ペンケースやリュックとも合う。より多くに向けた身支度ツール的〈メンズコスメ〉、日常に馴染むデザインでメイクを再定義

「僕たちのメイク用品は、女性用化粧品に、“for men”のラベルをぺっと貼っただけではないのです」
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さかのぼること59年前、米国初の大統領選テレビ討論会がおこなわれたときのハナシ。ケネディ上院議員はテレビ映りを考慮し、すすんでメイクアップを施した。対するニクソン副大統領は、見た目を気にせずノーメイク、疲弊を隠しきれない顔で演説。顔の表情や見た目だけがすべてではなかったにしろ、少なくともブラウン管越しの視聴者へ“見た目の好印象”を与えたケネディが勝利。以来、男性の大統領候補は全員、テレビに映る際はメイクをしているのだという。

取引先との大事な会議、就活の面接、気になるあの子とのデート。大統領選でなくとも、男性にだって見栄えを良くしたいときがあるし、特別な日だけじゃなくて、毎日メイクをしたっていい。近年本腰を入れはじめたメンズコスメ市場。いま注目されつつあるのは、女性用化粧品の“for men(男性用)”ではなく、あくまで男性のみをターゲットととし、彼らのライフスタイルにしっかり寄り添う化粧品。今回は、その成功例を紹介する。

ぽくない見た目がウリ。日常に馴染む男性用化粧品

 ファンデーションを塗って外回りする男性社員を見て、他社員が陰口を叩いていたのを見たのは、筆者がまだ日本で社会人だった頃のこと。一昔前までは“メイクは女性がするもの”というイメージが強く、男性のそれはタブー視される風潮があった。だがここ数年、ジェンダーレスの意識やSNSの浸透によるセルフィー文化から見た目への自意識が高まり、「見栄えが良くなってコンプレックスもカバーできるんなら、メイクすればいいよね」の感覚がじわじわ拡大。男性がこれまで以上に美容に関心を持つようになった。

 こうした男性の美意識向上により、これまでニッチだったメンズコスメ市場は近年、右肩上がり。世界では2020年までに607億ドル(約6.6兆円)、米国では55億ドル(約6,000億円)、日本でも1191億円の売り上げに達すると予測される。その波に乗り昨年暮れに登場したのが「Stryx(ストリックス)」。デヴァー、ジョー、アイザックの男性3人組によって創業された男性用化粧品のスタートアップだ。販売するのはコンシーラーと着色保湿剤の2つ。それぞれ29ドル(約3,000円)で「ライトコニャック(ベージュ)」「ミディアムマホガニー(茶褐色)」「ダークエクリプス(こげ茶)」の3色を展開、すべてニューヨークで開発され韓国で製造。無臭で、動物実験をおこなわないクルエルティフリーで、使用成分を完全公開するところも時代に沿っていて現代の消費者も安心だ。現在は米国内のみの出荷だが、近く国外出荷も検討中とのこと。

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Stryx's Concealer Tool: The official final touch. Look your best; impress your date.

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Swipe!! You can almost feel how silky smooth our Tinted Moisturizer formulation is…

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 注目したいのは、開発メンバーが推す「化粧品に見えないそのデザイン」。コンシーラーは机上に置いてあると一瞬ペンと見間違えてしまうし、着色保湿剤はまるでスマホ充電器のよう。男性だってメイクをしてもいいよね、という認識が広まるものの、メイク道具をいきなり自分の持ち物に取り入れるのは抵抗がある人もいるだろうし、自分のライフスタイルに合った見た目のものを求めるのは当然のこと。
 すでに「フェンティ」や「シャーロット・ティルブリー」などが男性用化粧品を発売しているが、男性用と謳いながらもどこか従来の女性の“化粧品”が残るデザインだった。「シャネル」や「トムフォード」などのハイブランドも続々と市場に参入しているが、ファンデが65ドル(シャネル)に保湿剤が109ドル(トムフォード)と少々値が張る。見た目や値段の観点から手の出しづらさがあったなかで、ストリックスはクールでシンプルな男性的デザインに加え低下価格。ジーンズのポケットや鞄にサッと入れ持ち運びやすく(そしてオフィスの机の上にあってもなんの違和感もなく)、男性が身だしなみを整えるアイテムの1つとして、気軽に日常生活に取り入れられる扱いやすさが特徴だ。「女性用化粧品に、“for men”のラベルをぺっと貼っただけではないのです」

メイクの意を再定義。「家を出るまでに、ベストな見た目でいたい」

 ストリックスが提案するのは前述のコンシーラーや着色保湿剤といった日常仕様のもののみ。あくまでシミやシワをカバーしたり、ニキビやカミソリ負けを隠したり、肌の色合いを整えたりするのが目的だ。したがってターゲットは、メイクによって“身だしなみを整える”ことに関心があるより広い一般男性といったところだろう。「ベッドから起きあがるとき、誰だってベストな見栄えではないでしょう。でも身支度をして家を出るまでには、より良い見た目でいたいですよね」

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The secret to a more handsome face? Just a little dab of this stuff…

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Stryx goes where you go.

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 より良い自分の見え方を求めたり、コンプレックスをカバーしたいのは女性だけではない。ストリックスは男性用化粧品を“身だしなみを整えるためのツール”として訴求することで、メイクは女性がするものを再定義し、「ヒゲを剃ったり髪をセットするのと同様、身支度の一つとしてメイクをしてみよう」と男性消費者の欲求と日々の生活習慣に寄り添う。「我々のコンシーラーは、肌に自然と馴染むように開発されたため、自分自身でさえも、肌になにか塗っていることに気づかないほど」。女性化粧品の“for men”ではなく、より彼らのライフスタイルに寄り添う男性専用化粧品。育毛剤やインポテンツの薬など男性のタブー、センシティブな問題をポップな商品パッケージでエンパワメントする「ヒムズ(hims)」も、男性コスメ文化の未来をかたく予見している。女性がするもの、から、男性もしていいよね。一部の男性だけじゃなく、一般の男性もしていいよね。“再定義”は一つじゃない。ストリックスは、これからのメンズコスメのロールモデルの一つになるかもしれない。

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All images via Stryx
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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