21年間毎週月曜日のライブハウスを満員にする“牧師”。牧師のエンタメ奥義、深夜汗まみれのゴスペルとアーメン

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太い腕を振りまわし汗の滲んだ顔で歌の合間に「アーメン?」。耳に手をあてずとも、ぎゅうぎゅうの観客から返ってくる。アーメンでもヨーメンでもどちらでも良いよというような、気持ちのいい「アーメン!」の合唱。日曜のミサよりも“月夜の牧師”、本にも胸にも手をあてず人差し指を頭上に掲げ、月曜日の夜に集まるオーディエンスのすし詰めに、豪快な救いを撒き散らしている。

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21年間、月曜の箱を埋め続ける“教祖”と呼ばれる男のエンタメ

 月曜日にユニオンプールという箱に行けばそこは必ず満員だ。名物がいる。レベレンド・ビンス・アンダーソン。Love Choir(ラブ・クワイア、“愛の聖歌隊”だ)を率いるキーボードボーカル、レベレンドとは聖職者の敬称である。その聖職者(風貌にぴったり、あだ名は教祖・ジーザス)が、毎週月曜にイワシの大群を呼び込んでいる。老若男女だ。15分前、ドアには行列。遅刻がシュミのニューヨーカーが「まだ?」とせっつく…。無料のイベントだが、チップを集める逆さにした黒ハットには、手品でわらわら溢れ出てくるほどにお札が寄せられるので、固定の値段でチケットを売るよりも実入りはよいのかもしれない。客は夜10時に集まる。もう一度言いたい、月曜の夜10時だ。ビンスたちはそのあともう一度、0時をまわって2セット目を行なう。2セット目はさらに客入りがいい。

 月曜日のライブを続けて21年(必ず満員)。見せかけの名物ではなく名バンドである。週明け一番なんとなく優れない月曜日に、満員のエンターテインメントを授ける“教祖”の考えを聞く。

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彼がビンスだ。

HEAPS(以下、H)ライブ前にありがとうございます。月曜日にニューヨークのどこかでプレイをして21年のビンスさん。

ビンス(以下、V):そうだ。いろんなライブハウスでやってきた。マンハッタンのアヴェニューB・ソーシャル・クラブでスタートして、ウィリアムスバーグのブラック・ベティにピーツ・キャンディ・ストア….。突然潰れたところもあったよ。

H:潰れたりしたときなんかは急遽、ライブをおやすみ?

V:いいや。次の月曜までに見つけてライブをするさ。月曜を逃したくはないからね。

H:単純計算でも月曜、1,008回ありました。

V:10年を越してから数えるのを止めたよ(笑)。

H:ぶっちゃけ行きたくないな、って思うこともあります?

V:ある。たまには家のソファにごろっと横になってネットフリックスでも見たいってね。

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H:すごいです。21年間、バンドを続けるのに人がい続けるというのもすごいですよ。

V:ミュージシャンのコミュニティがあるからね。また、絶え間なくプレイしたいと言ってくれる人もいる。それに、私たちは21年間も一緒にプレイしていてファミリーみたいなものだから、練習もしないんだよ。

H:でもバンドの評価は技術面も非常に高いですよ。

V:私たちはプロのミュージシャンだから。いつも意識的にいろんな音を聴いて取り入れるなどの工夫や改善はしてきているからね。

H:オーディエンスのみなさん、あなたをジーザス、教祖とステージ下から呼びます。それにお名前にレベレンドとついていますが、正式な聖職者なのですか?

V:ああ、そうだ。私は牧師だ。人を結婚させることもできる。

H:は、教祖というよりも牧師ですか。いまでも牧師を?

V:昔ほど長い時間を教会では過ごしていないけどね。教会のミュージックディレクターもやっている。音楽をしていないときの過ごし方は牧師だ。

H:牧師でいるときとライブをしているときのビンスさん、自分で違いを感じますか?

V:ふむ、ないな。私にとってはどちらも同じ。牧師でいるときも、ライブステージに立ってるときも一緒だ。どちらも真のコミュニケーションをする、ということなのだ。

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H:そもそもなぜ月曜にライブをはじめたんですか?

V:最初は日曜日だったんだけど、教会とかなにかと忙しくてね。それで月曜になった。やっていくうちに月曜に人が集まれる場所があるのはいいと思ったんだ。週末が終わって憂鬱だろう。人はそんな時に集まる場所が欲しい。一度来てそこがたのしければまた来る。それに月曜日って、他にたのしいことやっているところ少ないだろう、そもそも(笑)。

H:そして。こんなに人が来るのになぜ無料にしているのですか? 2セットあわせたら300は来てるんじゃないですか。

V:教会と同じさ。払いたければ払ってくれればいい。教会は誰もがそれぞれの悩みや想い、目的、期待を持ってくる。それと一緒で、ここにはギグ自体を目当てに来てくれてもいい、ドラッグでも酒でもダンスをしに来るのでもいい。自分がなりたい自分に改める場所なのだ。だから払うも払わぬも自由。

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H:毎度、チップがものすごい量です。

V:これが僕らが生活する糧だから。人々が払いたくて払ってくれたらうれしいさ。

H:本当にいろんな人が来ています。これもまた教会と同じで、誰もがこれる、と。

V:そう。“誰もが”だ。生半可な誰もが、ではない。クリスチャンでもヒンズー教徒でも仏教徒でも。月曜に自分を解放してアーメン(アーメンでなくとも)と叫びたいすべての人間だ! アーメン。

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H:みんな合いの手でアーメンといっていますね。演るジャンルは、ダーティーゴスペル。ダーティーゴスペルってなんなんですか?

V:私が歌うゴスペルの定義。神のことを歌うが、そのほかにも愛を歌っても食べ物のことを歌ってもですべて地球(土)と繋がっているという真実。ゴスペルは“真実”という意味だ。クラシックゴスペルをアレンジしたり、オリジナルもある。それから私はミシシッピが好きで。

H:ミシシッピ出身なんですか?

V:いや。

H:(?)

V:ミシシッピ由来の音楽がすべて好きなんだよ。ブルースのすばらしいミュージシャンたちが生まれているんだよ。ミシシッピは泥の多い川でもある。それに、ダーティ、汚いものは…良いだろう。それが真実だ。私は汚いものが好き。お金も好きだ。

H:おお!

V:逆に、無色透明にクリスタルのようなクリアなものは嫌いだね、信頼できない。もっと曖昧で、濁っているのが真実ってものさ。

H:牧師さんがいうと凄みがあります。お客さんたち、月曜に一度来るのはわかります。でもなんでみんな何度も来たいんでしょう? 宣伝とかしていないですよね。

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V:特別な宣伝などなにもしていない。私がやっているのはただのライブではない。たとえばいまのライブは、静かにノったりかっこよくノったり、あるいは突っ立ってショーを見たりが多いだろう。でも私たちのはそれじゃない。ここでの数時間は、オーディエンスとの対話だ。ありのままになってあたえ合う時間だ。自分だけ違うことをするのは変だろう、でも、ここではそれぞれが思い思いに放たれてしまう。それができるのは私たちバンドとオーディエンスに信頼があるからだ。何をしてもいい!と。私たちは、エネルギーと信頼をあたえているのだ。

H:確かに、アイツ変なやつって思われるなあと思ったらハジけられません。たとえばバンドの固定ファンばかりが毎回来る場所だったら、それなりにハジけられますが、ビンスさんのところは観光客も多く毎回初めましての人も多い。でもみんな本当に解放されています。

V:それは私自身がアスホール(ばか)にも見えるからだろう。この21年で、オーディエンスとのコミュニケーションの取り方を学んできたんだ。
理想としては、ここは月曜に「アイデンティティを捨てる場所」としてあって欲しいね。なりふり構わずなりたい自分になり、また帰るときにアイデンティティを拾う。人は、他の誰かではなく、自分として生まれ変わる感覚が必要なんだ。特に、新たな週をはじめなくてはならない、憂鬱な月曜日にはね。

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H:やっぱり月曜日、なんですね?

V:日曜日のあとだから。金曜日、人々はハングアウトする。週末をはじめるものがあるんだから、平日をはじめるためのエンターテインメントがあってもいいだろう。それに、日曜日というのは終わっていくものだ。はじまりである月曜の方がいまは大好きだ。
それに、20年間やってきて、毎週まだ大勢の人が来てくれることに驚いているんだよ、私自身。毎週月曜日に生まれ変わりたいのは、私自身もだ。

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Interview with Reverend Vince Anderson

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Photos by Kohei Kawashima
Interview: Yoko Sawai
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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