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  • Mar 17, 2017
囚人ポッドキャスト誕生。塀の中から伝える「30分の獄中リアリティ」〜刑務所の“立ち聞き話”、教えます〜
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悪名高き、カリフォルニア州最古の刑務所「サン・クエンティン州立刑務所」。全米凶悪犯罪者などおよそ5000の囚人が暮らしている。その昔ジョニー・キャッシュが慰問コンサートを行ったことでも有名な全米有数の監獄だ。
  
彼らが送る“獄中生活”。ついメディアや映画、ドラマで見た「暴動・看守との癒着・脱獄」を思い浮かべるが。今回は、そのイメージからは見えてこなかった刑務所のリアルなストーリーを紹介しよう。

大学教授と囚人。凸凹トリオの“あけすけラジオ番組”、誕生

「俺らのミッションは、“刑務所の住人”の知られざるライフストーリーをリスナーに届けること。ハリウッド映画やメディアが煽り立てるクソみたいなステレオタイプ抜きで。この番組で語られるのは、本当の話」
 今夏に開局を控えたポッドキャスト(インターネットラジオ)番組『Ear Hustle(イヤー・ハッスル)』は、いうなれば“プリズン・ポッドキャスト”、囚人たちが刑務所内から発信する。

Radiotopia Interveiw copy

 初の刑務所発ラジオ番組、制作チームがおもしろい。アーティストで大学教授のナイジェル・プア(53)、囚人のアーロン・ウッズ(45)とアントワン・ウィリアムス(28)。ひとりの白人女性大学教授とふたりの黒人男性囚人という、人種・性別・年齢・社会的地位もバラバラな凸凹トリオだ。

 唯一の“塀の外の人間”ナイジェル、「私たちはストーリーテラーです」。いままであったジャーナリスティックな犯罪レポートでもなく、バイアスのかかったメディア報道でもない。1エピソード30分の『イヤー・ハッスル』はかなり“あけすけ&クリエイティブな”番組らしい。

Antwan, Earlonne & Nigel copy copy
左奥がアントワン、右奥がナイジェル、手前がアーロン

30分の番組内容:「面会でのセックス話」「刑務所クッキング」「ムショ内でのペット」

「リスナーに“俺たちの世界”を見せてあげるんだ。フィルターなしにね」とサウンドデザイナーをつとめるアントワン。共同プロデューサーのアーロンも「俺たちが届けるのは“一人称の物語”さ」とつけ加える。

 番組が徹底して追求する塀の中の「リアリティ・真実・本当」。それは、刑務所内の庭で食事の列で繰り広げられる、囚人同士の雑談にある。「おもしろそうな話を小耳に挟んだら声をかけて突っ込んでみたり、何か小話ないか? と行き当たりばったりで聞いたりもするんだ」

Earlonne & Nigel Hosting copy

 で、実際の小話から生まれてるのがこの番組の内容。タイトルだけでわかるこのテーマのバラエティさ。

・「母親との関係の築き方」
・「ムショ内でのペット事情」
・「囚人ファッション」
・「刑務所クッキング」
・「刑務所で迎える死」
・「許された15分の電話」
・「面会部屋でのセックス」

 ちなみに刑務所内ではペットや私服はもちろん禁止。それでも隠れてネズミや鳥、クモ、ゴキブリ(!)など所内の庭や部屋で見つけた生き物を“ペット”にしたり。シャツの袖を捲り上げる、パンツをずり下ろしてストリートスタイルにするなどして“ファッション”を楽しんだり。

 それから囚人の料理(料理の上手い囚人も多いらしい)、入所初日の回想録、面会に来た家族や恋人とを繋ぐ15分間の電話内容、そして超スキャンダラス、面会部屋でこっそり行われる恋人や妻とのセックス話まで…!
「『え、知らなかった!』『どういうこと?』。私たちが求めるのは、一般人のこんな驚きです」とナイジェルは笑う。

「塀の中と外の人間同士が協力して仕事をこなすことができる」

 刑務所のメディア・ラボは、三人のクリエイティビティとスキルが呼応し融和する場だ。
 三人ともラジオやポッドキャスト制作の経験がない。そのためプロのサウンドデザイナーの助けを借りながら、囚人インタビューや収録、編集、サウンドデザインなどすべての作業を一緒に学んでいく。
 大学教授のナイジェルは、番組制作にその肩書きを持ち込まない。あくまでも素人の視点を忘れず、一般人の代弁者として素朴な疑問をアーロンとアントワンに投げかける。「彼らが先生で私が生徒の時もあります」

Antwan Working copy
ちなみにこれらのイラストはアントワンが描いたもの

 そんな謙虚で飾らないナイジェルの姿勢に、アーロンは「彼女はいつも俺に『自分らしくいなさいね』と。自信を与えてくれる存在だ」、アントワンも「俺のことを囚人ではなく“同僚”として見てくれる。相手を尊重する大切さを教わったよ」と感謝を口にする。

 ナイジェルも“同僚たち”をこう評する。「アーロンは思慮深く、いいチームプレーヤー。一歩引いて的確に行動することができます。チームに若いエネルギーを注入しているのは、アントワン。新しいアイデアを恐れずに試す、行動派ですね」

 個性も人生経験もかけ離れたトリオがお互いの感性やクリエイティビティを尊重して一つの作品を創り上げる。「塀の中と外の人間同士が協力して仕事をこなすことができるということを、世に伝えたいのです」

Antwan Earlonne & Nigel

現場で得られる外界からの評価

 アントワンの刑期はあと3年。アーロンは仮釈放まであと21年。二人とも自由の身になった暁には、オーディオプロダクションのキャリアを目指したいという。

 番組制作をサポートする現場のプロからも二人の評判は抜群。「彼らの才能や賢さ、創造性にみんな感心しているわ」。いま築いているコネクションが、これから広がる世界で役立つことをナイジェルは願う。

We did it!! copy

「仕事に対する姿勢を身につけられた。1日10時間勤務をこなすのが楽しい」とアントワン。仕事にやりがいを感じるのも、周りからのフィードバックがあるから。アーロンは「俺の働きぶりを知って家族が誇りに思ってくれた」

 それから、伝説のラッパーTupac(トゥパック)が遺した詩の言葉を借りてこう言った。「『イヤー・ハッスル』は、“コンクリートに咲いたバラ”さ。不可能を可能にし、障壁を物ともせずベストを尽くすんだ」

 囚人のリハビリ、刑務所のステレオタイプ打破、リスナーへ届ける質のいいエンターテーメント、出所後のキャリア。ふたりの囚人とひとりの教授が咲かせたバラは、可能性という名のつるを自由に無限に伸ばしていくだろう。

Ear Hustle

記事中人名の英語表記:
ナイジェル・プア(Nigel Poor)/ アーロン・ウッズ(Earlonne Woods)/アントワン・ウィリアムズ(Antwan William)

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All images via Ear Hustle
Text by Risa Akita
Edited by HEAPS

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