昔の芋掘り大会。隣の子よりもちょっとだけ大きいさつまいもが採れると、密かににんまりしていたっけ。
そんな数センチの世界で嬉しがっていた気持ちがちっぽけに思えてしまうほど、世の中には大きな野菜があった。
50キロのキャベツに、1メートルのズッキーニ。実物そっくりの模型ではなく、正真正銘、本物の野菜たち。これ一体、誰がどうやって育てたんだ?
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英・園芸家のおじいさん、孫の背丈の野菜作る
巨大野菜の生みの親は、イングランドの西・ウェールズ地方にいた。元農家・園芸家。いまではリタイアし趣味で農業に勤しむ67歳のおじいさん、Phillip Vowles(フィリップ・ヴォウルズ)だ。なんでも、毎年巨大野菜を育て地元コンテストでも優勝する、近所の名物おじいさんらしい。
巨大野菜ってどうやって作られる? 巨大野菜の味ってやっぱり大きいだけに大味?
疑問は尽きないので、フィリップさんに聞いてみた。ザ・「巨大野菜の知られざる世界」!
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HEAPS(以下、H):フィリップさん、こんにちは!
Phillip(以下、P):やあ、こんばんは!
H:そちらはもう夕方かしら。今日の畑仕事はもう終わりですか?
P:いいや、今の時期(11月)は畑はお休みだよ。寒さで作物は育たないからね。毎年、5月になったら種蒔きをして、7月終わりには収穫、8月初旬の巨大野菜コンテストに出品するのさ。
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H:巨大野菜は、1年の内の3ヶ月にかけて育てるんですね。今年は、どんな野菜が採れましたか?
P:キャベツでしょ、カボチャ、それにマロー(カボチャとズッキーニを合わせたような野菜)。
みんな重いよー。たいていキャベツは45キロ以上、カボチャもは50キロになる。それに長さも抜群。ズッキーニは114センチになるんだ!
20年前には、長さ106センチ、重さ8キロのキュウリでギネス更新したこともあるよ。
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巨大キュウリで、ギネス達成!
H:普通のキャベツやカボチャは1キロ、キュウリは20センチだから…。桁違いの大きさ!! 巨大野菜を作り続けて30年になるそうですが、なぜ巨大野菜の世界に?
P:畑仕事をしはじめたのは、14歳の頃。新鮮な空気を吸って外で体を動かすのが好きなタチでね。
それで農家になったんだけれども、ある日たまたま普通よりも大きな野菜が育った。その種を大切に取っておいて、大きくていい種を選り抜き、次の年に育てたら種も野菜もっと大きくなっていったんだ。そしたらもう、巨大に作るのが楽しくなっちゃってね。
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若かりし頃のフィリップさん
H:巨大野菜作りに専念することにしたんですね。どうやって巨大に作るのでしょう?
P:まずは良い種が必要不可欠。これが、大きな種。見える? 普通よりも2倍ほど大きいね。最初は通常の大きさだったんだが、さっき話したように、昔偶然大きく育った野菜があってね。その種を次の年に植え、大きな野菜を作り、できた種から大きくていいものを選ぶ。これを繰り返すんだよ。
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肥料はすべてオーガニック、人工肥料は一切使っていないよ。ビニールハウス栽培していて、風よけをしてやっている。
水やりは日の出前と日の入り前、1日2回だよ。巨大野菜は、普通サイズのよりももっと水が必要だからね。しっかり時間をかけてケアしなきゃいけないんだよ。
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H:ということは、小さな野菜を100キログラム分作るより、100キロの巨大野菜1個を作る方が大変ということ?
P:そうだとも。巨大野菜は、赤ん坊のように世話してやるのさ。時には、毛布を掛けてあげたり。
H:野菜に…毛布?
P:表面の皮をやわらかくしてあげるためにね。硬くなると、ひび割れて大きく育たなくなってしまう。特に、太陽の光が強い日中なんかは毛布でくるんで直射日光から守ってあげるんだ。
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H:なんとも愛らしい。そうしてフィリップさんの野菜はぐんぐん育つ。
P:毎日少しずつ成長していくのが目に見えてわかるよ。よく温室にやって来て野菜を眺めている近所のおじさん曰く、1時間ごとに大きくなるって。かぼちゃも1日で15センチほど成長するよ。
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フィリップおじいさんの身長は、約172センチ。野菜は顎のところまで届く。孫の背丈は悠に超えている
H:成長が日々わかると嬉しいですね。野菜好きの私が次に知りたいのは「味」のこと。大きな野菜だと、中がスカスカというイメージがありますが、実際どうです? あと、切るのも大変そう。
P:普通サイズの野菜となに変わらずさ! 女房は料理上手でね、これまた美味いマッシュポテトやパンプキンスープを作ってくれる。表面は硬いけど、中にいくにつれ軟らかくなるから普通の包丁でも切れるよ。
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H:手塩にかけて育てた野菜、美味しそう。フィリップさんが巨大野菜を育てる理由って…。
P:そりゃ、楽しいからだよ! 朝8時から夜7時までずっと畑仕事、時間や労力はかかるけど、それだけ野菜が大きく育った時は喜びもひとしお。巨大野菜を見に毎日お客さんもやって来て賑やかさ。
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H:巨大野菜がみんなを集める。
P:ああ、大きな野菜はみんなで楽しめるね。ぼくは15人の大家族出身。いまも大家族で娘、息子たち、それに7人の孫に囲まれている。ご近所さんにもおすそ分けするのが好き。
近所のパブでは、日曜のランチにぼくの野菜が使われている。キャベツ1つで、120人分! そのお返しにとぼくはビールをもらえるんだ、はっはっは。
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H:キャベツとビール交換! いいですねえ〜。村のみんな、とても仲良しそう。
P:そうだとも。ここLlanharry(ランハーリ)には他の巨大野菜農家もいるよ。お互いに栽培のコツを教えあったり、ぼくの種をあげたりもするんだ。彼らの野菜たちも、あともう一息でぼくのと同じくらい。でも勝ち負けは気にしないから、いいんだよ。
畑には地元の学生たちも見学に来る。自分の手で食物を育てることの大切さを教えているよ。
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野菜だけでなく、全長5メートル(!)の巨大ひまわりも
H:ほえ〜。いつか名物エリアになりそうですね、巨大野菜村、みたいな。フィリップさん、野菜の伝道師です。
P:手作り野菜って、自分の手で育て収穫し、目の前で調理するでしょう。新鮮だとわかって食べる野菜の美味しさといったら。
みんなに農業の良さを広めたくて、コミュニティガーデンをはじめようと思っているんだ。
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H:美味しくて大きな野菜を育てる秘訣は?
P:それは、野菜に話しかけること。「やあやあ、ぼくの美人さんたち」っていつも声を掛けてやるんだ。すると一緒についてきた孫たちも、真似して繰り返すのさ。
H:「植物を褒めると良く育つ」は本当でした! 他にはなんて言葉を?
P:いやぁ、あまりここで言うと女房にやきもち焼かれちゃうから勘弁勘弁。はっはっは。
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H:じゃあ、それは今度こっそりと。巨大野菜の大きさは、フィリップさんとお孫さん、近所のみんなの野菜愛に比例するようです。
P:そうともそうとも。巨大野菜はぼくの人生の一部。まるで、孫たちのようなんだから。はっはっは。
野菜の種を分け合い、巨大野菜もおすそ分け、そして農業の楽しさも教えてあげる。いつも野菜でみんなのお腹を満たし笑顔にしてきたフィリップさんの心は、彼が育てる巨大な野菜たちと同じくらい大きかった。
Phillip Vowles
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All images via Phillip Vowles
Text by Risa Akita