瞑想・漢方・次は「鍼(はり)治療」。異国の“よくわからないもの”をマスに売り込む米国の、クイック&ポップなやり方

鍼(はり)を頭にツツツーとさして、“モヒカン風”みたいな写真もあげていました。ポップです。
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薬用キノコもそうだった。プロダクトやサービスそのものにポテンシャルはあるが、売り出し方のせいで、“知っている人は知っている”にとどまっているものをヒット商品に生まれ変わらせるべく「パッケージを変えて、ブランディングし直す」という手法。米国マーケティングの十八番だ。
これを「鍼(はり)治療」に応用したらどうなるか。いまの米国で大衆化を狙うと、こういうことになるらしい。
   

「○○をもっと身近なものに」商法。まず母音字をとって、いまっぽく

 ジュースバーが一過性のトレンドに終わらず、大衆文化に入り込めたのなら、「鍼(はり)もいける」。そう話すのは、昨年、ニューヨークのマンハッタンにオープンした鍼(はり)治療の専門店『WTHN』。なんと読むのかと思いきや、これで「Within(ウィズィン)」と読むらしい。

 母音字 《a,e,i,o,u 》を省くのは、ここ数年のちょっとした流行りだ。おもにはテック系のスタートアップや、ミレニアルピンクを基調にしているような新興のマーケティング会社やブランドがやっている。

 過去に紹介した瞑想専門スタジオ「MNDFL(マインドフル)」(Mindful から母音字を省略)なんかもそうで、大枠としてはここと同じことを「鍼(はり)」でやろうとしているようだ。
 MNDFLがしたこと、それは、昔ながらの東洋の瞑想(メディテーション)を、現代の米国人の価値観に合うようにアップデートして「新しいもの」として広めたことである。創業から3年以上がたったいま「モダンなスタジオでする瞑想」は一つのジャンルとして確立した感がある。



 既存のものをヒット商品に生まれ変わらせるために「パッケージを変えて、新しくブランディングし直す」という手法があるが、まさにそれ。昨年、アサイーやターメリックに続くスーパーフードとして「薬用キノコ」に注目が集まっている現象について書いたが、それも同じ。昔ながらの東洋医学を、現代の欧米人ウケするようにアップデートして一儲け(いや、ボロ儲けか?)の構造である。

 この鍼治療の「WTHN」創業者は、元金融関係者と東洋医学に精通した鍼師の女性二人組。彼女たちが目指すのは、さまざまな健康効果が期待できる鍼(はり)を現代人にとって、もっと身近なものにすることだという。
 
「○○をもっと身近なものに」というセリフ。こういってはなんだが本当によく聞く。ことウェルネス(健康増進)産業に限れば、このセリフを言わない起業家の方が珍しいのではないだろうか。

 考えてみればそれもそのはず。一部の高度な最新テクノロジーのサービスものを除けば、近年のウェルネス系ヒット商品のほとんどは、上述のような昔ながらの「東洋医学」の中から掘り当てた「金」なのだから。
 元祖はヨガにはじまり、瞑想や禅、漢方と、アメリカ人というのは、異国の馴染みのない「よくわからない」ものを、自国(米国)の、特にその時代のトレンドに敏感な人たちが「もっと身近に感じられるものに」して、マス(=大衆)に消費させるのが本当にうまい。

 そして、はやい。東洋医学という豊かな鉱山も、あっという間に掘りつくしてしまった感があった。さすがにもう次の「金」は見つからないのでは…、と思いきや、よーくみると「まだ鍼(はり)があるじゃないか!」という大発見。それが、世の中のある角度からみた鍼専門店オープンの背景である。




 

似てるぜ。どれがどのブランド分からない件。差別化しないのが正解?

 
 また別の角度から見れば、ウェルネス業界の「ブティックスタジオ全盛の波」に絶妙のタイミングで乗ったようにも見える。ブティックスタジオとは、特定のプログラムに特化した、ちょっと贅沢な非日常的体験を得られるスタジオのこと。自転車に特化した高級ジム「ソウルサイクル」や、上述の瞑想に特化したスタジオMNDFLもここに入る。
 
 従来のジムやスパよりやや高めの価格設定のブティックスタジオ。米国では2010年頃からジワジワと広がり、ここ2、3年で全盛期を迎えている。初期の頃は、クロスフィットやHIITなど、短時間で筋肉を追い込む強度の高いフィットネスが注目を集めていたが、近年はそういった「キツイけど高揚感がクセになる」ものから「身体を労わる(セルフケア)」ものへとシフト。

 2018年の米国は、多事多難の17年の影響(大統領選など)もあってか、まさに「セルフケア」こと癒しの年だった。鍛えるよりも回復に注目が集まったり、内面を見つめ直したり。自己をケアし、最適化していく波は今年以降もしばらく続くとみられており、「鍼」を大衆化するにはこの上ないタイミング。

 さて、「○○をもっと身近なものに」と、次から次へと健康増進サービスが消費者の生活圏内に送り込まれているわけだが、そのやり方はどれもよく似ている。基本的には、その時代の流行やニーズを最大公約数ではかり、規格に従って商品化するというもの。よって、商材が瞑想でもサプリメントでも鍼でも、その仕上がりは、良くも悪くも金太郎飴状態。同じブランドにしか見えない現象が起こっている。

 まず、ビジュアルからみてみよう。

上がWthn、下がHims


@wthn


@hims
上がWthn、下がHims


@wthn


@hims
上がWthn、下がHims


@wthn


@hims
上がWthn、下がHims


@wthn


@hims
上がWthn、下がMNDFL


@wthn


@mndfl

 ウェルネス業界に利益を最大化するテンプレート化された「ビジュアル」というのがあるのかどうかは知らないが、この感じこそが売れ筋の金太郎飴ビジュアルである。では次に、「テンプレ化された言葉」をみてみよう。

本質よりもテンプレで。「これはこう効く」で手早く伝える

 よく似ているのはビジュアルだけでなく、言葉での「伝え方」も同様。たとえば、瞑想のMNDFLが、よい睡眠に導く「スリープ」や、活力を上げる「エナジー」、癒しや浄化をもたらす「マントラ」など、単語一語でわかりやすく表記。瞑想を個々の目的別に消費できるようにしたのと同じく、鍼のWTHNも、不安、ストレス、疲労などを「防ぐ(プリベント)」、痛み、不眠、生理痛などを「和らげる(ヒール)」、肌のハリなどを最適な状態に「育てる(グロウ)」と同じ手法を用いている。
 つまり、消費者にとって、いまいち「よくわからないもの(ここでいう鍼)」を理解しやすくするために、ピンポイントで「これは、こう効く(可能性が高い)」と明瞭にする。

 言い方を変えれば、東洋医学を、西洋薬の「痛くなったら痛み止めで解決」的、クイックな対症療法の要領で消費させる仕組みともいえる。確かにこれなら米国の大衆にウケそうだ。ただ、ここで「本来、瞑想や鍼って『こうしたら、こう効く』とか、そういうものではないはずで…」などと、あまり本質的なことに重きを置きすぎない方が、内面を見つめる時代の大衆文化になりやすいというのは、なんとも言えないアイロニー。
 
 瞑想も鍼も、スパやマッサージと同類の「代替医療」に属する。WTHNの鍼師いわく、「従来の患者は、不調や痛みを感じたら医師に診てもらおうと考えていましたが、次世代はやや異なります。悪くならないよう、つまり、不調や痛みを予防し、身体を最適な状態に整えるために、定期的に専門家に通いたいと考えている」そうだ。



 瞑想MNDFLと鍼のWTHN。共通点が多いと思ったら、コアターゲットがほとんど同じだった。彼女たちの言葉を借りれば「ウェルネス・ルーティーンを実践する人たち」であり、定期的にジュースバーに通い、スピンクラスやHIITプログラムで汗を流し、瞑想スタジオで心の平穏をみつけ、専門家の手をかりて身体の不調を防ぐ、ブティック・ウェルネスの消費者である。健康に「なる」というより、健康で「いる」ことを信条としている人たちともいえるだろう。  

 そのためか、ターゲットが同じとはいえ、現段階では、企業同士はしのぎを削り合うライバルというわけではないそうだ。むしろ、MNDFLをはじめ、同系の身体のリカバリーを推進するブティックスタジオとも積極的にコラボレーションをおこなっているという。目的は、健康でい続けることを信条とするウェルネス・ルーティーンの実践者を増やすこと。それはつまり、消費者を増やすこととイコール。同系スタジオが一丸となって、啓蒙活動をおこなっている、というのが現状らしい。

 ブティック・ウェルネスの事業者と消費者が共有しているのは「健康でい続ける世界観」。その世界では「身体に良いものをすべての人へ提供します」といって、45分で7,000円以上というMNDFLの金額設定は「ニューヨークの鍼の平均価格の約半分」なので妥当らしい。“すべての人”というのは、あくまでも価値観を共有できるすべての人であり、経済的な余裕が不可欠であるのはいうまでもない。

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All images via WTHN
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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