ボタンを押して駆け足、思い描いたポーズを撮る。息を止める。
彼女には10秒間しかない。
I Was Never Good at Yoga, Brown, Grey, Pink, June 2015
彼女がどこにいるのか、わかります?
スマホのセルフィー(自撮り)が流行る昨今、なんだか懐かしく感じる「セルフタイマー」の写真。家族や親戚の集合写真なんかではよくやりませんでしたか?
撮る人いらずの便利なセルフタイマーだが、イギリス人フォトグラファーのPolly Penrose(ポリー・ペンローズ)の使い方は一味違った。
「素っ裸」になって、奇妙な格好でカメラに収まる。
このコンテンツには少々過激な内容が含まれます。
裸でセルフ・ポートレイトする理由
家の中や屋外。家具によじ登り体を折り曲げたり、物体で体を隠したり、隙間にピタリと挟まったり。いずれも10秒間のセルフタイマーで体をカメラに収める。
5回もやれば十分そうなこのシリーズ、彼女は9年も撮り続けている。
October 2015, Crowborough Road, Fire Place
March 2016, Judith’s House
May 2015, 29 Meynell Crescent
その「ヌード・セルフポートレイト」を集めた自身の個展「10 seconds」を現在ロンドンで開催中のポリー。 作品を見れば見るほどふつふつと湧き上がる疑問。
なぜわざわざヌードになりおかしなポーズを取り、記録しているのか。
「実は私にもわからないの。これといった答えを教えてあげられたら良かったのだけれど…」
ずっと自分のためにヌード・ポートレートを撮っていた彼女。2年前に初個展を開いて以来、人々が自分の作品について話し、なぜこんな写真を撮っているのか尋ねてくるが「『これが私の目的です』っていうのも特にないの…」と自身でも答えをまだ模索しているとのこと。
15歳でカメラを手に入れた時から写真を撮ることに夢中だった彼女。人を撮る前に自分自身で写真を練習してみようと被写体に自らの体を選んだのがはじまり。
「別に服をきていても良かったのだけど」と言うが、昔から特に女性の裸が描く曲線に惹かれていた彼女。誰かにカメラを向けるより、裸の自分とカメラの関係性を深めたいと、次第に思うようになったそうだ。
April 2015, Uncle Richards House, Chest of Drawers
撮影するのは閃いたときだけで、撮影する時間とチャンスがあるとき。何かを伝えようという思惑は特にないという。
「どこで何をどのくらいの時間でどんな写真が撮れるのか」彼女に言わせれば、「運命と直感に従う」のだそうだ。
October 2015, Crowborough Road, Satin Curtain
10秒間で考えていること
タイマーを押してからシャッターが下りるまでの10秒間。彼女の頭にあるのはただただ、“自分が思い描いているポーズ”だけ。
「理想の一枚を生み出すためには、体を駆使してポーズを覚えなきゃいけないわ。
『つま先の向いてる方向がちょっと違う』『なんか肩の角度が変』『これはつま先はOKだけど指の位置が違う』って感じで。大変」
完璧な1枚のためには、1ポーズにつき40〜60ショット費やす。まさに体力勝負の撮影だ。いまでも続けている彼女、なんと「7月で40歳になるの」。
October 2015, Crowborough Road, TV Stand
「夏にはランニング始めて体を鍛えないと。体の老化をこのプロジェクトでドキュメントしているのと同時にまだ変な格好で写真に映りたいから」
シリーズPool Party。スペインのイビサ島に家族旅行で泊まった別荘にて。
Pool Party, Blue Hose, August 2015
子どもたちが眠っている間にこっそり撮影した。
Pool Party, Orange Lilo, August 2015
「8月の炎天下の中、真っ裸でビニールの浮き輪を抱えて、暑さで沸騰しそうだったわ」
January 2015, Millfields Road, Curved Wall
独身時代から、結婚を経て出産に至るまで、体を写真に残す。何か大きなメッセージを込めて撮らなくとも、知らず知らずのうちに“女としての一生”をドキュメントしているかのようだ。
April 2015, Uncle Richards House, Dining Room Chair
面白いことに、どの写真にも彼女の顔は写っていない。記念や記録の写真って、顔ありきのイメージがあるが。
September 2014, John Campbell Road, Red Curtains
「顔は体の“門”みたいなもの。人は顔から多くのものを読み取ろうとするでしょう。この写真にある“体”は、『ねえ見て』と誇示するのではなくて、空間にある一つの形として体なの」
自身の顔を隠すことで裸体が空間や物体と呼応し、彼女にしかわからない内なる情感を饒舌に語っている。
窮屈で痛みのある、千差万別な格好をして撮った。写真を見れば、息を止めていたあの瞬間がその頃彼女を取り巻いていた出来事と一緒に蘇るのかもしれない。
便利なセルフィーでいつもと同じ顔をしている写真よりもきっと、鮮烈に思い出せる。
January 2015, Millfields Road, Hallway
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All images © Polly Penrose
Text by Risa Akita