アラブ首長国連邦(UAE)出身、写真・ビデオ・パフォーマンスを媒体としてアートを作り出すファラ・アル・カシミ。彼女のアメリカ初となる個展が、現在マサチューセッツ工科大学、リスト・ヴィジュアル・アートセンターで開催中だ。『List Projects: Farah Al Qasimi』と題されたこの展覧会は、毎回、新進気鋭のアーティストを世界各国からキュレーションし、個展を開くシリーズ。今回選ばれたファラは、ニューヨークとドバイを拠点にする、91年生まれのアーティスト。
「どうしたら写真で表現しにくいものを写真のなかで表現できるか。口話のようなわかりやすい伝達手段を使わずに物事やある場所の複雑な側面について表現するにはどうしたらいいか。そういうことをずっと考えています」。そう語る彼女の作品の主題は、アラブ諸国だけではなく、ペルシャ湾岸地域全体だ。もとからある宗教的背景と、アメリカ、ヨーロッパによる植民地支配によって複雑に作りあげられた国民たちのアイデンティティについて、彼女の視点で丁寧に紐解いていく。
特筆すべきは、自身初となる40分間の長編ビデオ作品、『Um al Naar』(火の母親、2019)。ドキュメンタリー構成の中で、ポルトガルとイギリスの植民地支配について、そしてその支配がUAEの中の首長国、ラアス・アル=ハイマをどのように作りあげていったか描き出すもの。また、その中でもジェンダーが曖昧なダンサーを登場させることで、1980年代頃から社会でタブー視されるようになった女性たちの感情的・官能的なダンスの中に眠る、「体とともに自由になりたい」という願いを届けようとしているようにも思える。
「UAEの女性には比較的自由な権利があります。それでも、暗黙のルールや社会的な境界線がそれを不可能にしてしまうのです。そのような目に見えないジェンダー、国籍、階級の境界は一体どのように見えるのか、そしてどのような意味があるのか、そこに私は興味があります」。まさに「見えないものをアートを使って“見える”ようにする」彼女のユニークな視点。一度はそんなアートな覗き穴を使って、世界を眺め直してみるのもいいかもしれない。
Farah Al Qasimi, Perfume (Obama, Lovable, Flawless), 2018
Archival Inkjet print
21 x 30 in.
Courtesy the artist; Helena Anrather, New York; and the Third Line, Dubai © 2019 Farah Al Qasimi
Farah Al Qasimi, Aviary, 2019
Archival Inkjet print
45x60in.
Courtesy the artist; Helena Anrather, New York; and the Third Line, Dubai © 2019 Farah Al Qasimi
A’s Reflection, 2019, 29×42
Farah Al Qasimi, A’s Reflection, 2019 Archival Inkjet print
29x42in.
Falcon Hospital 2 (Blue Glove), 2016
Archival inkjet print
27 x 20 in. (68.6 x 50.8 cm)
Courtesy the artist; Helena Anrather, New York; and The Third Line, Dubai
Living Room Vape, 2016
Archival inkjet print
26 x 35 in. (66 x 88.9 cm)
Courtesy the artist; Helena Anrather, New York; and The Third Line, Dubai
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Abraj Mall, 2018
Archival inkjet print
69 x 50 in. (175.3 x 127 cm)
Courtesy the artist; Helena Anrather, New York; and The Third Line, Dubai
Farah Al Qasimi, Dyed Pastel Birds (30 AED each), 2019
Archival Inkjet print
26 x 40 in.
Courtesy the artist; Helena Anrather, New York; and the Third Line, Dubai © 2019 Farah Al Qasimi
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Text by Haruka Shibata
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine