いまどきの若者は、グリーンスムージーを飲んでオーガニックフードを食べているのではなかったか。ヘルシー志向が高まる一方で、ファストフードを声高かに支持するファッショニスタもいる。中でも、マクドナルドやピザハットなどのメガチェーン店の支持率が昇り気味だ。どうやら、有名ファッションデザイナーとファストフード・チェーン店のコラボにその一因があるようだ。デザイナーがファストフードをクールなものにしているのか、はたまた、ファストフードがファッションを斬新にしているのか。いずれにせよ、この二つは非常に相性がよろしく相思相愛なのである。
ファッションとファストフードのコラボが加速した2017年
Photo: ©︎Jayson Keeling
ホワイトキャッスルの制服。
ファッションとファストフード店のコラボレーションはいままでにもあったが、昨年2017年は特にそれが頻発していた印象だ。まず、スニーカーのカスタマイズに定評のあるシュー・サージェン(Shoe Surgeon)が、「ピザハット」とコラボ。3月から4月にかけて開催されるマーチ・マッドネス*期間に合わせて、64足限定のハイテクスニーカー「Pie Tops」を発表した。
続いて夏に発表されたのが「マクドナルド」と英国デザイナー、ジュリアン・マクドナルドのコラボ。“ラグジュアリー”バーガーの発売に合わせて、マクドナルドはジュリアン氏に、“ラグジュアリー感のある”期間限定バーガーボックスのデザインを依頼。他には、日本でも行列の続いたタコベルと「フォーエバー21」の限定コラボ「ロングTシャツ」というのもあった。
*March Madness、全米大学体育協会男子バスケットボールトーナメント。
著名デザイナーに制服デザインを依頼したマクドナルド
ファストフード店が自社の制服のデザインを著名デザイナーに依頼するケースも。米マクドナルドは、米国ファッションデザイナー、ワライエ・ボスウェル(Waraire Boswell)に依頼し、それまでのイメージをモダンに一新。1940年の創業以来、なんども制服のデザインチェンジを行ってきた同社だが、著名デザイナーに依頼するのはこれがはじめてだという。
また、NY出身のデザイナー、テルファ・クレメンツ(Telfar Clemens)が、創業1921年の米国バーガーファストフードの先駆者「ホワイトキャッスル 」のために1万2,000着の制服を作ったことも記憶に新しい。その時のキャップ(50.99ドル) やTシャツ (120.99ドル) は、カプセルコレクションで一般向けに販売され、即完売となった。
ハイとロウの「限定」コラボ。ロゴ遊びが生む双方の利点
いまでこそ注目のデザイナーとして知られるテルファ氏だが、まだ十分な資金を持ち合わせていなかった頃に快くスポンサーになってくれたのがホワイト・キャッスルだったそうだ。つまり彼にとって、ホワイトキャッスルは恩人。限定品は、あえてマンハッタンのしゃれたセレクトショップなどにはおかず、ちょっと離れた住宅地にあるホワイトキャッスルに行かないと買えなくしたのは、同ファストフード店への恩返しの意味を含み、同時に「社会政治学的な試みでもある」と主張。デザイナーズブランドだろうとファッションはみんなのものであり、コラボするうえで、アートもファストフードの世界も「僕にとっては同等。そこにヒエラルキーなどあるべきではない」というメッセージが込められているという。
思想としては、アンディ・ウォーホルが大衆社会を象徴するキャンベルのスープ缶をアートにもちいることでそれまでのハイアートを解体し、アンチテーゼとして、ローアートの新境地を開拓したのと似ているのかもしれない。ただ、アンディ・ウォーホルが表現した大量消費文化を嘲笑うような皮肉はない。いや、違う種類の皮肉はあるにはあるのだろうが、17年バージョンは「ハイ&ロウ(High & Low) 」の「ハイ」の方が「ロウ」に寄り添い、「僕らそんな高飛車じゃないから。ストリート大好きだし、みんなと仲良くしたいから」と、なんだか態度が丸くなっている。
もちろん、ハイとロウの双方にとっての利益があるからコラボが起こるわけで…。ファストフード店側にとっての利点は、ファッション、なかでもデザイナーズおよびハイファッションという従来とは異なる市場で認知度(及び好感度)が高まること。また、自社の制服が「ハイセンスなもの」だと認識されるようになれば、それを着て働く従業員のモチベーションも上がり、結果的により良いサービスにを提供することに繋がるというものらしい。
Photo: ©︎Jayson Keeling
ホワイトキャッスルの制服。
一方、デザイナー側にとってのメリットも半端ない。コラボ相手のファストフード最大手の存在は世界中で知られており、そのロゴは国境や宗教を超えたユニバーサル・ランゲージと言っても過言ではないからだ。彼らデザイナーも著名であるとはいえ、その名が知られているのは、せいぜいファッション業界とファッションに興味のある人々の範疇。世界の巨大な「マス(大衆)」を相手にするファストフード大手とは、コアターゲットのタイプも規模も異なる。しかも、ファストフード店に足繁く通う若者を中心とした消費者は、デザイナーたちがこれまで接点を持ちにくかった層。そこに、誰もが一度は手にしたことがある親しみのあるロゴをもちいることで、ブランドをアピールできる利点は大きい。
売れてもコラボは「限定」に限る。アクセスの最小化はインパクトの最大化!
かつて、ロゴは直接面と向かって会う人にしか作用しなかったが、いまではインスタグラムをはじめとしたSNSの普及によりロゴの力が作用する範囲は格段に広がった。そんな風潮の中で、わかりやすいロゴを求める傾向が高まっているようだ。コラボはコラボでも、ロゴをデカデカと強調した視認性が高いデザインが多いのも、インスタ上での「わかりやすさ」を考慮に入れた結果だと言われれば妙に納得できるし、インスタグラムのアクティブユーザーである若い世代が好んでこれらに飛びつくのも、「わかりやすさ」と、それゆえのおもしろ味により多くの共感 a.k.a.「いいね」を獲得できるからではないか。聞いたことはないけれど注目されていそうな海外デザイナーの服、という印象だけではいくらスタイリッシュでも「いいね」の裾は広がらない。世界中の誰もがわかるファストフード大手のロゴが入ることで急激に親しみやすさがアップし、気軽な「いいね」投票を誘導することにも繋がる。
また限定は「レア」とほぼ同義語で、消費者がいつでも買えるものよりレア商品に熱狂する傾向があるのは周知の事実。つまり「限定」のコラボ商品をつくることは、チェーン店にとっても、デザイナーにとってもインパクトを最大化できるので効果的といえる。くわえて、チェーン店にとっては、「限定」であることにより、ある意味デザイナーをとっかえひっかえし続けられるので話題に事欠かないし、デザイナーにとっては、大衆に向けて短期間に露出を増やしつつ、いつまでもファストフードのイメージ(安い、庶民的など)を引きずらなくて済む。上述のテルファ氏とホワイト・キャッスルのような、数年に及ぶ長い関係性を築いている“例外”もあるが、多くは「パッと咲いて、パッと散る」、そんな打ち上げ花火のようなコラボレーションである。もっとも、それが両者にとって手っ取り早くメリットを得られる手段だからなのだろう。
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Photos via Jayson Keeling
Text by C.Y
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine