編集部が選ぶ今月のZINE3冊。テーマは〈やるせない感情・七変化〉たった一言に傷心・激痛の失恋・ああ、逃避行したい

何気ない一言に思わず傷つき、何度繰り返しても失恋は激痛だ。そして定期的になぜか旅に出たくなる...。ああ、人間って忙しいよね。
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恥ずかしくなるような素直な感情とか、お世辞にもうまい! とはいえない絵を好きに書(描)き殴れるのがいいいんだよな。世界一敷居の低い文芸で、ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」。自分の頭の中身を奔放に綴じあげた四角形の(とも限らない)冊子のことだ。今月の自由を満喫する3冊を紹介しますよ。「悪気ない一言に心が痛むぜ…」「どっか旅に出てしまいたい…」「何度目かわからないけど、失恋に激痛…」。ずばりテーマは〈やるせない感情〉。

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いまなんつった? 悪気がないゆえタチが悪い…傷ついたヒトコト。

What Did You Just Say to Me?

Image via Avy Jetter

先日のこと。米国人の友だちに「そんな低い鼻でよく息できるね」と笑われまして。本人はウケ狙いで言ったんだろうし(だと信じたい)、その場は笑顔で返したものの、正直いい気はしませんでしたよ。
そんな、自覚や悪意のない差別的な言動「マイクロアグレッション」をひたすら書き殴ったのは、北カリフォルニアに住むアビー。黒人として育ち、長年言われつづけてきた“悪意なきひとこと”をイカした手書きイラストとともに、ジン『What Did You Just Say to Me?(いまなんつった?)』で告白した。「ドラッグやったことあるでしょ?」「なんで君たちの人種ってそんなに声が大きいの?」「髪の毛見せてよ」「さすがアフリカ系、素敵な歯だね(大きな二つの前歯に隙間があいている)」。ふむ、確かにどれも露骨な偏見や差別発言ではないんだけど(だからこそ責められない)、言われたあとになんかザラザラした気持ちが残るよね…。でも誰かに愚痴るほどでもなく、ひとり心をさすさす慰める。「こういう発言をする人に罪悪感をもたせたいわけじゃない。ジンを通して、自分が放った“あのヒトコト”がマイクロアグレッションだってことに気づいてほしいわけ」。

「ふらりと旅にでも出たい欲求」も。毎号〈1つの感情〉をさらけ出す

Feels Zine

昨日は爆笑してたのに、今日は撃沈。人間ってのは忙しい。なんせ〈感情の生き物〉ですから。こちら、タイトル通りさまざまな感情について綴った『Feels Zine(フィールズ・ジン)』。毎号ひとつの感情に特化し、世界各地のコントリビューターからの寄稿により、60ページ近いボリューム感でまとめあげる。1号目の『Anxiety(不安)』を皮切りに、これまで『Lovesick(恋わずらい)』『Body Love(カラダへの愛)』『Anger(怒り)』『Wanderlust(放浪願望)』、そして最新号『Calm(平常心)』を出版。たとえば『放浪願望』の号では、なぜひとは旅をしたがるんだろう? 新しいものを発見するためなのか、実はそれいつもと同じなにかを見つけるためなのか。『怒り』では、ひとの怒りの原因はなに? 過去のトラウマや罪悪感? など、心にのさばる感情を掘り下げることで、自分自身を見つめさせてくれる。作者はカナダ・トロント出身の2人組ハンナとサラ。「いつだって素直に感情を表現しちゃう。恐れなどない」という自称“ハードコア・フィーラー(hard-core feeler、ハードコアな感情屋)”だ。昨年1月に創刊した。

「感情をアウトプットするために“ジン”が必要だった。毎号紹介する感情は違うけど、〈なぜその感情が私たちにとって不可欠なのか〉を伝えるコンセプトは一貫してるんだ」。毎号力を入れている洗練されたイラストやデザインにも感情がくらりと揺さぶられる。









Image via Hannah Browne and Sarah Vardy

「彼氏と別れた…(涙)」吹っ切るのに役立つ(かもしれない)7つのこと

Breakup Activity Book

誰しも人生で一度は経験するであろう、失恋(したことない人がいたら、その秘訣を伝授してほしい)。あまりのショックに現実逃避…いまだにあの人の言葉や仕草が脳内再生…友だちの励まし「他に絶対いい人いるよ」も右から左へ。とにもかくにもツラいんです。
『Breakup Activity Book(失恋ドリル)』は、ズキズキする悲しみを乗り越えるための助っ人的な一冊。作者はオハイオ州の大学生で校内誌の編集長を務めるハンナちゃん(21)。2年間つきあった彼と別れた直後に、心のスキマを埋めるかのごとく、ジン制作に打ち込んだ。「当時はまだ情緒不安定だったから、内容やユーモアもちょっぴりダークかも」。フった側にもフられた側にもオススメだという15ページには、7つのゲームが。『マッドリブス(空欄をうめる言葉遊びゲーム。単語を入れてあの人に対する気持ちをぶつけよう)』や『傷心を癒すぬり絵』『ボロボロの心を満たすクッキングレシピ』『失恋トリビア』など。ちなみにPDF版だから、買ったあとすぐにページを開けるしスマホにも入れておける。失恋したあなた、駆け込み寺に急ぐかのごとくダウンロードしてサクサクページをすすめよう。

傷心をジンで癒したハンナちゃん、失恋を乗り越える一番の方法は? 「いまでは、彼とは友だち。けど、あれから2年、正直まだモヤモヤする。だから私にその質問は聞かない方がいいと思う」…。よく「時間が解決してくれるよ!」なんていうけど、失恋というツラい気持ちが落ち着いてもモヤモヤとか苦い気持ちって、残ったりするものですよねえ。むしろ時間が経ってふと「てか、よく考えたらあの時やこの時の自分悪くないよね?」とか、元恋人というか“元恋”について冷静に思いを巡らせてみたり。あぁ、浮気相手と結婚していまじゃ子ども3人いるあの人(元カレ)、今頃どうしてるかな(モヤモヤ)。



Image via Hannah Good

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Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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