トランスジェンダーによる、「トイレ革命」。トイレから、男女の垣根がなくなる日が来る?
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「僕らのライブ会場では、男女別トイレを廃止し、“ジェンダー・ニュートラルなトイレ”を用意してください」
フェイスブック上である日突然こう訴えたのは、とあるバンド。

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Photo by Andrew Piccone

 最近アメリカのバーやレストランで広まりつつある、ジェンダー・ニュートラルなトイレ。男女の性別の垣根を超えた、所謂、誰でも使っていいトイレのことを指す。このバンドは、男女の区別をなくしたそんなトイレの設置を求めたのだ。

 ブルックリンのとあるレストランのトイレだが、たとえばこんな感じ。マークも工夫してある。中は個室が数個。

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 一体誰のために? それはトランスジェンダー(体と心の性が一致しない人)のため。彼らには、彼らにしかわからない悩みがある。それは男性用、女性用と区別されたトイレのドアの前で、どちらに入ろうか立ち止まってしまうこと。

 そんな彼らの“トイレの悩み”を解消すべく男女共用トイレポリシーなるものを掲げたのがブルックリンのクィアパンクバンド「PWR BTTM」。

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Photo by Edwina Hay

 メンバーのベン(Ben Hopkins)とリブ(Liv Bruce)は写真で見る通り、とてもゴージャス。自分たちのことをクィア(セクシャルマイノリティ)と呼ぶ。
昨年9月にアルバム『Ugly Cherries』でデビューを果たし、現在初の全米ツアー道中の二人。初めての日本メディアの取材だと喜ぶ二人としたのは、“トイレの話”。

トランスジェンダーとトイレの分厚い壁

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「男性用、女性用と分かれている公共トイレってトランスジェンダーの人たちにとっては、時として恐怖を感じてしまうものなんだ」とリブ。
「なぜなら、嫌がらせを受けることもあるから。“あなたがここにいること自体間違っていますよ”とか“いますぐ出て行け”、“使用厳禁”とか…。トランスジェンダーのトイレ問題ってここアメリカではとても深刻なんだよ」

 男女別のトイレに入る前の迷い。そして自分の性に正直になり意を決して中に入った後に味わう精神的、肉体的な苦痛。トイレを取り巻くトランスジェンダーの苦悩に、筆者は改めて気づかされた。
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のロースクールのレポート*(2013年)によると、約70パーセントのトランスジェンダーが男女別室のトイレで「言葉による嫌がらせ」を受け、約10パーセントが身体的暴行を経験している。

さらに、約50パーセントが、公共トイレ使用をためらったがために、脱水症状や尿路感染症、腎臓の感染症など直接的に健康を脅かす問題を抱えたこともわかった。

とあるバンドが取った行動

 自分たちも、クィア。自分たちのファンの多くもクィア。「自分たちの音楽を好きでいてくれているファンたちが安心してライブに来てくれるために自分たちができることは何だろう?」。二人の出した答えが、 “ジェンダーニュートラルなトイレ”だった。

 思い立った二人はツアー直前の今年2月、バンドの公式フェイスブックページにこんな声明を。

トイレ政策:

・我々がライブをする夜は、男も女もトランスジェンダーもみんなが使える「誰でもトイレ」を作ってください
・ステージの近くに行きやすいところになければダメ。「男女共用トイレありますよ!会場裏にある真っ暗の階段を登ったところ(行きにくいところ)です」はNG。
・もしこのお願いを受け入れられないのであれば、ライブの1週間前までに教えてください。
・「ファンの人たちに“誰でもトイレないよ”って伝えます」

 ざっと要約するとこんな感じだ。

NY老舗ライブハウスも快諾

 こんなにも潔く、すぱっと“ジェンダーニュートラル・トイレ宣言”を掲げた二人。少し強気とも取れる要求に全米各地のライブ会場はどう対応したのだろう。

「ツアーを始めて5週間になるけど、4分の3くらいの会場は男女共用トイレを用意してくれたよ」とリブ。「あ、そういえばニューヨークのWebster Hall(ウェブスターホール。イーストビレッジにある老舗ライブハウス/クラブ)も、いつもは男女別トイレしかないのに、ライブの日だけは誰でもトイレを作ってくれたんだ!」

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Photo by Walter Wlodarczyk

 誰でもトイレを作ることができなかったある会場の男女別トイレにはこんなサインがあったとリブ。「“Mind Your Business”(自分のことだけを気にしなさい)って!大抵トランスジェンダーがトイレで嫌がらせを受けるのは、誰かが彼らのプライベートに干渉しているからであって。だから“余計なお世話よ、自分たちが何をしているかぐらいわかってるよ”っていうこと」

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トイレの性別に合わない人がいたって? 
大丈夫です、彼らは、あなたたちよりそのことをわかっています。

 残りの4分の1の会場は何を理由に男女共用トイレを断ったの? それは大概、州の法律により男女別トイレの設置が決められている、という理由でやむをえなかったのだとか。

「共用トイレを用意できなかった会場でも、もちろん演奏はする。そんな会場行っちゃダメ、なんてことは絶対に言わないし。でも事前にファンには『共用トイレはないよ』って知らせておきたい。そうしたらみんな心の準備ができるからね。」

「今度またプレイしに行った時には、もう禁じられているかも…」

「出生時の“生物学的性別”に従ってトイレを使用すること。“自認する性別”のトイレには立ち入り禁止」。これ、今年3月に可決されたノースカロライナ州の法案である。

「今度またプレイしに行った時には、もう禁じられているかも…」。ノースカロライナが、誰でもトイレを用意してくれたのは、この法案が通る2週間ほど前だったからだ。
「こうやってツアーをして実際にファンに会っているでしょう。ノースカロライナのライブでも現地のファンに会ったけど、この法案によって彼らが悪影響を受けていると思うと、とても他人事だとは思えなくって」との不安の声を漏らす。

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Photo by Edwina Hay

 トランスジェンダーの権利に真っ向から反対するこのような法律がある一方、ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は同時期、「トイレの使用は基本的人権であって、誰であっても制限されたり拒否されたりすべきものではない」との法案にサインをした。
 ベンとリブも、昨年デビューしたて地元ブルックリンを演奏して回っていた昨年10月、11月には既に共用トイレがある会場も多かったと言う。「トランスジェンダーのトイレ問題」。アメリカではいま論争の渦中にあり、迷走している。

 それでも、誰でもトイレポリシーをファンがとても気に入ってくれたこと、SNSに喜びの声がたくさん寄せられたことを本当に嬉しそうに語る二人。
「人生初のジェンダーニュートラルなトイレを体験したトランスジェンダーの人が、このトイレは安心なんだってわかることで誰でもトイレが、100年、200年、いや50年以内にもっと増えたらな」

 クィアによるトイレ革命が目指すもの。それは“青い男性マークと赤い女性マークがトイレのドアから消える日”に他ならない。

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Photo by Andrew Piccone

PWR BTTM

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Text by Risa Akita

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