みんなの街への気持ちをデータ化。“感情マップ”でつくる「超地元密着型アート」とは?
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街を歩けばアートにあたる。それほど、世界の街には彫刻やオブジェがそこかしこに存在する。いわば街のシンボルであるそれらは、大きくて目立つから待ち合わせ場所にする人も多いだろう。

さて、それらアートが街につくられるときだが、たいていは土地のデベロッパーやビルのデザイナーの意向でどんなものを置くのかが決められる。あるいは、その土地を観光名所にするために有名アーティストに依頼がいく。つまり多くの場合は、「住む人のその土地に対する感情とはほぼ無関係に」つくられていることになる。では、そんなアート作品のうち、どれだけが本当にその街の住人に愛されているのだろうか? 

この疑問から、この2年連続でSXSWに紹介されていたあるプロジェクトにたどり着いた。

作品のベースは街の「感情データマップ」

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Photo by Jennifer Ramos

 2013年にはじまったテキサス州オースティンの「XYZ ATLAS(エックス・ワイ・ジー アトラス)」アートプロジェクトの作品制作はユニークだ。作品をつくる際に、デッサンなどではなくオースティンの中の「さまざまな場所で人びとが感じる気持ちを引きだし、収集する」ことからはじめる。
 街中の場所という場所で「どんな気持ちだったか」「どんな体験をしたか」などの項目を、ローカルイベントやオンラインで徹底調査。そのデータの分布を地図化し、喜怒哀楽などの感情タイプ別に色づけした「感情のデータマップ」を作成。これだけでアート作品と呼べそうなほど、興味深いかたちをしている。いわば「気持ちの分布図」で、このマップを見ると、どの位置でどんな気持ちになることが多いのかを知ることができる。

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・黄色:楽しい
・緑色:恐れ
・オレンジ:期待感
・紺色:悲しみ
など。レモンイエロー:エクスタシーなんていうものまで。

 性別、人種、年齢、そして収入レベル…ひとつの場所に多様な人がやって来るのに、それでも共有される気持ちがあることがわかる。たとえば、オースティンで一番楽しい気持ちになるのは、バートン・スプリングスという木々に囲まれた天然水のプールだった。友人らと集まり、自然にふれ、光と水を浴びてリフレッシュできる街のオアシスだ。

 そういったホットスポットを割り出すことで、アートを設置する場所を決めることができる。さらに、調査で集めた場所にまつわる人びとのエピソードもアート作品の材料にしている、という。アーティストの勝手な創造力やエゴではなく、着実に収集されたデータの集積と、街の住民たちの思いからつくられるアートが実現していく。

心理学まで。感情をあらわす立体作品

 そのデータの集積からつくられるアートが、このカラフルな立体「X Vortex(エックス・ヴォテックス)」だ。この色は虹の色ではなく、感情を色分けしたアメリカの心理学者ロバート・ブラッチクによる“感情のカラーチャート”から抽出されているという。「場所への感情をあらわす」という目的への徹底ぶりだ。

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Photo by Marshall Tidrick

 しかしながら、実際のところ、毎日忙しい住民たちはアートのつくられ方なんて気にするのか? というちょっとイジワルな声もあるかもしれない。けれど、このアートプロジェクトの中心人物であるジェニファー・チェノウェスは「確実に手ごたえを感じている」と話す。

「普段の生活ではふれあうことはないけれど同じ街に暮らしている人たちがいる。そして、共通した感情や体験を見つけられる。そこに感じ入ってくれる人は多い、と、この作品を見た1000人くらいと1対1で話してみてわかりました」

たとえば自分のよく使う広場のベンチが、同じ街の誰かにとっては初恋の由縁の場所だったり、仕事で悔しくて涙した場所だったりすることを知る。そういった体験によって、街にあるあらゆるものが住人をつないでいるということをはじめて意識させられる。

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Photo by Marshall Tidrick

人が入り乱れる街にあるべきアートの姿

 実はこのプロジェクト、住民たちだけではなく、旅行客などいわゆる「よそ者」に対しても、住民たちの街への感情と思いを発信するためにある。オースティンという街の中心は、長い間ダウンタウンエリアにコンパクトにまとまっていたのだが、グーグルやアップルといった大企業が郊外にキャンパスを建てはじめ、急速に発展が進んでいる。なので、移り住んでくる家族や起業家も多い。

「土地のデベロッパーや、新しく街に来る人たちにこそ、街の人びとにとってなぜその場所が大切なのかを知ってもらう必要がある。そして、このプロジェクトは、そのツールになってくれるはず」と、ジェニファーは話す。

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Photo by Glen Vigus

 これは、これまでの記憶をあつめて街の開発に懐古的に対抗しようとしているのではなく、これからのコミュニティのつながりをより円滑に作ろうとする未来志向のマインドだということに留意しておきたい。
 住民の感情に根ざし、それを表現するアート作品。ただの待ち合わせのためのシンボルという存在を越えて、街を守りそこに暮らす住民の感情と思いを示していく、真の意味でのシンボルになっていけるはずだ。

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Interview with Jennifer Chenoweth
Text by Mariko Kondo, edited by HEAPS
Edit: HEAPS Magazine

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