財政破綻のデトロイト・シティで、アーティストが着々と進める「コミュニティ・ビルディング」
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もしも自分の住む都市が財政破綻に近づいていたら? 食料を確保し、ガス、電気、水の供給、つまりライフラインについて心配するだろう。それから、「そうなったら一体誰が頼れるか」という疑問…これに対しては最後まで出てこなさそうなのがアーティスト、じゃないだろうか。
だが、財政破綻を経験した都市といえばの「デトロイト・シティ」で、崩壊前から活躍していたのはアーティストだった、という話を知っているだろうか?

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人口は半分まで減少。リッチな都市は最悪のスラム街へ

 2013年、負債総額180億ドルを抱えて、デトロイトは財政破綻した。ネットにあがっているビフォーアフターなんか見ると完全に「廃都市」。建物の窓ガラスは割れ、ストリートはゴミだらけ。もはや誰も寄りつきたがらないゴーストタウンと化していたが、DIY精神で「自動車がダメなら自転車だ!」と、自転車レーンを自分らで作り、市営がダメなら私営だ!と市がストップしたバスの便を私的に復活させたり…土壇場になってたくましい快進撃を見せてきた。これぞまさに火事場の馬鹿力かな。

 さて、そのデトロイトで、ひたひたと足音をさせながら近づく破綻の数年前から、街に可能性を見出し、再生のために動いていたアーティストたちがいる。彼らはアートを利用し、空き家だらけのエリアで、「コミュニティ・ビルディング」を成功させていた
 
 破綻した街の再生のために、アーティストが何をしたのか? その再生プロジェクトを率いたPower House Productions(パワー・ハウス・プロダクションズ、以下 PHP)のジーナ・レイチャート(Gina Reichert)に連絡を取ってみるとメールでの取材を快諾してくれた。

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財政悪化中にマイホーム購入。だって「デトロイトっておもしろい」

 建築家・空間デザイナーのジーナが、パートナーでありアーティストのミッチとPHPに着手した2009年こそ、デトロイトの経済悪化がいよいよ本格的になり、上りきったジェットコースターのごとくあとは落下するだけ…と多くが確信した年だった(ゼネラルモーターズ、クライスラーの破綻)。
「デトロイトが崩壊する予感は2001年にこの街に移り住んだときから、ずっとありました」というが、ジーナたちは2005年にマイホームを購入している。一体、なぜ?

「デトロイトが魅力的だったからです。これまでの、いわゆる経済システムはこの街で機能しなくなっていた。市民運動も激化。果たしてこの後どうなるか、ということに興味があったのと、そういう街でしかアーティストとしてできないことが必ずある、と思ったからです」と話す。

 マイホームの購入が足掛けとなったPHPとは、「アーティストの家を拠点に、コミュニティを築き、街の長期的な安定をはかり、再生させていくプロジェクト」だという。

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—アーティストとして、コミュニティづくりのために、どこから着手したのか教えてください。

空き家になっていた家を改装しました。自分たちで購入した20万円の家(元・ドラッグの温床)を手始めに、周辺の“空き家群”も購入して改装することにしたんです。暖房機能もガスや水道の配管もダメになっている家ばかりでしたから、もうマーケットでは価値がない。なので、“人が住みたくなる新しい価値”を、自分たちで足していこうと思いました。カラフルな家、スケートランプが家のど真ん中にある、壁を抜いて開いた空間にしイベントができる家…“アーティストたちが住みたくなる特別な家”に改装しよう、と。
また、Powe House Prouctions、パワーハウスと名乗るだけに、ソーラーパネルと風力で電気を自給します。もともと暖房などがダメになっていたので….ネガティブなポイントをポジティブに変えた家(環境にも優しい)、というところでしょうか。また、デトロイトという街で、問題を自己解決しなるべく自給自足できるということこそ、モデルケースになると思います。

—資源や財源は?

財源は自分たちの貯金からと、他方からの支援です。資源は…デトロイトにあったゴミです。使えるものがたくさんありました。積まれたゴミだって破綻した街では資源になる。何かを価値あるものにする(ここではゴミを資源に変える)のも、アーティストの仕事です

2009年、デトロイトでは財政悪化によって差し押さえが加速度的に増え、空き家がどんどん増えていた。それらの家がいくらになるのか、購入までのプロセスはどうなるのか…これがとても複雑で面倒だった。誰もやりたがるはずがない。となると、誰も住んでくれない。
なので、ここを私たちがやることにしたんです。不動産がさらに暴落したとき、空き家は100ドル、500ドルとなったので購入し、買い手を探しました。「デトロイトに、100ドルの家、あります」って。

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—コミュニティはどう変わっていったのでしょうか?

最初は、改装した家にアーティストや“物好き”な人たちが興味を持ち、短期滞在でも長期滞在でも住むようになったんですね。安い家を購入したら、今度はそのアーティストたちも家を改装するようになります。そして、アーティストたちが協力し、コミュニティが集まれる場所を作っていった。家を安く貸し、アーティストたちとコミュニティへ還元するアイデアを出し合っていく。すぐに、アーティストだけでなく近所の人々が集まるようになりました。アーティストの家を起点にして、コミュニティで催すイベントをスタートさせたんです。
どうすれば家がただの生活の場以上の空間として、そしてストリートに存在する触媒になれるか。それが、コミュニティ再生、街の再生を試みるアーティストの課題です

—特に変化を見せたスポットなどを例にあげてください。

路地裏なんかは比較的早く改善されました。子どもたちが遊び場として選ぶのが路地裏なんですね。手近に開けたスペースが他にないからです。だけど、路地裏は不法投機や犯罪が多発するスポットでした。これは家々の外壁などのカラーを明るくするなどして、状況は劇的に改善されました。また、4つの空き地を繋げて、スケートパークを作りました。これで、遊具がなくても子どもたちが自転車やスケート板があれば楽しく遊べる場所になった。
また、PHPでは子どもたちが家を塗ったり、庭で遊んだり、彼らのために自転車のメンテナンスなんかもするようにしています。コミュニティ・ビルディングでは、住人たちが、自分たちの住んでいる場所、コミュニティに興味を持ち、参加したいと思うことが不可欠です

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—アーティストだからコミュニティ・ビルディングができた要因は何でしょう?

アーティストが“利益追求型ではないから”だと思います。確かに、利益主導で動けばマーケットが復活し比例して職も増えるでしょう。でも、コミュニティは利益で作ることができません。それに、デトロイトは一度財政破綻をしています。誰が安心してこれまでのマネールールに乗っかるでしょう。
確かな繋がり、金銭以上の繋がりがないと強いコミュニティはできません。そして、コミュニティが生まれなければ、街は再生しません。短期的な解決でなく、そこを人が住める場所として長期的に解決する、それがコミュニティ・ビルディングです

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「資本主義が崩壊し、これまで生活の大前提だったものがなくなった。その街に残るというオプションを取ったとき、どう生活していけるのか。デトロイトは、市全体でそれを模索し、自分たちなりにやってきた。この先の世界各地の都市への、良い例になれたと思います」。信じきっていたものが崩壊するのは、思うよりもあっという間かもしれない。デトロイトという破綻と再生の街から学ぶことは多い。

Interview with Gina Reichert from Design 99/Power House Productions

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All images via Power House Productions
Text by Tetora Poe
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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