露店商人からセレブ御用達ディーラーへ。カニエやリアーナにビンテージTシャツを売る男
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カニエ・ウェスト、リアーナ、ファレル・ウィリアムスにTシャツを売る男。パトリック・マタモロス(Patrick Matamoros)。40代。カリフォルニア在住。職業、ビンテージTシャツディーラー。

「みんなよく俺のことをこう喩える、“すっげえやり手のドラッグディーラーみたいだ”って(笑)」

セレブリティの顧客を抱えているパトリック。かなりやり手のTシャツディーラーのお店、実は住所不定なのだ。

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店舗もネット販売もなし。口コミだけで広がった完全予約制のTシャツショップ

 5人ほどのスタッフと共にビンテージTシャツショップ「CHAPEL NYC(チャペルNYC)」を展開するパトリック。ロサンゼルスとニューヨークに600枚ほどのTシャツが眠るショールームがあるのみで店舗は実在しない。
 そんな隠れショップで買い物するのに必要なのは、そう彼の電話番号。つまり基本的に彼からTシャツを買うには、彼と面識がある人や彼からTシャツを買ったことある人の知り合いである必要がある、という少し敷居の高い完全予約制の”お店”である。

 限られた顧客のためにパトリックは国境を越え彼らの自宅を訪ね、電話やスカイプ、フェイスタイムで商品を見せる。そしてお客さんに売る前には、必ず自分で着てみて、生地の肌触りや着心地を確かめ、ショールームを訪れた彼らのために完璧の一枚を探すのだ。

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 ついこの間も顧客のためにロンドンに売りに行っていたパトリック。高いシャツから手頃な価格のシャツまで持って行った数は300枚。

「店舗は持ちたくない。クライアントとの関係がとても大切で個人的なものだから。お客がショールームに来たら、その人にしか似合わないようなTシャツを一緒に探すんだ。“探す”というよりも“発掘する”みたいな。決して押し売りはしない」。

ビンテージTの世界 きっかけは従姉妹から借りたビートルズT

 人生初のビンテージTシャツ経験は、中学2年生のビートルズT。

「パンク少女だった年上の従姉妹のクローゼットから拝借して学校に着て行った。そうしたら想いを寄せていたクラスメートのメキシカンのゴス系女子に、そのTシャツいいねと褒められたんだ」

 なんとも淡い、ビンテージTシャツ人生の原体験。その後パンクやスカなどの音楽少年期を過ごし、古いもの好きだった彼はビンテージTシャツの世界に足を踏み入れることとなった。

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 転期は、10年前ニューヨークに住んでいた頃。週末フリーマーケットでビンテージの服やレコードを売っていたパトリックは、ある日路上でTシャツを売っていた男を手伝うことになった。初日に稼いだのは2000ドル(約22万円)。
「なんだよ、いいビジネスじゃん」。こう思った彼は、ソーホーの路上で毎日お店を開くことに。市が路上での商品販売を禁じていたため逮捕されたりするうちに、徐々に“路上の商人パトリック”に顧客がつくようになった。

 次第にスタイリストの目に掛かり、ミュージックビデオや雑誌のモデルに商品を提供することに。スタイリストたちは他の同業者にパトリックのことを教えたくなかったため、業界内で彼の名が知れ渡ることはあまりなかったが、それも時間の問題だった。カニエとリアーナが着たTシャツが「CHAPEL NYC」のものだったとわかると彼の名は一気に広まることとなる。

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CHAPEL NYCの顧客はコレクターよりファッショニスタ

「俺のお客はニルバーナのTシャツだろうがローリングストーンズのTシャツだろうが構やしない。要は『抜群に似合っていて、着心地がいいかどうか』ってことだ。くたびれた中古のバイクみたいにさ」。

 1週間前にニューヨークで手に入れたというイギー・ポップ(パンク界のゴッドファーザー)のビンテージTをまとったパトリックはこう言い切る。
「彼らはビンテージTシャツのコレクターというよりかは、ファッション志向の人たちなんだ」。

Tシャツが“ビンテージ”になるためには

 今の時点で「ビンテージTシャツ」とは厳密に言うと1996年より前のものを指すのだそう。
 最近のトレンドは、90年代後半から2000年代初期のポップシンガーTシャツ。マライア・キャリーやスパイスガールズが売れ筋だとか。50セントやエミネムなどのラッパーTシャツも然り。「スパイスガールズのTシャツなんて仕入れたとして一瞬で消えるようにしてソールドアウトするんだよ、一瞬で」らしい。

 バンドやコンサートTシャツ以外にも、ルーニーテューンズなど昔のアニメキャラやハーレーダビッドソン(バイクメーカー)やジャックダニエル(ウィスキーの銘柄)のビンテージ物も取り揃える。

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「価値のあるレア物だけを探しているディーラーは退屈だと思う。たとえば日本やマレーシア、中国のディーラーと競ってどっちがどれだけレア物を集められるか、みたいな。俺はそのビンテージTシャツが70年代のものだろうと、80年代、90年代だろうと構わない。一番大事なのは、その人に似合うかどうか、ということだ」。

 自身もDJをするほどの音楽人でもある彼。「CHAPEL NYC」のバンドTシャツやコンサートTシャツはそんな彼の音楽眼からセレクトしてきたもの。また高校時代に見過ぎたというテレビアニメへの造詣もかなり深い。自身のカルチャー知識を駆使し、ビンテージからいいビンテージを選り抜き買い付けする。

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「最高の一枚を見つけた時は、どんなドラッグだって敵わないようなエクスタシーを感じるよ。1日かけて1000枚のTシャツを見て回って、最後の最後にその一枚を見つけた時。ニルヴァーナ(至福の境地)だね、俺にとっては宗教的な一瞬なんだ。だからこのブランドを『CHAPEL(チャペル、礼拝堂)』って名付けたんだよ」。

 CHAPEL NYCのTシャツは一枚一枚が特別でなければならない。平均的なものなんてないのだ。

 そんなパトリック、年間何枚のTシャツを売っているか数えたことがないという。「ビジネスとして続けて成長していくためにはたくさんのTシャツを売らなければならない。けど、一番重要なのはTシャツが正しい家に帰ること。俺はそのTシャツにふさわしい“親”を探している」。

ホームレスから買ったビンテージもの

 企業秘密だろうなと思いつつ聞いてみた、「どこから買い付けているの?」にはやはりこの答えが。「その質問に答えるのは難しいね。この電話番号に掛ければいいってわけじゃないからさ。まあ言えるのは、常に探求しているってこと」。

 一つ面白いエピソードを教えてくれた。

「ロサンゼルスでバスに乗ってた。そしたらホームレスっぽい人がいて、その人のTシャツが目に入ったんだよね。1976年のレイナード・スキナード(米ロックバンド)のTシャツだった。隣の席に移動して話しかけ、お願いしたんだ。「売ってくれないか」って。彼、同じシェルターのホームレス仲間からもらったばかりで気に入ってるから、と最初は売るのを渋ったんだけど、結局交渉成立して彼には新しいTシャツを買ったよ。」

 そして肝心の値段が決まるのは、買い付けの旅から帰ってきた後。体つきや性格も違う友達を5人ほど集めて試着会をするという。手にとって見た時は100ドルくらいだと思っていたものも、友達の一人が着てそれがすごくよかったら400、500ドルに設定するのだとか。「『1975年のストーンズのTシャツだから、この値段だ』とは決めていないよ」

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 ビンテージTシャツディーラーであるとともに、顧客と服をマッチングを手助けするスタイリストのようでもあるパトリック、ディーラーとしての哲学たるものをこう語った。

「ガキの頃、店で新しい靴を手に入れたら早く外に出て履いて歩きたかっただろう? 俺のゴールは、お客さんがそれと同じ気持ちで、俺から買ったものを店の外に出てすぐ着たくなるような気分にさせることなんだ」。

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これまで世界のビンテージTを売りさばいてきた彼に、最後に一問一答してみた。

Q:一番高く売ったTシャツは?
A:シャーデー(英女性シンガー)のTシャツ。売りたくなかったけど、2000ドルで。もう一度出会うことのないTシャツだと思う。

Q:安いものは?
A:86ドルから150ドル。

Q:デートに着ていくなら?
A:今着ているイギー・ポップの。
あ、ちょっと待って(何かを取りに行き)この超やわらかくてゆったりしている(アボカドみたいなキャラが描かれた)レッドツェッペリンの。女の子のパジャマにしてもいいかも。

Q:一番のお気に入りは?
A:ビートルズのマジカルミステリーツアーTシャツ。これは絶対に売らない。

 取材後、パトリックから来たEメール。そこにはこう書いてあった。あるTシャツがさっき1200ドルで売れた、と。そのTシャツは帰るべき家に帰っていったのだ。

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Photos by Dirk Mai
Text by Risa Akita

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