カナダ最古、103年続く「人里離れた町の映画館」。アクセス最悪の町で“嫌われ映画館”はなぜつぶれなかった?
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カナダ、バンクーバー北にある人口2万1000人の小さな田舎町、Powell River(パウエル・リバー)。そこには、103歳を迎える国内最古の「映画館」がある。飛行機かフェリーでしかたどり着けない不便な町の映画館が100年以上続いてきたのには、ちゃんと理由がある。

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“103歳のご長寿映画館”。パトリシア・シアターへようこそ

 その映画館、名をPatricia Theatre(パトリシア・シアター)という。可愛らしい名前のシアターは、先述のとおり飛行機かフェリーでしかアクセスできないという人里離れた町「唯一の映画館」だ。

 1913年にヴォードヴィル(vaudeville)ショー(※)の小屋として誕生したパトリシアは、喜劇や踊り、歌、手品、ボクシングマッチまでもが開催される”なんでもあり”の娯楽施設だった。

※歌やダンス、コメディ、手品などの演劇のこと

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 映画館となったのはトーキー映画が主流となった1920年代後半。その後世界大恐慌、ドライブイン・シアターの誕生、テレビの普及などを生き抜き、昨年103歳を迎えた。

 オフホワイトとブルーがレトロな外観のシアター。チケットブースには、74歳のAnn Nelson(アン・ネルソン)が毎日座る。シアターを縁の下で支えてきた女支配人だ。

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結婚式場にも。真のコミュニティシアターの姿

 たんなる映画館ではない、というのがパトリシアだ。ヴォードヴィルやバーレスク、コメディーショー、地元ミュージシャンやダンサーのタレントコンテスト、ファッションショーまで幅広いラインナップは創設当初と変わらない。さらに、毎週日曜午後のグランドピアノやオルガンコンサート、クリスマスの合唱まで催し、さらには誕生日会、結婚式まで。春や夏には、結婚式の予約は増える。

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Photo by Tristan Wolf
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Photo by Tristan Wolf

「パトリシアが、人生でもっとも幸せな瞬間の場所として、一生思い出に残る。そんな素敵なことってないじゃない?」

 ライスシャワーならぬ“ポップコーンシャワー”、ビデオレターを映画スクリーンで上映したり。そんな演出も映画館ウェディングの特権。コミュニティのためにいかようにもなるから、パトリシアはいつでもコミュニティの中心に鎮座してきた。

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シアターの隣に広がるのは、アンが丹精込めて作り上げた美しいガーデン。ここでの結婚式が人気

嫌われ映画館だった時期も

 いまでこそコミュニティの愛されシアターだが、“嫌われ映画館”だった頃もある。
 絨毯や壁はくすみ、埃っぽい匂いが漂い、おまけに寒い。「廃れて古びた映画館」、それがパトリシア。客足は遠のくばかりで経営不振、閉館をせまられたこともあった。
 閉鎖危機こそ逃れても、運営や改修資金はいつも難航。息子とパトリシア立て直しをしてきたアン、「お給料もらったことなんてないのよ」。それどころか、自分の年金だってつぎ込む。

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 2012年、全北米の映画館にデジタル上映化が義務付けられたこの年も大変だったわ、と振りかえる。それまで、昔ながらの35ミリフィルム映写機ですべての映画を上映していた。デジタル化の機材購入費用は、およそ900万円。

「資金捻出方法について、町内会で話し合ったの。そのとき、90歳のメンバーがこう私に聞いてきた。
『町の人口は何人だ?』
『約2万人よ』
『じゃあ、シアターの利用客はどれくらいだ?』
『そうね、1000人くらいかしら』
そしたら彼、こう言ったわ。『じゃあ、1人90ドル。たった90ドルで資金は集まる』」

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 2年前にスプリンクラーの故障で場内が水浸し修繕が必要になったときも、救ってくれたのはコミュニティの寄付。嫌われ映画館は、コミュニティの愛情を得ながら少しずつ綺麗に変身していった。

彼女の住まいは、映画館

 女支配人アンの1日は早い。早朝6時30分にはデスクにつく。
 映画技師の息子と親子二人三脚で歩んできた14年。寝ても覚めても映画生活の彼女は、パトリシア・シアターの2階に住んでいる。

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Photo by Tristan Wolf

 デスクにつけばメールチェックにお天気チェック。
 映画館にとって天候は重要。お天気の悪い日や寒さが厳しい日には、お客が6人ほどしか来ないことだってある。客足を左右する天気には常に気にかけ、スタッフの数を調整する。
 
 ポップコーンやドリンクの手配や支払い、お庭の手入れ。そして一番重要な仕事が、配給会社への電話や映画レビューサイトチェック。上映映画をセレクトするのは彼女だ。
 何時間もムービーデータベースやソーシャルメディアで話題の新作映画リサーチしたり、ティーンの子どもを持つスタッフにおすすめ作品を聞いたり。

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写真左は、アンの息子で映画技師のブライアン

 ときには監督自ら上映依頼をよこしたり、コミュニティからリクエストも来る。地元のカトリック団体からは『パッション』やバイカーグループから『イージー・ライダー』、自然保護団体からの環境問題ドキュメンタリー。
 小さな子どももいるコミュニティのために、家族向け映画やコメディ、アクション、アドベンチャーなどをまんべんなく選ぶ。

 春や秋にはアートフィルムや海外作品の上映週間も設け、幅広いコミュニティの客層の好みを考慮し、「みんなの映画館」にしていくのだ。

午後4時に目覚めるパトリシア。コミュニティが共有する「上映時間」

 上映のあとの日課が一番大切な時間だという。息子と一緒に出口に立ち、会場を後にするお客さん一人ひとりに手を振って見送りする。「この時間を一番大切にしているわ。お客さんから映画の感想を聞いたりして次回の参考にできるのよね」

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 思い出深い日々は数え切れない。

 大盛況だった『ハリー・ポッター』や『ロード・オブ・ザ・リング』『スターウォーズ』シリーズ公開時には、地元のスターウォーズマニアがダースベイダーのコスチュームでお客を出迎え。毎年恒例のロックミュージカル『ロッキーホラーショー』のミッドナイト上映には、登場人物のコスチュームで着飾ったお客がパトリシアに集まる。

 映画館での一番好きな瞬間は、「上映中、オフィスに座っていてね、下の階からお客さんの威勢のいい笑い声が聞こえてきたとき。この建物にいるみんなが同じ楽しい瞬間を共有しているって実感できるの」

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Photo by Tristan Wolf

 常連客には、70歳以上のお年寄りが多い。デジタルサウンドシステムを導入したことによって、耳の遠い彼らもよく聞こえるようになった。

「毎週決まってやって来る70代のカップルがいてね。バルコニーの下に特等席があって、いつもぎゅって抱き合いながら見ているの。その姿の愛らしいことといったら」

 看板猫のプリンセス・ディーバも、時折、常連客の膝の上にやって来てちゃっかり映画鑑賞に参加したりもする。

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Photo by Tristan Wolf

「パトリシア・シアター」を一言でたとえるなら、とアンに問いかけるとこんな答えが返ってきた。

「パトリシアはね、気品ある年老いた女性よ。新しいお洋服は買っていないから衣装ダンスは昔のままで古めかしい。だけどね、身なりはきちんと整えてお化粧もする、品位と自尊心に満ち溢れたおばあさん、かしらね」。アンにとっても住民にとっても、パトリシアはいつでもそこにいてくれた町一番の古顔、欠かせないコミュニティの一員なのだ。

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Patricia Theatre
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Photo Courtesy: Patricia Theatre
Text by Risa Akita

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