「子どもをつくることと自分の体」を“僕ら”もいまから考える。パートナーがいなくても、まだ先のことでも。身近になる精子検査と凍結

女性の卵子凍結、不妊検査キットや不妊治療クリニックのポップアップストアが増える昨今。男性の精子にまつわるサービスだって、増えている。
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「男性に自らの生殖能力についての知識を持ってもらうこと。そして、生殖や子どもを作ることについて、もっと気軽に会話できるようにすること」。

「不妊は女性だけの問題じゃないんです」を語り口に、“民主的な価格帯”で精子検査キット・凍結サービス”を提供するスタートアップがある。男性が若いうちから「将来、自分は子どもを持てるのか」を主体的に考える土壌をつくろうとしている。

みんなの手が届く価格帯で〈精子検査&凍結保存〉

「◯◯歳までに出産しないといけない」「妊娠適齢期は◯◯歳まで」。時計の針が進むとともに「妊娠・出産」に追われるのは、実際に子どもをお腹に授かる「女性」だ。それゆえ、「不妊=女性の責任」という社会的なスティグマがあるのも否めない。
 ある研究によると、妊活している女性は、がんやエイズ、心臓病などをもつ女性と同じレベルの不安・うつ病を抱えていると判明。また特定の文化圏では、子どもを作ることができない女性は差別の対象となり、親戚などから酷い偏見を受ける場合も多い。不妊の30パーセントから50パーセントが男性に要因があり、そのほぼすべてのケースが「精子の状態となんらかの関連性がある」との調査結果があるにも関わらずだ。
「不妊は女性だけの問題ではありません。男性と女性の両方が一緒に考えるべき問題なのです」。そう訴えるのは、今年に創立したばかりの米国ニューヨーク発スタートアップ「Dadi(ダディ)」。クリニックに行かずとも、遠隔で可能な精子検査と精子凍結保存サービスを提供する。仕組みをみてみよう。

1、ウェブサイトで個人アカウントを作成したら、精子検査キットをオンラインで注文。キットは、検査込みで99ドル(約1万円)。

2、キットが届いたら、容器の裏側に書かれたコードを指定された番号にメッセージを送信。これで自分のアカウントがキットと同期される仕組み。キットは、届いてから10日間以内に使用すればOK(すぐに使用しない場合は、冷蔵庫で保存)。

3、精子を採取したら、容器を固く閉め、上についたボタンをポチッと押すと防腐剤が中に放出。これでラボに送る準備は完了だ。送料も無料で、宅急便センターに持っていくだけ。

4、ラボに届けられた精子は、研究者が量、数、濃度を調査。パーソナライズされた調査結果が、自分の精子が動くビデオとともにメールで送られてくる。「健康な自分の精子を将来のために取っておこう」と凍結保存を希望する人は、一年間99ドル(約1万円)で保存可能。凍結保存された精子を使うタイミングが来たら手数料を払い、引き出し可能だ。

 これまで「精子検査・冷凍凍結」においてネックになっていたのは、「わざわざ病院に行ってまで検査するのも…」という手間と、高額な価格帯。検査のみで100ドル(約1万円)から300ドル(約3万2,000円)、冷凍保存の場合は年間400ドル(約4万3,000円)から1000ドル(約10万円)を超えることが通常なのだから、無理はない。特に「子どもが欲しいか、まだわからない」という若い独身男性には、なかなか難しい値段だったが、ダディなら大丈夫だ。



精液の量、精子の運動性ともに20代から80代にかけて絶えず減少していくことがわかっている。
たとえ40代以降に受精卵を作ることができても、生まれる子供に先天性の症状が出たり、流産する可能性が高くなる。

「不妊が発覚してから」ではなく「将来のために」。若い男性にも響くスタンス

 クリニックに通わずとも「自分の精子は大丈夫なの?」を知ることができるツールは、ダディ以前にもあった。ダディと同じく、スマホで結果が閲覧できる「Trak(トラック)」や「YO(ヨー)」、薬局でも気軽に買える「Spermcheck(スパームチェック)」など。そのなかでも、ダディの巧妙さが光るのは、これから父親になっていく若い世代にも響くプロダクトのデザイン、見せ方、文脈の作り方だろう。
 たとえば、キット本体。まるでアップル製品のようなフォルムだ。自分たちが日常的に使用するデバイスの延長線上のようで、見た目によって感じる精子キットへのハードルは下がりそうだ。ダディのウェブサイトやソーシャルメディアに登場する男性たちには、若いお父さんに混じり、独身らしき若い男性も。インスタグラムには、キットの使い方をわかりやすく見せてくれる動画がポストされている。
 そして、しつこいようだが、検査や凍結保存あわせても2万円。経済的に安定していない世代にも手の届く値段だ。また、トランス女性(身体は男性として生まれてきたが、心の性は女性)の支援団体ともタッグを組み、トランスコミュニティへのサポートを積極的におこなっていくという姿勢も、ジェンダー問題に積極的な世代の共感を得る。


@dadikit

 ダディは、「パートナーもいないし、子どもをつくる予定はまだないけど…」という若い独身男性にも響くようにアプローチする。事実、ダディの顧客の平均年齢は31歳、そして最年少ユーザーは17歳だという。
 不妊が発覚してから“パートナーに協力する”、“パートナーと一緒に取り組む”のではなく。パートナーがいなくても「将来、自分は子どもを持てるの?」と“男性主体で将来の子どもづくりを考える”。女性たちが「将来、わたしは子どもを産めるのか」と検査を受けたり、体をケアしているのと足並みを揃えるように。ダディは、これから“ダディ(父親)”になる若い世代にも、積極的に子どもを持つことと自分の体についてを考えるきっかけを届けている。

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Eyecatch Graphic by Haruka Shibata
All images via Dadi
Text by Haruka Shibata
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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