アメリカに来てからなぜだかよく買うようになった食べ物がある。スーパーやデリ(コンビニのようなもの)のレジ付近にたいてい置いてある、「ビーフジャーキー」。
先日、ジャーキー好きの知人に差し入れをしようとドラックストアに寄ったのだが、ジャーキーコーナーが飽和状態だった。選ぶのに迷ってしまうほどのメーカーに種類、フレーバーの数々。ブラックペッパーにバーベキュー、テリヤキはもちろんのこと、え、もはや“ビーフ”じゃないメープル味の「ベーコン・ジャーキー」? なんだか洒落たパッケージのもある。
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嫌われおやつから、ミレニアルズ注目のヘルシースナックに
“お父さんのビールのつまみ”、“駄菓子屋さんにある棒のサラミ”のイメージが強いビーフジャーキー、添加物まみれで体に悪いんじゃないか、と食べた後なんとなく罪悪感を感じてしまう。
ヘルシー・ナチュラル・オーガニック志向が定着してきたアメリカでもそれは同じで、特にベジタリアンやビーガンも多い若い世代からはいかんせん不人気と、ジャーキー業界は低迷期だった。
だが、ここ数年で15億円の収益と売り上げをぐんと伸ばしているというのだ。その裏にはジャーキーが着実に「ミレニアルズ注目のヘルシースナック」に姿を変えている、という事実があった。
その例としてあげられるのが、大手ビーフジャーキーブランド「Slim Jim(スリム・ジム)」がミレニアルズ向けに昨年発売した、「ターキージャーキー」だ。
ビーフやポーク、チキンに比べ最もヘルシー・低カロリーなことから過去4年で消費量がおよそ3倍にもなったターキーは、健康志向の若者たちの間で依然として人気。そんなミレニアルズ好みを取り込み、“ターキー”オプションを引っ提げ、ミートスナック・ビジネス再起に懸けている。
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次世代の“クラフト”ジャーキーは、「フーディー志向」
意識してみると、確かに最近周りでも、間食や運動休憩の栄養補給、小腹が空いた夜につまむという声をよく聞く。健康に悪いおやつから、一気に「高タンパク・低カロリーの優れたおやつ」として見直されてきているのも、こんなミレニアルズのジャーキーブランドがあるからだろう。
「America’s Craft Jerky(アメリカのクラフト・ジャーキー)」と謳うブランド「Lawless Jerky(ロウレス・ジャーキー)」。アパートのキッチンで手作りされたジャーキーが原点のブランドで、創設者は弁護士を辞めてジャーキービジネスに転向した33歳のミレニアルだ。
大のジャーキー好きだった彼、買うと高いからと大学時代から趣味で作りはじめた。そのスタイルは3年前にビジネスにしてからも同じで、彼のジャーキーはハンドメイドの“クラフト”スタイル。添加物・保存料は不使用で、肉は100パーセントグラスフェッドビーフ(grass-fed:牧草飼育された牛)とあくまでも自然派にこだわる。
素材の質に加え、ロウレス・ジャーキーの売りは「個性派フレーバー」だ。スウィート・シラチャ(アメリカで人気のチリソース)にハニー・チポトレ、ジャパニーズカレー、マンゴー・ハバネロ、フォー(ベトナムのヌードル)と、とにかく異彩を放っている。
ちょっと試してみるにはハードルが高めなフレーバーだが、“いつも通りじゃイヤ”なフーディー・ミレニアルズに人気爆発らしい。ビジネスも絶好調、2年前の売り上げは当初の約10倍の160万ドル(1億6000万円)というのだから、ジャーキー、かなり期待できるビジネスだ。
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老舗チョコメーカーも、ジャーキー作り
ミレニアルズのジャーキースタートアップも続々と登場しそうだが、彼らのライバルは、なにも同じ若手メーカーではない。意外や意外、銀紙や金紙に包まれた三角チョコでおなじみの老舗チョコレートメーカー「Hershey(ハーシー)」だったりもするのだ。
昨年、独自のジャーキーブランド「Krave(クレイブ)」を発売。ヨーグルトやプロテイン・バーなど、“脱・砂糖”なトレンドに足を引っ張られ下火になりつつある近ごろのチョコレートビジネスを目の当たりにした結果、新しいビジネスに乗り出したのだとか。
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グルテンフリーにローカロリー、塩分控えめ(従来の約50パーセント)、さらにロウレス・ジャーキーに負けず劣らず、レモンガーリックやパイナップルオレンジ、シーソルト、バジル・シトラスなどフレーバー重視なのも、若者を狙ったアルチザナル・ジャーキーといったところか。将来、ハーシーといったらチョコじゃなく、ジャーキーな時代もくるかも(?)。
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パッケージも中身も改良し、次世代のヘルシーおやつとして定着しつつあるジャーキー。魚ならOKなベジタリアン向けにサーモンジャーキーや、シリアルバーならぬジャーキーバー、クラフトビールとのペアリング、クラフトジャーキー作りクラスもできたりして…。などなどジャーキーを齧りつつ考えてみてしまう今日この頃である。
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Eye-catch image by Stéphanie Kilgast *image aspect modified
Text by Risa Akita