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  • Nov 20, 2015
小学校の全給食「ベジタリアン化」はアリ?
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全給食をベジタリアンに。公立小学校の給食拝見

「いやいや、子どもには、お肉やお魚、野菜や乳製品をバランス良く食べさせなきゃ!」
もちろん、そんな声もあったという。
2013年より、とあるニューヨークの小学校、全給食をベジタリアンにシフトさせた。いったい、どうやって保護者の同意を得たのか。実際、その取り組みは上手くいっているのだろうか。ある日の給食にお邪魔させてもらった。

「校長先生、チョコレートミルクには、お砂糖がいっぱい」

「先生、チョコレートミルクには、お砂糖がいっぱい。だから、牛乳のほうが健康的だよね?」
 ある日のこと校長先生は、小学校3年生の生徒たちから、給食の人気メニュー「チョコレートミルク」について、そんな議題を持ちかけられたという。

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 ニューヨークのクイーンズにある公立小学校(アクティブ・ラーニング・エレメンタリー・スクール)のGroff(グロフ)校長、そこから「どうやってチョコレートミルクをメニューから外そうか?」と子どもたちと話し合いをすることに。そして「これを機に、よりヘルシーで栄養価の高い給食への取り組みをはじめました」
 動きだしたのは約3年前の2012年。それまでは、他の公立学校と同じように、アメリカの給食といえば…とネットで散々写真を曝されるメニューと相も変わらず「ピザやホットドック、サンドイッチ、タコスなどが多かった」という。
 肉に変わる代替料理としては、「ハマス(茹でたひよこ豆を潰してペーストにしたもの)、豆腐料理、ファラフェル(すり潰した豆を混ぜてコロッケのように揚げたもの)など」を試作。それらを「ファミリー・ディナー・ナイト」なる保護者を招いての試食会を催し理解を仰いだ。そうして“ベジタリアンメニュー”の給食の日を、「最初は週に1日、それを2日、3日と増やしていった」そうだ。

ベジタリアン給食で入学希望者が殺到?

 スナック、ソーダ、ジュース以外であれば、肉入りのお弁当も許可している同校。給食の時間、ある男の子は皆が列に並んでいる中、そそくさと持参のお弁当を食べはじめていた。「お父さんが毎日お弁当を作ってくれるの!」という彼のお弁当には牛肉と彩り野菜の炒め物が。
 彼のように弁当を持参する生徒は「全校生徒450人のうち、ベジタリアン給食をはじめた当初は10%くらいでしたが、いまでは5%もいない」という。
「保護者の中には、ベジタリアン給食に反対されている方や、そもそも公立学校の給食の品質を信用していない方も存在します。ですが、ファミリー・ディナー・ナイトのあと『これだけの食事を与えてくださるのでしたら安心です。もうお弁当は持たせません』という声も頂いたんですよ。努力が報われた想いでした」

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 米疾病対策センターによれば、現在「太りすぎ」または「肥満」のアメリカの子どもは約6人に1人となっている。にもかかわらず、同校では肥満の子どもを一人も見かけなかった。もちろん、写真の通り同校にはアジア系の生徒が多いというのも大きな要因ではあるかもしれない。しかし、ジャンクフードや糖分の多いお菓子やジュースを無くした「ヘルシーな給食」の功績は非常に大きいといえるのではないだろうか。一日の食事の一回がヘルシーであるということだけでなく、それが毎日の週間となっているわけだから、自然と食に対しての意識や好みも変わっていくだろう。
 過去4年間で、生徒たちの出席率は年々改善され、市の平均が92%のところ、同校では「97%以上をキープしている」という。さらに、学力テストの結果にも変化が。「過去3年間、ニューヨーク州でもトップクラスを維持しています。2012年の学力テストは全米中11位でした」
 上記のようなデータや、より健康的な給食にシフトしたことが理由かは定かではありませんが、と前置きをした上で「近年は入学希望者が殺到している」と明かす。学区外の生徒も平等に、“抽選で”受け付けているそうだが、その人気っぷりは「約150席に対し、1,000人もの応募があった」というほど。

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怖いな、この国。驚愕のアメリカンお粗末給食

 全給食をベジタリアンに変えるにあたっては「いままでと同じ予算内でなら」というのが市からの条件だった。知っている人も多いだろうが、一部のチャーター(特別認可)スクールをのぞいて、アメリカの公立学校の給食は、先進国らしからぬ「お粗末さ」。基本的には、サンドイッチ、ピザ、フライドチキン、フライドポテト、リンゴといった「手で食べられるもの」が主流。
 日本の公立学校で栄養バランスまで考慮された美味しい給食を毎日食べて育った身としては、そのお粗末さに唖然としてしまった。グロフ校長も「予算が非常に少ないうえに、一人当たりに与えなければならない量の設定数値が高すぎる。ほとんどの生徒が完食しきれていません」とこぼす。
 ニューヨークでもサラダバーのある公立学校が増えはじめた、とニュースでみたことがあったが、キャロット、トマト、ブロッコリー、セロリ、コーンなどが選べるセクションが同校にもあった。だが、野菜の品質について尋ねると、「できることなら、オーガニック食材を使いたいが、いま現在の予算で実現するのは非常に難しい」と校長先生。
 同校の給食は、保護者の収入によって無料、もしくは1食1.75ドル(約210円。ちなみに日本の小学校の給食の一食当たりの平均は240円程度)だ。驚いたのは、「無料」で食べている生徒は、全校生徒のうち約70%も占めていることだ。

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 ニューヨークのオトナたちが、これだけ「ローカル、オーガニック、フェアトレード!」と喧しい中、公立学校へ通う子供たちが口にするものは、90年代のアメリカとほぼ変わっていないことへの違和感たるや…。
 一方、そのお粗末な給食を食べて育ったミレニアル世代に聞くと、子ども心に「あれはあれで、美味しかったと記憶している」という声も多い。「俺はこっそりチョコレートミルクを毎日2個飲んでいた」という友人なんかは、「いまの子どもはロボットか!子供がチョコレートミルクを批判するなんてありえないだろ!」と笑い飛ばした。
 なんだかな。「アメリカの給食ひどすぎる」というショックと、「あんなものしか食べてなくても、人間ってそれなりにちゃんと育つんだ」という妙な安心感の狭間で、筆者はまだ、複雑な気持ちを消化し切れずにいる。ともあれ、“あんなもの”から脱した第一波の子どもたちが大人になって給食を振り返るのは、もう少し先のことだ。


Photographer: Kuo-Heng Huang
Writer: Chiyo Yamauchi

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