元は異国のお母さん。料理上手の移民女性を“食の起業家”に育てるプロたち。路上のB級グルメも繁盛させる、味な支援

「“得意の家庭料理”を武器に、経済的に自立を」。海を渡り移民した土地アメリカで、移民女性たちを〈食の起業家〉に仕立てあげる団体がいる。
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料理の腕にこそ自信がある。食のビジネスをはじめられたら…。移民してきた国アメリカの地で思いを馳せる移民女性たちは少なくない。でも、英語はつたないし、現地のビジネス知識も乏しい。

「異国の地で強く生きる“バッドアス(イカした女性)”たちを、サポートしたいんです」。〈移民女性〉たちを手厚く支援し、食の起業家に育ててきた“陰の立役者”が、ラ・コシーナ(La Cocina)だ。13年間で118人の“食ビジネス”に匙を差しだし、すくってきた。

“路上のグルメ”を食ビジネスにする「ラ・コシーナ」

「家計を助けるため法の目をかいくぐり、学校や教会周辺の路上で“自慢の味”を売り歩いて小銭を稼ぐ。そんな移民女性たちをたくさん見てきました」。移民の国アメリカでは、よくこんな光景を目撃する。子どもを連れたメキシコ系のお母さんが、路上でメキシコのB級グルメの屋台を出していたり。
 いまでこそ“ヒップでホット”と形容されるトレンドスポット、サンフランシスコのミッション地区でも道端で食を売りあるく移民女性の光景は日常茶飯だった。

 その地で13年前、「低所得で、働くための平等な機会があたえられていない移民女性をサポートします」と産声をあげたのが、スペイン語で〈キッチン〉を意味する「ラ・コシーナ」。その名の通り、“キッチン”を通して、食ビジネスにおける、商品開発から雇用、流通、経営のアドバイス、運営に必要なサービス機関への橋渡しまでをカバーした、食の起業家育成プログラムを提供。〈低所得の移民女性〉の食ビジネス起業を全面的に支援する非営利団体だ。

 彼らのサポートする94パーセントが女性。また、91パーセントが有色人種、60パーセントが移民。さらに、70パーセントが子を抱える親だ。
 移民たちの故郷は、カンボジア、メキシコ、アラブ諸国、インド、ネパール、ジャマイカ、日本、 エルサルバドルなど、世界各国。豊かには暮らせない異国の地で「どうサバイブしていこうか、常に考え闘う彼女たちは、バッドアス(イカした女性たち)です」。スカイプ越しに話すのは、ラ・コシーナのプログラムディレクターを務めるギーティカ。移民先の国で起業の可能性を秘めた女性たちにチャンスをあたえ、文化に根ざした得意料理を武器に、彼女たちの経済的な自立を進める。それがラ・コシーナの掲げるミッションだ。

「『起業する方法』とググるよりも、よっぽど効率的です」

 もちろん「移民女性なら誰でも手取り足取り助けましょう!」という大味のおいしい話ではない。毎年6回、無料オリエンテーションを開催しプログラムの説明をおこなう。毎回80〜100人ほどの食起業家志望の移民母さんが出席し、実際にプログラムに申請して面接に合格した者のみ、晴れてプログラム参加者となる。さらに、「なんとなくでもいいですが、メニュー案を温めていたり、すでに事業アイデアがあったり、過去になんらかの形で食のビジネスに携わっていた人に限ります。たとえば、これまで50人以上に料理を振る舞ったことがある人や、自分のつくった食品を売ったことがある人、などです」。この辺りも審査で見られ、3〜5人まで合格者を絞る。


Eric Wolfinger Photography

 また、プログラム開始から卒業には、3年から5年の年月がかかる。最初の6ヶ月のプレ・インキュベーション期で、ビジネスプランを具体化し、必要な知識を学ぶ。「食ビジネスのコンサルと教育に力を入れます。“食のMBA(ビジネススクール)”といったところでしょうか」。
 マーケティング、食品開発、資金繰り、オペレーション面の基礎をしっかり叩き込む。「たとえばマーケティングでは、あなたのブランドをどうやってプロフェッショナルに見せていくか。ウェブサイト上で紹介する起業までの物語、ヒューマンストーリーを説得力あるようにどう展開していくか。あなたの売ろうとしている食品を知らない人にもどう売っていくべきかなどを探究します」。
 そして、食品開発では、家庭の台所でつくっていた料理をどうプロフェッショナルに売れる料理へと改善していくべきかの検討を重ね、オペレーション面で従業員の雇い方も学ぶ。「『How to start business(どうやって起業するか)』とググるよりも、ラ・コシーナでの研修の方がよっぽど効率的です」

 その“詰め込み6ヶ月課程”を修了した者はインキュベーション期に入る。この期間でラ・コシーナが誇るサービスが、「コマーシャルキッチン(商業用厨房)へのアクセス提供」だ。プログラム参加者は、実際にこのキッチンを利用し食品をつくる。コマーシャルキッチンとは、地元の保健衛生局の検査に合格した厨房のことで、衛生上のルールから食品の営業許可を得るためには、商品となる食品はコマーシャルキッチンでつくられたものでなければいけない。このコマーシャルキッチンこそ、低所得の食ビジネス起業家にとってのネックだった。




ラ・コシーナでは、プログラムの他にも料理教室や不定期ポップアップなども開催している。

「昔から、コマーシャルキッチンは月額制の値がはるものしかなく、立地も倉庫街などで交通アクセスがすこぶる悪かったのです」。子どもの世話をしながら食ビジネスをしたい低所得の移民母さんが、さらりと借りられるような施設ではなかったという。「ラ・コシーナは、交通の便のいい場所に、参加者が自由につかえるコマーシャルキッチンを低額(1時間13ドル)で提供します。コワーキングスペースが一般的になる前から、シェアキッチンのようなものをやっていたんですね」。
 開業資金についてはどうするのか、という疑問がでるが、ラ・コシーなは資金調達をサポートしてくれる団体への斡旋もおこなう。参加者は実際に資金をつくり、食品の販売までを実践して卒業していくのだ。

路上の伝統料理が大成長、難民のヌードル屋も繁盛

 ラ・コシーナの最大の特徴は、食のビジネスと一口にせず、レストラン、フードトラック、ケータリング、ファーマーズマーケットでの販売で、ビジネススタイル別にコンサルを用意していること。その結果、卒業生は確かな実績を残している。

 たとえば卒業生のアリシアは、メキシコ伝統料理のタマレスを販売するレストラン「アリシアズ・タマレス・ロス・マヤス」を営む。元々、3人の子どもと路上販売からはじめたタマレスづくりだったが、いまでは工場をもち、14人の従業員とともに月に2万4,000個を生産。米国高級スーパー「ホールフーズ・マーケット」44店舗でも販売するまでに大成長したのだ(2017年12月時点)。


Eric Wolfinger Photography

Eric Wolfinger Photography

Eric Wolfinger Photography

 また、カンボジア人難民ナイトが営むヌードルショップ「ニュン・バイ」は、フード誌ボナペティにて米国の新規レストランベスト10として紹介され、昨年ベーカリーを開店したパレスチナ・シリア系アメリカ人のリームは、“料理界のアカデミー賞”とも称される「ジェームス・ビアード賞」のベストシェフ(西海岸)に選出された。
 また、初のアジア人男性として日本人男性がはじめたおにぎり専門チェーン「オニギリー」は現在5店舗展開し、日本人女性がはじめたオーガニック味噌や麹をつかった食品を販売する「叡伝(エイデン)」はメディアでも多く紹介され、ローカルに日本食の魅力を広めている。「これまでにプログラム卒業生が起こした事業のうち、1店が閉店し2店が売却されてしまいましたが、30の食ビジネスが成功しています」。

 ラ・コシーナは、卒業生の“その後”もちゃんと追う。「昨日も卒業生のお店3軒を訪ねました。現在抱えている問題点や今後のゴールなどについて話してきましたよ。今後は、もっと卒業生をどうサポートしていけるかも考えていきたいです

治安最悪のドヤ街に新店オープン予定。地域のフードデザートを潤わせる

 さて、ラ・コシーナの本拠地・ミッション地区からやや北に上ると「テンダーロイン」という地区がある。ホームレスシェルターや低所得者専用住宅が立ち並び、路上にはホームレスや薬物中毒者、ドラッグディーラーがうよめく悪評高い街だ。ラ・コシーナはこのドヤ街に、新たなフードホール建設を目論見中。ちなみにこの周辺には、タバコや安いお菓子、宝くじを販売する店しかなく、食料品店はゼロ。まともな食にありつけない、いわゆるフードデザートだ。


Eric Wolfinger Photography

 市からは約1億6,000万円(150万ドル)の出資が約束。ゲーティカは「これはチャレンジですね」ともらすも、全力で計画を進める。そのフードホールでは、7人のラ・コシーナ卒業生がブースを構える予定だ。低所得者であった移民女性たちが、健康な食にありつけない街の低所得者たちに質のいい手頃な価格の食事を提供することで、地域の“いい食”を循環させていく。

 ここ数年で「移民」が世界中で論議の対象になり、移民を支援するサービスも一気に増えたが、ラ・コシーナは、もっと昔、13年前から〈食の起業家になりたい移民のお母さん〉を支援しつづけてきた。来年は、しっかり育った起業家たちと二人三脚で地域のフードデザートを自慢の味と懐かしい匂いで潤わせる。

Interview with Geetika Agrawal


Luke Beard Photography

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Eye catch image via Eric Wolfinger Photography
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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