊行為じゃない。都市に施されるアートの目的って、表現や規制への問題提起だと思ってる。ここまでネット上でバズッたタグ・クラウズ、目標は達成できたかな。

5_after
5_before

そもそも、違法ですからね。

 たとえバンダリズムじゃなくても、読みやすくなり関心を集めたとしても、結局それは違法行為には変わりない。ただ、単に上塗りするのではなく、わざわざ“ありきたり”な書体に書き直すことによって(しかも相手の了承済)意固地になった上描き合戦は起こりづらい、という景観面からの利点はある。

11

 上塗りする際はより芸術性の高いものを書かなければいけない、という暗黙のルールがあるグラフィティ。今回のタグ・クラウドは、「読みやすい」に書き換えるだけという、痛快かつ秀逸なアイデアで一石を投じるプロジェクトとなった。

 ま、落書きグラフィティに関しては無論「しないのが一番」なのは言うまでもないんですけどね。

6_before
6_after

Mathieu Tremblin

▶︎オススメ関連記事

閉所恐怖症の人は耐えられない? 道端に突如現れた、「マンホールの小さなお部屋」たち

“社会への反発メッセージ”を超えるグラフィティ文化を伝える、唯一の日本人アーティスト

▶︎▶︎週間人気トップ記事

村住まいのアメリカ人が世界に発信。日本の農村文化と田舎力のここがすごい!村情報誌『Sparkle』

ノリにのる“米国の100均”。顧客は「年収1000万以上のミレニアルズ」新マーケットと100均ビジネスの可能性!

—————
All images via Mathieu Tremblin
Text by Yu Takamichi

Pocket

8_after のコピー (1)
この記事が気にいったら
いいね!しよう
HEAPS Magazineの最新情報をお届けします

You may also like...