伝統文化のタブーに生きる「女メタラー」。アフリカ小国・ボツワナに根づく、女たちの知られざるヘヴィメタルシーン
Pocket

彼女たちは、日が落ちるとクローゼットを開け、「もう一人の自分」に扮するため服を選ぶ。ヴィッキーはバンドTシャツに手を掛け、ミリーはスタッズのついた革ジャンに袖を通し、デビーはカウボーイハットをかぶる。
絶対的な権力を持つ夫や親の目をかいくぐり、保守的な社会から毛嫌いされる“サブカルチャー”を自分の好きにできる、ほんの一時だ。

アフリカ小国に息づく「メタルカルチャー」

 アフリカ大陸南部にボツワナという国がある。比較的安定した治安と民主的な政治で「アフリカの優等生」とも呼ばれる、人口200万人の共和国だ。
 世界トップクラスのダイヤモンド産出国でもあることから経済成長を遂げ、近隣国より国民の所得も高い。一方で貧富の差が生まれたり、エイズ患者が最も多い国の一つであることも現状なのだが。

 ダイヤモンド、サファリ、安定した政治。小国ボツワナを形容するキーワードはいろいろとあるが、ここでもう一つ加えたい。「ヘヴィメタル」を。先ほどの彼女たちは、メタラー(メタル愛好家)だ。

Leathered Skins, unchained Hearts

 ボツワナのヘヴィーメタルシーン。あまり知られてはいないが、ハードロック・ヘヴィメタル全盛期の1970年代から自然とはじまったといわれている。
 国内でメタルバンドが形成され、メタラーたちは決まってスタッズだらけの革ジャンに、チェーン、カウボーイハット、バンドTシャツ、ドクロのアクセサリーにブーツ姿のイカついルックス。こうして形成されたヘヴィメタルシーンは、ツワナ語(ボツワナの言語)で“rocker(ロッカー)”を意味する「Marok(マロック)」と呼ばれサブカルチャーになった。

昼は教会、夜はメタルライブ。“クイーン”の二重生活

「彼女たちは自分のことを“クイーン”と呼ぶんだ。偶然行った現地でのメタルライブで出会った」

 そう回想するのは、南アフリカの写真家Paul Shiakallis(ポール・シャカリス)。シリーズ『leathered skins, unchained hearts(レザード・スキンズ、アンチェインド・ハーツ)』で、ボツワナの女性メタラー(通称クイーン)を1年間かけて撮り続けた。

 ライブで会った日からクイーンたちと仲良くなったポールだが、彼女たちのフェイスブックであることに気づく。
 慎ましい伝統衣装で子どもや花とおさまる写真に紛れるようにしてあったのは、ドクロ模様の服やレザージャケットを纏った姿。中には、普段用とメタラー用2つのアカウント持ちのクイーンもいた。

Leathered Skins, unchained Hearts

「まだまだ男性優位の保守的なアフリカ社会で、女性がメタラーになることは男性よりも難しいんだ。自分がメタラーだとカミングアウトするのを恐れているクイーンもいる」

 それにボツワナは、カトリック教徒が多い国。「黒い服=悪魔的」と、ヘヴィメタルは保守的なメインストリームカルチャーから毛嫌いされている。

 だがクイーンたちも熱心なキリスト教信者、昼は教会にも通う。

 社会でも家庭でも男性上位の環境でキリスト教の教えを守り生活する彼女たちは、「アフリカの伝統社会に生きるキリスト教徒の女性」と「ゴリゴリの女メタルロッカー」という相反するペルソナを使いわけているのだ。

メタル精神は、ライブ会場とフェイスブックで解放する

 男性中心社会、そしてメタルを“悪魔の音楽”と忌み嫌う社会。二つの障壁に挟まれたクイーンたちがメタラーになれるのは、ライブ会場とソーシャルメディア上でだけ。勝負服でライブにくり出し、お互いに写真を撮りあい、フェイスブックにアップする。

 クイーンたちの昼の顔はさまざまだ。40代の軍人や警官など公務員もいれば、20代の専業主婦、親と同居するティーンだっている。
 日中は公の自分、夜は私な自分。しっかりと別の顔を使い分けているからか、現地の人の中にはクイーンの存在さえ知らない者さえいるらしい。

Leathered Skins, unchained Hearts

 町の数少ない洋品店で買った革ジャンを自分好みにカスタマイズ。パソコンがないクイーンは携帯で夫や親に隠れこっそりバンドTシャツを注文、あるいは知人づてで。苦労して手に入れた一枚は、数ヶ月に一回あるかないかの貴重なライブの日まで大切にしまっておく。

夫や父親に妨害され。困難極めた撮影現場

 クイーンたちの撮影場所にポールが選んだのは、彼女たちの自宅だった。

 生活感あふれるベッドルームや居間でポーズするレザークイーンたちの構図には、少し妙で筆舌しがたい違和感がある。
 コンサート会場やバーで撮れば簡単だろうに、あえてポールは彼女たちのプライベートな空間に足を踏み入れた。理由は「伝統的なボツワナ女性の質素な暮らしぶりと、レザーに身を包んだメタラーのコントラストが面白いと思った」から。

Leathered Skins, unchained Hearts

 メタルカルチャーをよく思わない保守的な夫やボーイフレンドに撮影の邪魔をされたり、両親の不在時に隠れて撮ったりと、決して歓迎的な雰囲気の撮影ではなかった。中には、白人男性であるポールが自分の女性を撮影している、ということすら許せない男性もいたのだとか。

 文化や慣習の壁を乗り越えできあがった写真で、彼は何を伝えたかったのだろう。

「世に出ているメタラーの写真はいつもデビルホーン(メタラーがするジェスチャー)やアグレッシブな表情。でもぼくが見せたかったのは、クイーンたちの“ソフト”な部分。レザーを纏っていても脱いでいても変わらない、彼女たちの優しさや温かさなんだ」

Leathered Skins, unchained Hearts

レザーが彼女たちに与える「自信」

 あるクイーンは、こう語ったという。「ガールロッカーたちは一般社会に対して毅然と立ち向かわなければならないわ。だって私たちはいつも批判されているから」

 男性優位社会に対する反骨精神やフェミニズムの主張に聞こえるが、必ずしもそうではないとポール。男性中心が当たり前のボツワナでは「フェミニズムというコンセプト自体があまり認識されていないと思うんだ」。
 彼女たちはアクティビストではない。「誰にも批判されずに自分の好きな姿になりたい・レザーに包まれていると自信が持てる」女のメタラーだ。

Leathered Skins, unchained Hearts

 カウンターカルチャーとも言えるヘヴィメタル。そのマチズモやアグレッシブさが先行するが、芯にあるのはメインストリームカルチャーや凝り固まった既存の概念を覆す力だ。アフリカの伝統社会でメタル精神を体現するクイーンたちは、メタルに閉鎖的な文化・男性優位な社会にカウンター(対抗)する本当の意味での“対抗文化”を、つとめて自然に凛と形成している。

Leathered Skins Unchained Hearts

Paul Shiakallis
WEB/FB/Twitter/Instagram

▶︎オススメ記事

政府に音楽を禁じられた国。あれから30年、たった一人の男が懸ける「トルコ音楽シーン」再興

チェルノブイリのかつての子どもたちの現在。原発事故から30年、彼らが生きるのは“チェルノブイリが生んだ町”スラブチッチ

▶︎▶︎週間トップ人気記事

Airbnbの“もう一歩先”の工夫。「キレイな部屋写真」だけで終わらなかった彼らのフォト・ディレクション

名門大学より「ブルーカラーになりたい」。若者からジワジワと人気をあつめる職は「肉体労働」

—————
All images via Paul Shiakallis
Text by Risa Akita

Pocket

Leathered Skins, unchained Hearts
この記事が気にいったら
いいね!しよう
HEAPS Magazineの最新情報をお届けします

You may also like...