匂いで思い出を閉じ込めるキットが誕生。 第一次世界大戦の匂いを再現したエキスパートが発明したのは「スメル・メモリーキット」
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ある匂いを嗅ぎ、フラッシュバックのように反射的に何かを思い出すことはありませんか。
誰にでも、あの日、あの時、あの場所、あの人、あの想いを一瞬にして呼び起こす匂いがあるはず。

匂いを嗅げばあの瞬間を思い出す、そんな“鼻から始まるタイムトラベル”を可能にする装置が生まれた。匂いで記憶を留める、“匂いの思い出キット”なるもの。

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 発明者は、「第一次世界大戦の匂い」を再現したことのある、匂い界の大物だ。

匂いのスナップショット、撮ってみませんか

「(このキットは)私と匂いとの20年間の仕事を凝縮した商品」と語るのはシセル・トラース(Sissel Tolaas)。“匂いを嗅ぎ、匂いの微分子を集め、匂いを再現する”ことに20年もの年月を捧げてきた、世界的にも著名な“匂いのエキスパート”だ。

昨年、オーストリア・ウィーンにあるSupersense Lab(スーパーセンスラボ)と共同でこの「匂いによって記憶する装置、スメル・メモリーキット」を開発した。

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「ある瞬間を記憶に留めておきたいとき、スナップ写真を撮ったり、録音したりするでしょう。それと同じ原理」とシセル。その瞬間を、“匂い”で記憶するのだ。

使い方は、いたって簡単。

①記憶したい瞬間やその場所に、この小瓶を持って行く。

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Image via Supersense Lab

②蓋を開け、中の試験管をポキっと折る。

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Image via Supersense Lab

③試験管内に既に入っているアブストラクトスメル(シセルが発明した、オリジナルの匂い。誰もが嗅いだことのないもの)が放出され、それを鼻いっぱいに吸い込む。
④吸い込んだその匂いが、いまいる場所、ある瞬間を捉え、あなたの脳に記憶させる。

という仕組み。そして、⑤その匂いを嗅げば、いつでも思い出せる。

 キットには、3つのアブストラクト・スメルが付属。一つで約3年から5年持続するため、匂いに追随する記憶を5年後も、10年後も留めておいてくれる。

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Image via Supersense Lab

「今度の休暇で行く旅先で匂いと記憶を留めたい」、「大好きな人と会っている時間を匂いにしたい」など、匂いに留めておきたい瞬間がわかっている人は、シチュエーション別のアブストラクト・スメル、T(Travel)、H (Home)、D (Dating)、E (Education)、F (Food)から、自分で選ぶことができる。

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Image via Supersense Lab

「『僕たちの赤ちゃんが生まれたときに、小瓶を持って行って匂いを嗅いだよ』って、”特別な瞬間”に実際にキットを使った人からの声も届いたんだ」と嬉しそうに語るのは、同ラボ創設者でシセルとの共同開発に携わった生物学者のフロリアン・“ドク”・カプス。
「僕自身もタイに家族で旅行した時に、T(Travel)の匂いを持って行ったよ。寒い日にはその匂いを嗅いで、タイの暑いビーチのことを思い出すんだ」

「現実を模写するの。風景を描くみたいに。私は“目に見えない風景(匂い)”を描いている」

 アブストラクト・スメル、シセルの「匂いのアーカイブ」から厳選され、作られたオリジナルの匂い。現在は26種類あり、そこからランダムにあなたの元に届けられる。

 ベルリンにある彼女のラボ。

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Image via Sissel Tolaas

 彼女が20年かけて再現してきた7,000の匂いと世界中から集めてきた2,500の匂いの微分子たちが所狭しと並んでいる。

 まさに20年間の“匂いの”結晶だ。

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Image via Sissel Tolaas

 ここには、世界の“都市”の匂いもある。パリ、ストックホルム、デトロイト、オスロなど世界各都市を歩き回り集めてきた匂いで“その都市の匂い”を作り出すプロジェクト「Smellscape(スメルスケープ)」だ。

 たとえば、自身の故郷では海や漁港の匂いを中心に、メキシコシティーでは“汚染”をテーマにした匂い収集、上海では食べ物の匂い、など。
 東京でも、2013年に東京都現代美術館で開催された「現代社会をアートにする」展覧会のために、東京各地で収集した匂いを混合した新しい“匂い”を作り上げた。

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Image via Sissel Tolaas

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Image via Sissel Tolaas

 最近では、「美」をテーマにした展覧会の参加アーティストとしてニューヨークのセントラルパークの匂いを作るという。

 匂いのサンプルとなるものを現地から集めラボに持ち帰り、その匂いを構成する微分子を分析し突き止め、1つ1つ分解。その微分子を複製して組み合わせ、匂いを蘇らせるのだ。

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Image via Sissel Tolaas

「私は現実を模写するの。風景を描くみたいに。私は“目に見えない風景(匂い)”を描いている」 とセシル。匂いのエキスパートとして20年、あらゆる匂いを収集、再現、制作してきた。そんな彼女のターニングポイントは、「第一次世界大戦の匂い」を再現したことだという。一体、いかにして? 

▶︎次は、
そこに匂いがあるかぎり、彼女の仕事はある
「第一次世界大戦の匂い」を再現した、匂いエキスパートのプロフェッショナルな仕事の裏側

Supersense Lab
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Text by Risa Akita

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