ロンドン郊外のある工房。毎日毎日職人たちの手によって“まあるい球”が生み出されている。
アクアブルーにミント、セピア色。誰しもが一度は触れたことのある、地球儀だ。
ここは「Bellerby&Co. Globemakers(ベラビー&コウ グローブメーカーズ、以下ベラビー)」。
世界でも稀有な「手作り地球儀工房」へようこそ。
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Photo by Andrew Meredith Photography for OnOffice Magazine
地球儀に取り憑かれた男がはじめた、ビスポーク・地球儀店
「人間はいつの時代も、自分たちが住む惑星(地球)に自然と興味を掻き立てられてきた。太陽や月を愛でるように。だから、その地球の模型、地球儀には神秘的な何かがあるのだ」
地球儀の魅力について語るのは、オーナーのPeter Bellerby(ピーター・ベラビー、52歳)。地球儀を愛してやまない、工房の生みの親だ。
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Photo by Alun Callender
でも、実は「地球儀職人になるなんて思ってもみなかった」というピーター。地球儀をはじめて作ったのは8年前のこと。80歳になる父親への誕生日プレゼントに地球儀をあげよう、と思いつき、あちこち探し回ったが、意外とこれといったものがなかなか見つからない。
「それなら自分で作ってしまおうか」。数ヶ月で完成するだろうと製作に取りかかったのだが、市販の地球儀の地図にスペルや位置の間違いが多いことを発見してしまったため、なんと地図作りからはじめることに。
完璧な球体作りまでこだわりにこだわりを重ねた結果、お手製の地球儀ができたのは2年後だった。
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Photo by Jade Fenster
以来すっかり地球儀の虜になったピーター、2008年にたった一人で「手作り地球儀工房」ベラビーを立ち上げてしまった。その後一人、そして二人と弟子を増やし、いまでは15人の職人たちを抱えるまでになった。
一つ一つ手作り、しかもカスタムメイドとあって、ここのは値段が0一つ多い。
通常の地球儀は5000円くらいが定番だが。卓上用の一番小さな直径23センチの「The Mini Desk Globe(ザ・ミニ・デスク・グローブ)」でも999ポンド(約13万円)、直径80センチの巨大な「The Galileo(ザ・ガリレオ)」となると、12950ポンド(約177万円)。さらに直径127センチの特注「The Churchill(ザ・チャーチル)」は59000ポンド(約810万円)と目がくらむような金額。
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Photo by Jade Fenster
彼らの地球儀は、ハリウッド映画やBBCの番組にも使用されている
たとえば小学生の頃、学習棚の片隅にあったプラスチックのものしか知らない私たちからすると、手の届かない、憧れの高級地球儀の世界だ。
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Photo by Ana Santl
球から色付けまで全部ハンドメイド。“地球”はどうやって作られる?
地球儀づくりは、正確な地図作りからはじまる。ベラビーでは、製図家による緻密な世界地図を使用。
その世界地図を切り分け、手塗りで海の青、陸の茶を入れた後、地図ピース(gore、ゴア)を真っさらな白い球に貼り付けていく。これが一番大変な作業らしい。
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Photo by Jade Fenster
ペインターたちがさらに色を重ね、仕上げにニスを塗って、“地球”誕生。梱包から配送までみんなで協力し、世界中の顧客の元へ届けるのだ。
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Photo by Jade Fenster
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Photo by Jade Fenster
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Photo by Tina Hager
このように1つの地球儀は完成まで、球の作り手から球の支柱や台座を作る木工職人、金属工、製図家、ペインターなどさまざまな特殊技術を持った職人たちの手をわたっていく。そのため、小さなものでも1つ作るのにおよそ1ヶ月、大きなものとなると半年から8ヶ月はかかるのだという。
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Photo by Jade Fenster
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Photo by Stuart Freedman
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Photo by Jade Fenster
美しい色彩を施すだけじゃないのが、ベラビー流だ。贈り物用に支柱の部分にメッセージを刻印できたり、
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Photo by Jade Fenster
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Photo by Jade Fenster
太平洋にラブレター、
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Photo by Jade Fenster
ガラパゴス諸島にカメのイラスト、エジプトにピラミッド、大海原にヨットや船だって注文通りに描いてくれる。なんとも粋な計らいだ。
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Photo by Jade Fenster
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Photo by Jade Fenster
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Photo by Jade Fenster
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Photo by Jade Fenster
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Photo by Jade Fenster
夜空が好きな人には、天球儀もオーダー可能
倍率100倍。若い職人たちが叩く狭き門
「たとえば、家具が壊れたとき。簡単に捨てようとせず、どうやって直そうかじっくり考え行動に移すタイプの人」が、ピーターが言うところの“地球儀職人になれる人”。
アートやデザイン経験があることに加え、「クラフト・手作業が大好きであること」が大前提だ。
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Photo by Jade Fenster
現在職人たちの大半は、20歳前半から30歳前後と比較的若い(意図したわけではないそう)。
イギリス国内のみならずアメリカ、ブラジル、イタリア、ベルギー、南アフリカから集まった彼らの前職は3Dデザイナーやファッションデザイナー、エンジニア、フォトグラファー、フィルムメーカーなどのクリエイティブ職。
ベラビーの職人になるには、100倍の倍率をくぐり抜けなければならない。厳選なる面接の後、選ばれた者たちは弟子からはじめ半年のトレーニングを経て、「グローブメーカー(地球儀職人)」となるのだ。
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Photo by Tina Hager
ミリ単位の世界で手を動かす職人たちに必要なスキルは、ずばり「忍耐力」だとピーター。
ペイントブラシを握る時も球に型紙を貼る瞬間も細心の注意を払う。ペインティングに間違いを見つけたら一回水に浸してやり直しを繰り返す。
「地球儀作りには、かなりの集中力がいる。もはや瞑想の領域だろう」
地球儀のロマンを追求して。現代に蘇る何千年もの歴史と伝統
地球儀の起源は紀元前160年まで遡る。ギリシャの哲学者クラテスが作ったものが最古だと考えられており、現存最古は1492年ドイツの地理学者のもの。
16世紀の大航海時代には冒険家たちが地球儀を目の前に野望を抱き、日本ではかの織田信長や豊臣秀吉も所有、第二次世界大戦ではウィンストン・チャーチルやフランクリン・ルーズベルトが戦争の作戦を練るために活用した。
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Photo by Tina Hager
数千年の歴史と伝統を受け継ぐということ。職人たちは、その稀有な仕事の価値を日々噛みしめている。
木工職人として半年の見習い期間を終えて、地球儀職人になったイタリア出身の新人レオ(23)。「クリエイティブな環境で毎日新しいスキルを学んでいるよ。地球儀の醍醐味は、自分だけの地球儀上で人生や世界について思いを馳せられることかな」
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Photo by Shinola
ピーターの初弟子で、職人歴5年の古株ジョン(29)は、「アーティスティックな美しさもあり、実用的でもある地球儀。何千年もの歴史を受け継ぐことができるのは素晴らしいね」と話す。22歳で門を叩いたサムは「地球儀を前にして国境を指でなぞったりすると、自分という人間の存在がどれだけ小さいものかを実感できるよね。美しい“アート”である地球儀を伝統的な手法で作りづつけることができて光栄に思う」。
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Photo by Jade Fenster
ここの地球儀には決まったデザインモデルはない。「私たちの地球儀は一つとして同じものはない。一人のペインターが同じ色とサイズの地球儀を10個作っても、顔つきが少しずつ違う。それがハンドメイドの醍醐味であり美しさだ」とピーター。
一、自分が満足する地球儀を作ること。
二、顧客のテイストやこだわりを体現した地球儀を作ること。
顧客の思い描く地球を再現しつつ自分の技術や感性を最大限に活かす。そんなピーターの哲学を受け継ぐ15人の若き職人たちの根底にあるのは、真のクラフツマンシップだ。
Interview with Peter Bellerby
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Photos by Kasia Bobula for Zwykłe Życie
Text by Risa Akita