都市生活はおろか、家も捨て。本当に必要なモノだけを「van(バン)」に積みこみ、到着地のない旅に出る。近年、そんな若者が増えていると耳にした。彼らが送るその生活は「Van Life(バンライフ)」というらしい。
しかし、それはかつての“すべてを投げ出したロードトリップ”とは少し違うようだ。というのも、家なしバン生活を送る彼らは、自由を手に入れながらもその放浪生活でいっぱしに、人によればそれ以上に稼ぐものもいるのだから。
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インスタ「#vanlife」がお洒落すぎる
現代、もっとも社会の動き、時に若者世代の世相を示すのはインスタグラムの数字だ。そのインスタで「#vanlife」と検索すると136万を超える投稿がヒット。バンライフはもはや一大社会ムーブメントとなっている。
「家なしバン生活」と聞くと、ひげをもっさりと生やし俗世から乖離した世捨て人が、これまた乱雑にモノが詰めこまれたバンでひっそりと棲息する姿を想像してしまう。しかし、世界中のバンライフ・ピープルがインスタにアップした写真をみて驚くだろう。そこには、完璧なまでにDIYされたお洒落なバンの内装に、むしろ都会のアパートより住み心地の良さそうなミニマル&機能性バツグンな部屋空間、そしてアイキャッチングなアウトドアファッションがあるからだ。
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さらに、都会生活を脱却しつつ自由を手に入れながら、同時に外界を完全にシャットアウトしないのが彼らの特徴。バンライフ・ピープルは世捨て人ではなく、ノマドワーカーに近い。
ムーブメントの立役者「写真1枚で1万いいね」
「バンライフ」を紹介していく上で、絶対に避けて通れない“彼”の存在を紹介しておこう。バンライフを現代ライフスタイルに昇華し、ムーブメントにまで仕立て上げた男、フォスター・ハンティントン(Foster Huntington)だ。この男が「稼げるバンライフ」スタイルの先駆者と言っていいだろう。
三年のバンライフに終わりを告げた現在は、ポートランドにツリーハウスを立てて仲間と暮らしているというフォスター。その生活に入ったのはラルフローレンでデザイナーを務めていたときのこと。目も回るほどの多忙な日々に心底、「もうやだな」。「一切れのパン ナイフ ランプ鞄に詰め込んで」のごとく、家を捨て、必要最低限だけのものを1987年製フォルクスワーゲンに詰めこんで、バンライフをスタートしたのだとか。
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が、そこで終わらなかったのがこのフォスターという男。旅の中で出会う“バンライフ仲間”の姿を記録し、「#vanlife」とともに、タンブラーやインスタグラムに投稿。洗練されたその写真には一枚につきなんと1万いいねがつくほど。着々とバンライフ・コミュニティを形成していった。そして、後々これがバンライフで稼げる地盤に。
まず、皮切りにクラウドファンディングで資金調達し、自身と仲間のバンライフ写真を一冊にまとめた写真集を出版。『HOME IS WHERE YOU PARK IT(ホーム・イズ・ウェア・ユー・パーク・イット:バンを停めたところが君の家)』と名付たそれは出版されるや否や瞬く間に完売。再版されるほどの人気だった。
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自分のライフスタイルに合わせて“稼ぐ”
放浪生活を「憧れのライフスタイル」に昇華してしまったフォスターに便乗し、「バンライフ」をビジネスに落とし込む人々が続々と登場している。
たとえば、フォスターと旅先で偶然出会い、彼の「二人はバンライフにぴったりだと思う」の一言からバンライフ生活をはじめたエミリー・キングとコーリー・スミス。4年間家なしの“バンライフ・カップル”は、ビーチや大自然を背景に本を読んだり、ヨガポーズを決めたりする姿をインスタでシェア、フォロワー数は18万にも届く勢いだ。コーリーは昨年から“バンライフ・コンサルタント”となるものをはじめ、これからバンライフをはじめたいと考える人々のサポートも行っているのだとか。
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また、ヨーロッパでバンライフ歴6年のカップルも、自分たちの日常をまとめた本『The Rolling Home(ザ・ローリング・ホーム)』を出版するほか、Tシャツやエナメルマグ、ステッカーなどプロダクト販売、ジンやデザイン、映像制作なども手がけている。
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もはや圧倒的に影響力のある“インフルエンサー”の彼ら、企業が黙っているわけがない。エナジーバーやボトルウォーター、オーガニックファッションブランドなど数々の企業をスポンサーに、バンライフ・ピープルは自分たちのバンライフに商品を不自然なく紛れこませ、“チラ見せ”投稿。生活するのに十分な広告収入を得ているのだ。
「バンライフ」は時代に沿っている?
「インスタグラムの写真だけ見れば、彼らは“楽しんでいるだけ”にしか見えないだろ? でも、その裏には計り知れない仕事量がある」というフォスターの言葉が表すように、バンライフを送る人々はアイデアとクリエイティビティを最大限に生かしてお金を稼ぐ“働き者”だ。ただし、彼らは「バンライフを送るため」に働いているのであって、決して「お金を稼ぐため」にバンライフを送っているのではない。
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かつてインターネットのない時代であれば、バンライフは社会という枠組みから逃れた“世捨て行為”とレッテルを貼られていたかもしれない。しかしネットが“働く場所”の概念を劇的に変え、ノマドが浸透した現代では、バンライフは生き方であるのと同時に新たな働き方でもあるといえる。情報・物質過多な社会に疲れ「物質的な潤沢よりも、経験に基づく心の豊かさに重きをおく」世代と、実に相性のいいライフ&ワークスタイルだろう。
現在、バンライフの第一人者・フォースターに取材交渉中。もし実現したら、バンライフの日常やビジネスの可能性などについて、いろいろ探りたいと思う。
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Photos via @wheresmyofficenow, @wheresmyofficenow
Text by Shimpei Nakagawa, edited by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine: HEAPS Magazine