NYCの大動脈を支える地下鉄車両とタクシーはニッポン製

Share
Tweet

NV200-green-yellow01

日産タクシーはイエローだけじゃない 新顔の「グリーン」もお目見え

ニューヨークの代名詞ともいわれる「イエローキャブ」が日産自動車の「NV200」になるというニュースは日本でも大きく取り上げられたので、記憶に新しいだろう(HEAPS ISSUE 06/2013年9月号でもフィーチャーした)。採用の決定は2011年。ニューヨーク市のタクシー・アンド・リムジン委員会(TLC)が実施したタクシー開発プロジェクト「タクシー・オブ・トゥモロー」のコンペだ。ニューヨーク市と日産自動車は10年間の独占契約を締結。1万3,000台のタクシーの順次入れ替えが開始して1年経った今、続々と日産タクシー「NV200」が路上デビューしている。乗客用エアバック搭載や高い耐衝撃性の安全面に加え、現在のタクシーにはない広い車内空間、携帯デバイスの充電ステーション、ニューヨークの街並みが楽しめるよう大きなサンルーフを装備するなど、その機能性の高さでニューヨーカーを“虜”にしている。

持続可能な都市「グリーン」がNYCの新しいカラーに

さらに2012年春に発表された、緑色の「Boro Taxi」も日産製。Boro Taxiとは、マンハッタン北部・クイーンズ・ブルックリン・ブロンクス・スタテンアイランドの5区を行き来するタクシー。従来はリムジンタクシーの市場だった5区間に、一律料金のBoro Taxiが導入されることで、利用者にとっては使いやすいサービスが加わることとなった。1万8,000台が、3年かけて順次デビューする。なんといっても目を引くのが、鮮やかなグリーン。ビッグアップルの愛称を持つニューヨークの「青リンゴ色の新しいタクシー」としても話題となった。2013年6月から6,000台が市内を走っており、街に定着してきた感がある。なお、日産自動車は電気自動車の導入も提案しており、すでにニューヨーク市と共同で同社の電気自動車「リーフ」を用いたタクシーの試験サービスも行っている。

「2020年までに市内タクシーの3分の1を電気自動車にしたい」と環境対応に意欲的だったブルームバーグ前市長の意向を、デブラシオ市長も引き継ぐとされている。環境対応=グリーン、ビッグアップル=グリーン。大都市ニューヨークに欠かせないタクシーサービスを、エコの観点からも機能性からも、日本の技術が支えている。

r188

ニューヨーカーの足、24時間運行の地下鉄を走るのは川崎重工製の車両

ニューヨーク市の地下鉄は全長約660マイル(約1,062キロ)。約6,300車両が22路線を走り、468駅をつないでいる。1904年の開業以来、地下鉄は世界都市ニューヨークの「顔」であり続けている。「一律料金」「24時間運行」「グラフィティ」「治安の悪化」「老朽化」など、利便性も危険性もすべて包括する地下鉄こそ、ニューヨークの縮図だ。より洗練された高度な都市機能を実現するために、2社が競うように地下鉄網の土台をつくり上げた。やがて市が統括しつつ、独立法人として運営するシステムを構築。時代の流れとともに、車両の改善も行われてきた。

ニューヨークの地下鉄が史上最悪だった1980年代、車両の改善で治安回復に一石を投じたのが、日本の川崎重工業だ。1896年の創業以来、鉄道車両製造のトップメーカーとして走り続けてきた同社が1912年に発表した車両は、「費用対効果が高い」と評価され、Kawasakiの名を世界に轟かせた。安全な公共交通網の充実は、人とモノの流動を活発化させ、街を都市に発展させる。川崎ブランドは都市機能の発展に貢献してきた。

static1.squarespace-2

「地下鉄は怖い」イメージを払拭

ニューヨークで川崎車両がデビューしたのは、落書きまみれの車両が走り、風紀が乱れ治安が悪化し、「ニューヨークの地下鉄は怖い」というイメージがすっかり根付いてしまっていた1980年代初頭。MTA(メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティー)は、治安改善のため、まずは地下鉄構内および車両内の風紀を正そうとするが、落書きの洗浄に苦戦していた。消しては描かれるグラフィティ。そのいたちごっこに終止符を打つために登場したのが、Kawasaki R-62車両だった。発注は1981年。83年から85年にかけて納入された車両は、内外がステンレススチール製であったため、グラフィティの洗浄作業効率は飛躍的に改善した。当時のMTA職員のなかには、市の治安改善に尽力したことで知られるジュリアーニ元市長による「割れ窓理論(Broken Windows Theory)」や1989年の「Clean Train Movement」よりも早く、MTAは風紀改善のカードを切ったとし、それを可能にしたのが、川崎車両だと振り返る者もいるほどだ。

御三家を抜き、トップシェアに

R-62モデルを325車両受注して以来、川崎重工業は、鉄道車両メーカーの御三家といわれるシーメンス(本社ドイツ)、ボンバルディア・トランスポーテーション(本社フランス)、アルストム(本社フランス)と並び、車両シェアを伸ばしていく。モデルを一新、改善しながら現在まで2,000車両以上を納入してきたとされ、現在では、ニューヨークの地下鉄車両のトップシェアは川崎重工業となった。

2022年までに最大で676両、過去最大の実績に

その姿勢と実績に対するMTAの川崎重工業への信頼は、年々多くなる受注数を見ても明らか。川崎重工業は、今年1月、2010年に受注した新車「R-188」23両および既存車改造10両を納品したばかり。目下、2017年から2018年にかけ納入予定の、メトロノース鉄道とLIRRで使用する通勤車両92両の製造に取りかかっている。さらに、同契約では、2022年までに最大で676両の追加受注を見込んでおり、その場合の売り上げは約18億3,000万ドル(約1,830億円)に上り、川崎重工業にとって過去最大のビジネス実績になるとされる。オバマ大統領の政策のもと、エネルギーを含め、環境に配慮した持続可能な都市計画がうたわれており、特にニューヨーク市では、公共交通手段としての電車に対する再評価が進んでいる。それに応えるように、川崎重工業は制御システムの向上や省エネの技術開発に努めている。今日もKawasakiブランドの地下鉄車両が、ニューヨーカーの日常を支え、人生を運んでいる。

掲載 Issue 15

 

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load