「Can you hear me?」 聴覚を持たないアーティストが“四感”で創り出す音
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Photo by Ryan Lash

オンザ眉毛の青髪に丸めがね。手首のタトゥーをちらつかせるその見た目は、ブルックリンのウィリアムズバーグ辺りでバリスタとかしてそうなサブカル女子。「アーティストなの」と言う姿に、やっぱりね、だ。

「私のアーティスト活動で一番困るのは、伝えたい事がダイレクトに伝えられないこと」。手話通訳者を挟まなきゃいけないし、もどかしいの、とこぼすのはChristine Sun Kim(クリスティーン・サン・キム)。

ん?手話が必要?ということは…
そう、彼女は生まれながらにして聴覚を持たない。生まれてこの方“音”を聞いたことがない。
が、その“音”を操る、新進気鋭のサウンドアーティストだ。

400作品で唯一の、人が群がる奇妙なゲーム

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Photo Courtesy of the Artist

 現代美術館MoMA PS1にて3月7日まで展示中の「Game of Skill 2.0」。順番を待つ長蛇の列についついミーハー心が騒ぎ、気が付けばちゃっかり最後尾に並んでいた。
 157人のアーティストによる400以上の現代アート作品がひしめき合うなか、テクノロジーを駆使したただひとつのインタラクティブアートが好評を博していた。
 ルールは簡単。デバイスから発信される“声”を頼りにロープを辿って進むという、シンプルなゲームだ。が、聞こえてくるのはヘリウムガスを吸ったような奇妙な声。それも複数で、「何言ってんのかわからん!」。

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Photo Courtesy of the Artist

 普段耳に入ってくるのとは違う、聞き慣れないものを理解するのは一苦労で、その感覚はまるで改めて“聴く”能力を試されているようだった。
「正確な“声”を聞き分けるのに、蓄音機の針みたいに慎重になったでしょう?」と、話すのはそのゲームの制作者、クリスティーン。その表情は、どこか自信に満ちていた。

「“音”は耳の聞こえるあなたたちのもの。私のものじゃない」
 サウンドアーティストといっても、トラックを作ったり歌ったりはしない。だが、「“音は耳から聴くもの”なんて法律あったっけ?全身で自由に感じたっていいじゃない?」。その“自由な音”というものを独自のユニークな作品やパフォーマンスを通し、“耳の聞こえる人”に向けて発信している。

「私はラッキーだった」と話す家庭環境

 カリフォルニア生まれの韓国系アメリカ人。「ラッキーだったわ」と話すのは幼少期の家庭環境。というのも、姉も同じく先天的に耳が聞こえず、話し相手がいつも側にいた。手話を覚えればすぐにそれでコミュニケーションを取ることができた。

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Photo Courtesy of the Artist

「私の定義に“完全な無音”は存在しないの」。ピアノのPで描かれた『Pの木』を指差し彼女は続ける。「Piano(ピアノ)はソフトに演奏するという意味。その数が増える程静かになっていくんだけど、いくら増えても無音には辿り着かない。微かでも、どこかに必ず音はある」。
 “独自の音の定義”を嬉しそうに話すクリスティーンだが、数年前までは「音は耳が聞こえる人のもの。私には一生関係ない」と、遠ざけてきた。音が自分の生活に入ってくるなんて考えたこともなかったという。

 その硬直的な考えを覆されたのが2008年のベルリン旅行。美術系大学として全米最大規模を誇るスクール・オブ・ビジュアル・アーツで修士課程修了後、ペインターとして活動していた彼女が訪れたのは現地のギャラリー。驚くことに、そこにはビジュアルアートが一切存在なかった。なぜか。当時のトレンドが「音」だったからだ。展示物は音を使ったものばかり。卑屈になった、と同時に音が自身のアートテリトリーに入ってきた瞬間でもあった。

「音は生活の一部で、常に意識の中にあることに気づいてしまった。私にとって音は、耳で聞かなきゃダメなわけじゃない。触れて、見て、アイデアから感じるもの」。

「周りにいる人のリアクション」から音を知る

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Photo Courtesy of the Artist

 初めて音に興味を持ったとき、それがどれだけ社会の中に偏在していて、人間が頼り切っている情報源かを思い知らされた。「音はお金。パワー。コントロールが自由自在。まるで社会の通貨のよう」

 “音の所有者”になることを決意した彼女は、自分の中に深く根づいていた固定概念を壊すことから始めた。
「一体どうやって音を学んだんですか?学ぶも何も、聞こえないし…」。申し訳なさそうに聞く筆者に明るく返す。

「みんなのリアクションからよ。たとえばドアをバァーンと強く閉めると『もう!』と注意される。ポテチをボリボリ食べると『音たてないで!』とイライラされる」

 周囲の人々のこういったさりげない反応から原因を推測し、音を身につけてきたのだ。彼女はこれを“サウンド・エチケット”と呼ぶ。「耳が聞こえる人より、音に敏感に反応しちゃうの」と照れ笑う姿は、人並みならぬ努力を重ねて来たことを伺わせる。

「壁を壊したかった」。平等を求めて探した“声”

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Christine Sun Kim’s collaboration with Taeyoon Choi, Photos by Filip Wolak

 世知辛いもので、声の文化はクリスティーンの前に大きく立ちはだかった。コミュニケーションを必要とする場面で、世間の「声が使えない者」に対する目は厳しかった。「コミュニケーションがまったくとれない人間」と扱われることもあった。

「だから私は平等に扱われるために、自分の声になってくれる手話通訳者と働く必要があった。いま、彼らは全力で私を支えてくれる」。声を代弁し、個性の表現をも可能にする手話通訳者は、彼女にとって必要不可欠なパートナーだ。

 観客体験型の実験的パフォーマンスや手話通訳者の協力から、独自の聴く能力を学び、自らの意思を社会に発信する、自らのやり方で声を確立したクリスティーン。「Game of Skill 2.0」もしかり。自身の経験を反映した作品には、音の従来の制限から解放され、耳からだけでなく自由に音を捉えてほしい、というメッセージが込められている。

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Christine Sun Kim’s collaboration with Taeyoon Choi, Photos by Filip Wolak

 実は初め、ベルリンに拠点を移した彼女にはメール取材を依頼していた。が、思いがけずに彼女から提案されたのは、スカイプ取材。

「第一言語のASL(アメリカン・サイン・ランゲージ=手話)の方が、率直な思いを伝えれると思う」により、クリスティーン・手話通訳者・筆者の三画面のスカイプ取材を行った。
「聞こえる?いま画面フリーズしちゃったけど、あなたの表情パーフェクトよ」なんて“話し”ながら、画面越しに微かに聞こえてくるクスクスという笑い声がたまらなく可愛かった。

 生まれながらにして聴覚を持たない、という側面が与える作品作りや、人間形成への影響は大きい。持ち前の貪欲な探求心と、とびっきり明るいパーソナリティがそのクリエーションを支えている。“声”の引き出しが増えることで、進化し続ける彼女の作品に、いちファンとして期待が高まる。いま、“音”に向き合うことは、確実に彼女のライフスタイルだ。

Christine Sun Kim /christinesunkim.com
christinesunkim.com

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Top Featured Photo by Ryan Lash
Text by Yu Takamichi
Special thanks to Elizabeth Staehle, sign language interpreter

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