動物も人間も救う“21世紀の毒物学”って知ってる?「21世紀に動物実験はいらない」LUSH Prize

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「動物実験は、まるでビクトリア朝ですね。とてもオールドファッションです。“21世紀のハナシ”ではありません」

特に医療と動物実験*、化粧品と動物実験はもう長いこと切り離せない間柄でいる。安全性、という面から考えれば「でも動物実験をしないと安全じゃないんでしょ?」と考える人は多いかもしれない。世界で年間1億以上の動物が実験に使われていると聞けば「ってか、動物実験まだそんなにやっていたんだ」と思う人もいるかもしれない。日本では資生堂などが社内外での動物実験を廃止したが、動物実験の有無において、その存在を肯定するメーカー、あるいは無回答か曖昧な回答に留めているメーカーが多く存在するのが実際のところ。さらに「製品において動物実験をしていない」という限定的な回答は「原料」において動物実験を採用している可能性がある、という見えづらい落とし穴だ。

だが、実際のところ、その動物実験の検証が30〜60パーセント程度の正確性しかない、としたら。

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いま、その動物実験にかわる代替法の導入がすすめられている。化粧品メーカーLUSH(ラッシュ)が取り組むLUSH Prize(ラッシュプライズ)は、1日でも早い「動物実験廃止」の実現を試みる。昨年11月10日、HEAPSは姉妹メディアBe inspired!と第6回となるラッシュプライズに参加。世界の最先端の科学者らが集結して進める、現代の動物実験にかわる代替法—“21世紀の毒物学”とは?

ラッシュプライズにて、エシカルディレクターであるヒラリー・ジョーンズ(Hilary Jones)とディレクターであるロブ・ハリソン(Rob Harrison)に話を聞いた。

*医学研究や新薬開発、化粧品だけでなく、日用品、食品添加物、農薬、工業用品など化学物質の毒性試験や、生理学、栄養学、生物学、心理学などの基礎研究、大学や学校といった教育現場における解剖や手技訓練などの実習、あるいは兵器開発などの軍事まで、私たちが暮らす社会のあらゆる分野で行われている動物を使用した生体実験のこと。(出典:JAVA

LUSH Prize(ラッシュプライズ)とは?

LUSH Prize

2012年に英国化粧品メーカーLUSH(ラッシュ)がイギリスの消費者団体と共同で設立。動物実験の廃止を目的に、以下の5つの支柱からなり、それぞれの分野で表彰を行う。

・サイエンス部門(Science Prize)
・ロビー活動部門(Lobbying Prize)
・世論喚起部門(Publich Awareness)
・トレーニング部門(Training Prize)
・若手研究者部門(Yound Researchers Prize)

*アメリカ大陸とアジア、欧州を含むその他地域の3地域にわける。

賞金総額は世界最大規模の33万ポンド(約4600万円)。今年の応募は38ヶ国からあり(過去最高)、そのうち11ヶ国、18プロジェクトが受賞。日本の研究者、小山智志(高崎健康福祉大学)も若手研究部門(アジア)で受賞した。

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受賞した小山智志氏。

動物実験って、現代にも本当に必要なの? 

 動物実験と聞くと、マウスやモルモット、ウサギなどにイメージがよるかもしれないが、犬、猫、鳥類、さらにはサルやチンパンジーなどの霊長類にまでいたる。生体実験に使用される動物の数は年間、1億以上。医学のため、科学のため(新薬、新製品のため)に、だ。そもそも、現代においても本当に動物実験って、いるの?

その問いへの答えが冒頭のフレーズだ。「テクノロジーがこんなに発展している21世紀にふさわしくありません」とヒラリー・ジョーンズ。ラッシュにて設立からエシカルディレクターを務める彼女は断言する。その隣でロブ・ハリソンも静かに頷いた。

***

HEAPS(以下、H): 実際に、“21世紀の毒物学”と呼ばれる代替法は、現時点でどれくらい進んでいるのでしょうか。

まず、研究においてラッシュプライズの「サイエンス」分野から回答します。サイエンス分野の前進は大きく、その中でも特に二つの研究が進んでいるといえます。ひとつは、オーガン・オン・チップ(生態系チップ)、チップのうえに人間の臓器の機能を持つ素子を埋め込むことができるもの。もう一つはAOP(Adverese Outcome Pathway)、化合物が体内に取り入れられた場合、どうやって体の中の臓器と反応しあい、悪い影響はなぜ起きたのかなどを理解するもの。この二つの実用はより現実的です。

あとは、人間の目の細胞や人間の皮膚をペトリ皿で成長させられたらどうでしょう。ウサギの目に試しになにかを点眼する代わりに、そのペトリ皿上の人間の細胞に落とせばいいのです。実際の人間の細胞を使用した毒性の確認の方が、もちろんですが30〜60パーセント程度でしか予測できない動物実験よりも正確です。これは、動物のためと同時に、人間がより安全なものを手に入れるためでもあります。

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ロブ・ハリソン(Rob Harrison)

H: 大きな進歩をみせるサイエンスとあわせて、他の支柱はいかがですか? そもそもこのプライズにサイエンスだけでなく、ロビー活動、世論喚起など5つの支柱を持った理由も教えてください。

まず、研究分野だけが進んでも代替法は導入されません。導入には国の“法律”を変える必要があります。法律が変わらなければそれはただのガイドライン、「もしかしたら動物実験をしないかもしれないし、するかもしれない」ということにとどまってしまいます。なので、ロビー活動が必要です。よく耳にするのが「動物実験を廃止と言われても、代替法がまだないから無理だ」。ロビーイングは実際の研究の進歩から20年ほど遅れている状態です。

H:世論喚起のパブリック・アウェアネスの役割は大きいですね。

一人ひとりの消費者こそとてもパワフルです。「もうあなたのところで買い物はしない」と伝える人が多ければ多いほど、企業や政府にプレッシャーをあたえることができます。また、この世論が大きくなれば「その国の新たな問題」として認識されることになります。ある日突然、「今日からうちの国では動物実験を完全廃止します!」なんて国はないでしょう。だから、一人ひとりのアクションが必要です。一人でも多くの一般消費者が知る・伝えることこそ、地盤を膨らませて社会を揺さぶる力になります。伝えることは簡単です、たとえば、企業にメールを送ればいい。それらの行動が、法律を変えることに繋がるのです。法律を変えれば、研究者たちも企業も強制的に変らなくてはならない。

H:トレーニングについては?

実際の導入を難しくするのは「やり方がわからない」ということです。たとえば、あなたがこれまで20年もウサギの目に薬物を投下していたとしましょう。ある日、誰かが先ほど例にあげた「人間の目の細胞をペトリ皿で育てられます。ここで化粧品の製品や原料を調査できます!」という代替法の研究を完成させたとする。でも、だからといって「今日からこの代替法使ってね!」とはいきません。この代替法を導入してください、と言われても「やり方がわかりません」となってしまいますから。代替法の研究ができたら、今度は正しい試行方法を、研究者たちにトレーニングしなくてはいけません。研究が進みながら法律の改定が進んでゆき、代替法の試行方法もトレーニングしながら進める。すべての支柱が足並みを揃えて進んでいく必要があります。

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ヒラリー・ジョーンズ(Hilary Jones)

H:若手研究部門も大きく進んでいると聞きました。

まず、若手研究者部門は「将来の研究計画」を提出してもらうもの。最初の2、3年はほとんどヨーロッパからだったのですが、次の3年で南アフリカ、アジアからのエントリーが増えています。若手研究部門の賞金は彼らの研究をサポートできる。受賞者からは「ここで得た賞金を研究資金にあてられてなかったら研究はできなかった」という声が多いです。

H:動物実験への代替法における研究は助成金を得にくいということがあるのでしょうか?

ファンディング(助成金)をえるのは簡単ではないです。それは単純に、現代の考え方や研究機関などが取り組んでいることにフィットしていないからでしょう。他にも助成金を待つプロジェクトは山ほどありますから。

科学者の夢は「すべてがコンピューターでできること」

H:ラッシュプライズは今年で第6回、それぞれの分野で着実に歩みを進めています。今後の計画は?

現在進んでいるサイエンスの二つの分野が現実的です。また、ペトリ皿のうえで人間の実際の細胞で実験する—この実現までにもまだまだありますが、確実にその第一段階にいるといえます。

たとえばここまで一気に進んだとしましょう。それでも科学者たちはこういうはずです、「次のステップがある」と。それは、「すべてがコンピューターでできること」です。ソフトウェアに使用する化合物の名称を入力すれば人体でどういう反応が起きるのかという結果がわかる。これが科学者の夢であり、動物と人間どちらにもふさわしい、“21世紀のハナシ”です。

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Lush Prizeのトロフィーはうさぎ型。

SNS世代ができることは「大きい」

H:世論喚起の重要性をうけて、わたしたちにもできることがあると感じます。特にSNS世代と呼ばれるこの世代は、地道ですが「伝える」ことが比較的簡単にできます。

ソーシャルメディアとともに育った世代は、その前の世代よりもずっと、多くの人に伝える術を知っています。それぞれ個人がメッセージを世間に向けて発信することができる。それともう一つ、常にSNSで何かにリーチできるということは、常により良い情報に触れた状態でい続けられる、ということでもあります。それを、自分と同じ考えを持つ人だけでなく広く伝える。これは、ムーブメントをより早くより大きく進めるための、そして、未来において根本から変化をあたえる非常に大きなポテンシャルになるのです。

Interview with Hilary Jones and Rob Harrison

▶︎Lush Prizeについて。2018年のノミネートは4月からオープンする。

LUSH
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2017年、Lush Prize受賞者たち。

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Photos via Lush
Text by Sako Hirano
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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