閉所恐怖症の人は耐えられない? 道端に突如現れた、「マンホールの小さなお部屋」たち

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道路のあちこちにある丸いもの。マンホール。どうってことのないマンホール、普段なら気にも止めないマンホール。
でもそれが“普通じゃない”マンホールだったら? ほら、これみたいに。

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Image via Biancoshock

下までは見えない。1畳部屋の謎

 イタリアはミラノの南にある町、ローディ。小さなこの町のマンホールに突如現れたのは、小さな小さなお部屋だった。

 いまにも料理ができそうな小さなキッチンに、本当に水が出てきそうなシャワー室、お洒落なハットが掛かる廊下。ついさっきまで誰かがいたかのような気配さえも感じ、生活感が溢れる。

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Image via Biancoshock

 D.I.Y.なホームレスがリノベーションしたのか? それとも新型ホテルだったり…?
 いろいろな考えが頭をよぎるが、答えを言ってしまうと、アートインスタレーション作品なのだ。

 現在は使われなくなったマンホールを小さなお部屋に改装したのは、イタリア人アーティストのBiancoshock(ビアンコショック)。タイトルは、「Borderlife(ボーダーライフ)」だ。

 これまでも、パックマンのフィギュアを通りに置き、「僕は貧しいパックマンです。お腹が空いています。助けてください」とメッセージボードを添えたり、

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Image via Biancoshock

バスを待つ人々のストレスを和らげるため、バス停にバブルラップ(梱包に使うあのプチプチ)を置いたり、

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Image via Biancoshock

通行人が思わず足を止めてしまうようなアート作品を手掛ける、ユーモアとアイロニーたっぷりのストリートアーティストである。

 そして、今回も間違いなく通行人を困惑させ、驚ろかせ、不思議な気持ちにさせるだろう、マンホール作品たち。

 部屋のコンパクトさが可愛らしい印象だが、その裏には意外なメッセージとコンセプトが隠されていた。

インスピレーション源は「マンホール族」

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Photo by gato-gato-gato, long shadows

 作品アイデアの下敷きとなったのは、東欧ルーマニアの首都ブカレストにいるマンホール・チルドレン。市内の地下を家とするホームレスキッズたちのことだ。日本でもテレビなどで、彼らの日常やみんなをまとめるボス(通称“ブルース・リー”)が紹介されたことも。

 幼き者たちが家なき子となった原因は、1989年の共産主義独裁政権の崩壊。独裁者ニコラエ・チャウシェスクが推進していた人口増加政策により多くの子どもたちが生まれたが、生活苦から家を追い出されたり、自ら家を出る者が増え、路頭をさまよっていた。

 路上は寒いため、次第に少しでも暖かい下水道に住み着くように。その子どもたちが大人へと成長、そして子どもを産むことを繰り返し、その結果現在でもおよそ600人の住人が共同生活しているといわれている。

 その地下に蔓延る問題は何も不衛生なことや貧困だけではない。住人の多くは、麻薬中毒者でなんと全員がエイズ感染者、4分の1は結核患者。注射針を使い回し、体を温めるためにシンナーを吸う。劣悪で不健康な環境下だが、犬や猫を飼い、ダンスミュージックをかけ、必死に生きている。

マンホール部屋が伝えたかったこと

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Image via Biancoshock

 ビアンコショックは、「マンホールにある小さな部屋=生活の場」を自らの芸術作品で視覚化することによって「ある国では地下空間で過酷な生活を送る人たちがいること」を鑑賞者に伝える。

 本作品「Borderlife」のコンセプトはずばり、「If some problems can not be avoided, make them comfortable.(避けられない問題があるのなら、それを心地いいものに変える)」。マンホールのような場所で住まなくてらならない状況にある(避けられない問題)のなら、少しでも住みやすいように(心地いいもの)努力してみる。
「郷に入れば郷に従え」ではないが、過酷な生活を余儀なくされる人々の精神や問題を映し出しているようだ。

 そういえば、三つの部屋とも床まで見えない。上から見たらどうなんだろう、とついついもっと奥まで見たくなってしまうが、この作品の裏に隠された思惑を知ったあとでは、未だ貧困にあえぐ人たちがいる社会の奥深い闇や、先の見えない問題を暗示しているかのように見えてくる。

Biancoshock

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Text by Risa Akita

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