「嫌悪や恐怖を感じるかもしれないけれど」動物の血と骨で“塗料”を作った意図。続々登場している〈生物由来の新しい素材〉たち

古くから欧米や東アジアで親しまれるブラッドソーセージや、イギリスの朝食として愛されるブラック・プディングも。昔から豚の血は、“食材”には利用されていた。
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甲殻類の殻はプラスチックに。クラゲのDNAはドレスの糸に。動物の血や骨は塗料に。バクテリアは衣類の布に。
「エコロジー」や「リサイクル」「アップサイクル」が時代のど真ん中を堂々と闊歩するなか、さらなるサステナビリティを実現すべく出現しているのが、〈生物由来の新しい素材〉だ。“元・生き物の一部”は、再生可能な素材と化して、もう一度、息を吹きかえす。

食肉業界の廃棄物問題を解決?塗料として生まれ変わる“動物の血と骨”

 近年広まる菜食ブームで、植物由来の食物や製品を消費するベジタリアンやビーガン人口が増加傾向だ。それでも「食肉用に屠殺される動物の数」も、変わらずに増え続けている。その数は毎年、世界中で600億以上。1日に換算すると毎日1億5,000万以上。さらに、2050年までにその数は2倍になると予測されている。
 家畜を殺して解体し、食肉に加工する。その際、食肉加工場から廃棄物として排出されるのが、食肉にも皮革にも使えないとされてきた血液、骨、脂肪、皮、毛など。一頭の牛においてその約49パーセント、豚は44パーセント、鶏は37パーセントが、“ゴミ箱行きの物質”だ。


Photo via Clemence Grouin-Rigaux

 これらの物質がどこに行くかというと、下水道や埋立地に廃棄されるか、焼却されるか。その過程で、二酸化硫黄や一酸化炭素、窒素酸化物といった健康上に有害な物質を空気中や土に放出するため、環境汚染の原因として問題視されてきた。

「食肉加工場から排出される廃棄物。見て見ぬふりをしていると、私たち人間や環境に危険な結果をもたらすことになります」。そう話すのは、毎年10億が屠殺される英国在住のデザイナー、クレマンス・グロン=リゴー。同国内278ヶ所の食肉加工場から排出される「廃棄物」の深刻な問題に、ながらく地団駄を踏む思いでいた彼女。今年、ロンドンの肉屋と協力し、豚の廃棄物を“新しい素材”に変えるプロジェクト「ヒドゥン・ビューティー」を立ち上げた。

 クレマンスが作り出す新素材とは、血液を凝固させたのちに脱水し乾燥粉砕してできた「血の粉」と、骨を700度の熱湯で熱し炭素だけを取り出した「骨の顔料」。これらに接着剤をくわえて、漆黒の「塗料」に変身させる。血の粉も骨の顔料も、生分解性でリサイクルと堆肥化が可能。新しいサステナブルな素材として生まれ変わった。

 プロジェクトでは、ブラシやくし、歯ブラシ、カミソリ、石鹸置き、椅子などの日用品にこの塗料を使用し、それらを展示。ゴミ箱行きだった動物の廃棄物を、自然に日常生活のなかに溶け込ませることで、“活用できるもの”という意識を植えつける。「動物の廃棄物でできたモノを使うことに、嫌悪や恐怖を感じるかもしれません。しかし、本来捨てられるであろうものを再利用することは、食肉業界の廃棄物問題に対する認識を変える、いい方法だと思います」。




Photo via Clemence Grouin-Rigaux

バクテリアで作った服、サンゴのDNAで光るドレス。まだまだある生物由来の新素材

 この生物由来の新素材は、“世界で最も汚染度の高い業界”の一つとされるファッション業界でも活発に誕生している。繊維産業の約3分の2はポリエステルやナイロンなどの石油化学由来の生地を使用しているという状況下ではあるが、開発は着実に進んでいる様子。たとえば、人体に良い影響を与えるバクテリア「プロバイオティクス(善玉菌)」を埋め込んだボディスーツ「SKIN II」。善玉菌が汗に触れると活性化し、殺菌効果を発揮。体臭を抑えるだけでなく、皮膚の免疫力を高めることができる。
 また、石油化学系繊維の代替品として注目を浴びたのが、米スタートアップ「マンゴー・マテリアルズ」が開発した、バクテリアが生み出す生分解性のポリエステル繊維。温室効果ガスの一つである、ゴミや家畜から出たメタンガスをバクテリアに“食べさせ”、生分解可能な繊維を生成。この新しい“バイオ生地”で、地球にやさしい布製品をつくることができるというのだ。

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Probiotic Garms Shot by @karl.skurril Model @ratibaayadi #skinII

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@rosiebrdhd
バクテリア「プロバイオティクス(善玉菌)」を埋め込んだボディスーツ。


@mangomaterials
「マンゴー・マテリアルズ」が開発、バクテリアが生成した糸。

 生物由来の新素材に貢献しているのはバクテリアだけではない。クラゲやサンゴが体内にもっている発光遺伝子を蚕に組み込み、“光るシルク”を生成。遺伝子組み換えされたシルクで紡ぐ「光るドレス」を日本人アートユニット「アナザーファーム」が京都の西陣織の老舗「細尾」とタッグを組んで製作した。

 今回紹介したプロジェクトの豚の血と骨からつくられた塗料も、バクテリアの服も、現状は開発段階。新しい素材で作られたものを、目にしたり手に取るだけで、クレマンスがいう「認識を変える、いい方法」ではある。「〇〇製品の塗料は、すべて生物由来です」「〇〇の服は、新しい繊維のバイオ生地で作られています」——そんなふうに、それ相応の数の“新素材のプロダクト”が作られ、行き渡る仕組みができたときには、消費社会だからこそ世界規模の問題解決の糸口として大きな力を発揮するだろう。

Eyecatch Photo via Clemence Grouin-Rigaux
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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