2050年には人口25億へ〈アフリカの未来とアイデンティティを握る、大陸の建築〉って?「国々を生かす“ローファブ”が鍵」

建材もデザインも技術も才能もアフリカ産。大陸全体で建てる、アフリカの未来と建築、アイデンティティ。
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2050年までに、世界全体の人口増加の半分を占めるいわれる場所がある。アフリカ大陸だ。急速にアーバン化するといわれるこの大陸では、「増える国民を支えるための建物の建設」が急務に。これから35年間毎日、およそ7つの医療施設と25つの学校、6万戸の家を建て続けなければならないというスピード感で、だ。いまアフリカ大陸の新世代の建築家たちが集まり、建設的な未来に向かい動きはじめている。

大陸のネットワーク。動き出す次世代の建築家たち

「2050年までに人口が現在の2倍の25億人に達します。それは、現在の中国とインドの人口を合わせた数と同じくらいです」。2年前のTEDトークで、ルワンダの建築家クリスチャン・ベニマナは、衝撃の予測を明らかにした。あと30年ほどで、アフリカ大陸は爆発的な人口増加を経験し、膨大な数の住宅や学校、施設が必要となる。そのために、建築家たちのネットワークと、地元コミュニティとの協働が重要だと力説した。

 54ヶ国が隣りあわせの大きな大陸アフリカは、激動の時代を迎えている。各国の経済成長も著しく、10年前の上海を思い起こさせるように土地開発は進み、テック産業はロケットのように上昇中。農村地帯でもスマホは使用され、モダンテクノロジーの浸透率も右肩上がりだ。
 その一方で、富裕層が住む高層ビルが立ち並ぶ都市部もあれば、貧困にあえぐ農村地域もまだまだ存在する。南アフリカのヨハネスブルグにおいては、“1パーセントの金持ちと99パーセントの極貧層”といわれているほどで、同じ都市内での貧富の格差も否定できない。

 そして、待ちうけるのは30年後の爆発的な人口増加だ。急速なアーバン化へ向かうといわれるアフリカだが、人口だけ増えても都市化は進まない。多くの人口を抱えながら機能するには、学校、病院、図書館、ミュージアムなど、みんなが平等にアクセスできる経済的・社会的・文化的な〈建築物〉をつくる必要がある。
 現在のアフリカの課題は「人口が膨れ上がる未来、いかにアフリカの国民に平等にいい建築物を建てることができるか」だ。この課題に向かい、クリスチャンを筆頭に、アフリカの若き建築家たちが革新を起こそうとしている。アジトは、経済成長と急速な開発が進むルワンダの首都キガリ。キーワードは、〈建築家たちのネットワーク〉〈ローファブ(地域に根づいた建造)〉。理念は「建築は平等にあたえられるべきもの。“人権”です」。
 アフリカ大陸にそびえつつある建築シーンの現状を、南アフリカとケニアで活動する二人の若き建築家に取材した。


© Mtamu Kililo and the Brick by Brick War in the Savanna Libaray Main Entrance

 

建築家がいない。でも、「アフリカの建造物はアフリカの建築家の手で」

「高層ビルのない街は死んでいる。存在していない街だ」と、未来都市の姿を模型に託したアーティストのボディス・イセク・キンゲレスに、西アフリカのナイジェリアの都市ラゴスにて“スラム街に水上学校”を設計したクンレ・アデイエミ、同じく西アフリカのブルキナファソで、伝統的な建築手法を用いてコミュニティ全体と家を一緒に建てた建築家ディエベド・フランシス・ケレ。
 アフリカ大陸には、これまでも未来を見据え、社会と人間、文化を収容する建物をデザインしてきた建築家やデザイナー、アーティストたちがいる。しかし、その数は圧倒的に少なく、たとえばイタリア国内の建築家や建築デザイナーの数は15万3,000人であるのに比べ、アフリカ大陸全体で3万5,000人。アフリカ大陸の54ヶ国をあわせても、イタリアという1つの国の5分の1ほどしか建築家がいないという計算になる。

「エンジニアリングや医学、商業、法律などの職種に比べ、アフリカ大陸で“建築家”の役割は、まだきちんと理解・確立されていない気がします。少しずつ変化はしているとは思いますが」。そう話すのは、ツェポ・モクホロ氏。南アフリカとルワンダを拠点とする若き建築デザイナーだ。建築家の数が少ない原因には、建築家を育てる教育機関が少ないと説明する。「僕の出身国、南アフリカに建築学校は10校ほどありますが、0校という国もありますね」。そのため、欧米やアジアに建築を学びに行く者も多いが、留学にはお金がかかる。金銭的に余裕がなければ、建築家になれるチャンスもほぼゼロに近い。アフリカは、建築家が育ちにくい大陸なのだ。

 建築家が不足する地で、「アフリカの国民に、平等にいい建築物を提供する」という壮大なビジョンを実現しようとする。それには、大陸内の数少ない建築家たちのネットワーク強化が不可欠だ。その先駆となるのが、ルワンダの首都キガリにある「アフリカン・デザイン・センター(ADC)」。先述のクリスチャンが中心となって形成されるADCは、建築やデザインのトレーニングセンターだ。この機関の目的は「大陸の各国から建築家やデザイナー、エンジニアを集め、ネットワークを作ることです」とツェポ。ここでは20ヶ月の建築家プログラムを実施しており、ウガンダやガーナ、南スーダンなど8ヶ国のアフリカ諸国から10人の若き建築家たちが研究生として集まり、シンポジウムや研修を通して、未来のアフリカの建築について考える。ツェポも同プログラムの卒業生だ。2018年には、デザイン建築プロジェクトとして、現地に小学校を建造した。さらにADCの母体であり、米ボストンとキガリに拠点をおく非営利建築デザイン会社MASSデザイングループも、ルワンダ初のがん治療センターや、マラウィの妊婦ケアセンターを建設している。


@MASS Design Group

アフリカ大陸の人々の心に響くような空間を作るため、アフリカの建造物は、アフリカの建築家たちによってデザインされるべきかと思います。たとえ、世界各地の建築家たちとのコラボレーションだったしても、アフリカの建築家たちには、自身のコミュニティのためにデザインする権限は握っておいてほしいです」

自国の素材・伝統技術・労働力を駆使した「ローファブ主義」

 アフリカの建築史をさかのぼってみると、行き着くのはエジプトのピラミッドだ。現地で採れた石を材料として現地の建設労働者が建てたといわれている。地元地域の素材と労働力、技術。これが、現在、次世代のアフリカ建築家たちが口を揃えていう〈ローカル・ファブリケーション(地域に根づいた建造、ローファブ)〉だ。

「いま、自分たちのまわりに利用できる素材は、何があるのか。そこから何を作ることができるのか。その可能性を見極めるのが重要です」。そう話すのは、ADC卒業生で、ケニア・ナイロビを拠点にする建築家ムタム・キリロ氏。アフリカ諸国では、建築資材のほとんどを輸入に頼っていたが「その必要はないと思います」。

 ADCが昨年キガリに建てた「ルへへ小学校」は、そのいい例だ。建物の素材には、地元の火山石や伝統工芸としても有名な陶磁器製タイルを使用。数十、数百キロメートル範囲内の現地調達だ。そして、建設作業員は、地元の人々。ADCが招致した熟練の大工がトレーニングを施して共同作業を実現させた。建築家不足に悩むアフリカ大陸では、この「トレーニングこそが大事です」。

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"This is what active learning feels like" -ADC Fellow: Jeremiah Oonyu

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Playful openings from inside the classroom block. #RuhehePrimarySchool

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@African Design Centre

 一方で、建築家たちが地元の人々から学ぶものも多い。「学校の扉は伝統的な織物のデザインを用いて造られています。また、現地の陶磁器職人と協力して、新しい素材も作りだしました。陶磁器製タイルの工場に訪問して試作をつくり、建築資材として安全かどうかの確認などもしたり」。粘土を使って浄水器をつくる地元の陶磁器職人たちや、伝統的な編みかごをつくる女性たちなど、地元に根づく伝統を学び、そのデザイン、スキルを建築のアイデアに織り込んでいく。

若いアフリカの建築家はひと世代前の建築家たちに比べて、ますます“コミュニティ”を原動力としていると思います。コミュニティといっても、一緒になにか建物をつくるというだけではありません」とツェポ。「たとえば、学校をつくる、美術館を建てるとなったら、ターゲットとなるコミュニティは誰なのか。そして、どうやってそのコミュニティとつき合い、彼らの考えを引き出していくのか。僕らにとってコミュニティとは、コンサルテーションであり、学習することであり、エンゲージメントなのです」

 地元の素材は、都市部の建築にも役立つという。「たとえば、高層ビルが並ぶ都会ではヒートアイランド現象*で気温が上昇する問題があります。そこで、建物の素材に、断熱性・耐熱性・保温性のあるレンガを使用。すると、エアコンの使用量も削減できると予想されます。レンガという素材を目の前にして、それをどう使うか、それでなにが解決できるか、どう都市化に繋がるかを考えるんです」。アフリカ大陸で建設された現代建造物をアーカイブ、また、現在進行中の建築プロジェクトを更新するオンラインプラットフォーム「アーキダトゥム」の創設者でもあるムタム氏は話す。「地元の素材を使うことは、何よりも、地元の雇用や製造業、そして経済を活発にすることにも繋がる。建築家、デザイナーとして、社会を大きく見据えることが重要です」

*郊外に比べ、都市部で気温が高くなる現象のこと。アスファルトやコンクリート、緑地や水面が少ないこと、自動車や建物などからの排熱が原因だといわれている。


@African Design Centre

「社会的・経済的な格差が、建築の格差になってはならない」

 ローファブを軸に、未来への設計図を準備しているアフリカ大陸の建築家たち。彼らの活動の軸には、「いい建築は平等にあたえられるべき」という考えがある。「いい建築は人権だ」を理念とするツェポはこう話す。「富裕層にあたえられている建築が、貧困層にも同じようにあたえられるべき。社会的・経済的な格差が、建築の格差になってはならない。人々には、平等にいい建築をあたえられるべき、というのが建築家としての考えです。そしていい建築には、いい建築家とエンジニアが必要となってきます」。
 ムタムも、いい建築こそ、都市化への鍵だと言っていた。「ケニアのコーヒー農園がコンクリートジャングルに変わりつつあるなど、都市化はものすごい勢いで進んでいます。いい建築なしに、いい都市化はできない。となると、都市デザイナーや都市の政策を考案する行政などの協力が不可欠になってきますよね」。

 人口増加のピークを迎える2050年までに、アフリカ大陸の建築はどのような姿となっているか、そして次世代の建築家たちが支える建築モデルをどう予想するか? 大きすぎる問いであることを承知でツェポに聞くと、こう答えが返ってきた。「まだわからない、というのが正直なところです。しかし、いい建築を実現すれば、それはアフリカ大陸に誇りをあたえ、アイデンティティをも構築すると思っています」


© Mtamu Kililo and the Brick by Brick War in the Savanna Library Front

© Mtamu Kililo and the Brick by Brick War in the Savanna Parking Close Up

© Mtamu Kililo and the Brick by Brick War in the Savanna Linkage Close Up

Interview with Tshepo Mokholo, Mtamu Kililo

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Eye Catch Image:© Mtamu Kililo and the Brick by Brick War in the Savanna Study Carrels Close Up
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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