「好きになったのが、たまたま女性だっただけ」。トランスジェンダーと恋に落ちた女性の話

「彼と彼女の写真」。見た人はきっとそう思うだろう。実はこの二人、両方とも女性だ。女性に生まれながら男性として行きて行くJD-Samson(JD-サムソン、以下JD)と、その“彼”の彼女であるAriel Sims(アリエル・シムズ、以下アリエル)。ブルックリンのウィリアムズバーグにある二人の家を訪ねた。

「好きになったのが、たまたま同性だっただけ」

 ブルックリンを拠点に活動するDJユニット「MEN」のメンバー、JDが、パフォーマンスアーティストでミュージシャンのアリエルと出会ったのは、2010年のこと。お互いアーティスト同士の二人がケミストリーを感じ合い、つき合うようになるまで時間はかからなかった。アリエルはJDが女性であることを知らなかった。男性だと思っていたという。

 しかし、「つき合うことに特に躊躇はなかった。たまたま好きになった相手がJD、そして女性だっただけ」とひょうひょうと話す。一方でJDは、生活のためにレストランでも働いているアリエルを見つめながら、「仕事がらパーティー漬けのような生活をしている自分には、彼女のような地に足の着いた生活をしている人が必要なんだ」と話す。

 年齢は6歳差。「私たちの世代がカミングアウトしやすくなって当たり前に生活できるのは、JDの世代が困難を乗り越えてセットアップしてくれたから」と話すアリエル。助け合い、支え合い、尊敬し合うパートナーのあり方。そして、好きなことを忠実にできるライフスタイルこそ、二人が実践しているものだ。

 フレンドリーな黒猫のダーティーと三人暮らし。キッチン、仕事部屋、リビングルーム、ベッドルームは、こざっぱり片付いている。壁や冷蔵庫には、二人の幼少期の写真や数々のアートが飾られている。目に留った作品について尋ねると、365個のハートが描いてあるという。「私たちの愛の証。つき合いはじめたときから、毎日一つずつ描き足していったもの」とアリエル。「2年目は730個のハートをコットンの布に、3年目はレザーに1,095個のハート型を押して記録している」とうれしそうに続けるJD。4年目はどうしようか、といいながら何気なくボディタッチし合う二人。愛らしいカップルだ。

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幼いころから性に違和感。カミングアウトは手紙で

 オハイオ州クリーブランド出身のJD。幼少の頃から、野球など男の子の遊びが好きで、ピンクやフリルのついた、いわゆる“女の子らしい”服装が苦手だった。「いま思えば、それが自身の性に対する目覚めだった」。10代になると性を意識しはじめ、「男性でいる方がより快適」と感じるようになり、その気持ちは強くなるばかり。いよいよ家族に打ち明ける決意をしたものの、当時15歳だったJDは、恐怖のあまり、直接告白することができず、短い手紙に自分の気持ちを綴って家族へ送った。「曲名は忘れてしまったけれど、女性シンガーのアーニー・ディフランコの曲の歌詞に、『私は私。何にでもなれる』というくだりがあって、それを模倣したんです」

「(家族の反応が)怖くて震えた」と、当時を振り返るJD。LGBTに対する理解はまだ浅く、両親はショックを隠しきれなかった。
「仕事での成功も難しくなる。恋人や家族もつくれない。幸せな人生は送れない」。両親の言葉は、娘に女性としての幸せを願っていたからこそだった。しかし、娘のことを理解したいと思った母親は「PFLAG」というゲイの子どもを持つ両親や友人のためのグループを見つけ、そこでLGBTについて学び、JDをサポートしてくれるようになったという。
 友人へのカミングアウト直後は、彼らの反応を恐れて自ら距離を置いたと話すJDだが、彼らの反応が予想と反して寛容的だったのを覚えているという。大学進学のためにニューヨークへやってきたのは、1996年のことだった。

セクシュアリティに関心がない世代

 ワシントンD.C.出身のアリエルも、幼いころから「自分は周りの女の子とは違うと思っていた」という。8歳のとき、「レズビアン」という言葉を耳にし、父親に意味を尋ねると、「女の子が、男の子よりも女の子を好きになるってことだよ」と教えてくれた。それに対し、「じゃあ私はレズビアンね!」と応えたアリエル。そんな娘に対し、両親は、「違うよ。お前はまだ意味が分かっていないだけ」と笑ったが、自分にはその感情があるとわかっていたと話す。

 思春期になって性に対する恋愛感情も芽生えたが、「何人かボーイフレンドもいたの」とアリエル。しかし、Queer(クィア)※コミュニテイには常に興味があり、大学進学のためにニューヨークに引っ越すと、そのコミュニティがより身近になった。
「私は自分のことをバイ(セクシャル)だと思っていたけど、JDに会ってからは完全にレズビアンね」。JDが魅力的だったのはもちろんだが、自分に正直になって好きになった人が女性だっただけだ。また、アリエルの世代になると、自分のセクシュアリティについて公言する必要もあまりない。ゲイやレズビアンがいるのは当たり前で、大抵の場合は「レズビアン? クールね」といった反応なのだという。

※ゲイやレズビアンの総称

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 アパート探しや空港でのトラブル

 しかし、自身や自分の世代の感覚がそうであっても、世間はそうでない場合が往々にしてある。レズビアンであるがために直面した問題もあった。一番ショックだったのは、二人で暮らすためのアパート探しで、「レズビアン・カップル」であることを理由に断られたことだ。セクシュアリティを理由に大家がテナントを断ることは違法なので、表向きの理由は「二人がフリーランスだから」。つまり、収入が不安定だからだったが、二人はそうでないと確信している。

 なぜなら、トントンと進んでいた契約が名前を記したとたん頓挫した。JDが女性だということが名前で分かったために凍結したのだ。手のひらを返したように態度が豹変した大家を見て、二人は心を痛めた。また、JDはその見た目から、空港などでもトラブルに遭いがちだという。セキュリティチェックは通る前に検査官が男性か女性かのボタンを押している。検査官は決まってJDを勝手に男性と判断してボタンを押すので、結局もう一度「検査やり直し」になる場合が多いという。また、JDには男性器はないが、トラブルを避けるため、男性トイレを使うことにしているそうだ。ただし、自分をよく知るファンの多いライブの会場では、女性トイレを心配なく使用できるという。

“SHE × SHE”、ありのままで

 興味深かったのは、JDもアリエルも互いについて話すとき、「SHE」(彼女)を使っていたことだ。JDは男性っぽいので、「HE」と呼ばれたいのかと思っていたが、そうではないようだ。胸もそのままだし、生理もあるし、トレードマークのヒゲも自然に生えているそうだ。昔は手術も考えたと話すJDだが、「生まれたままの自分でいたいので、自然のままにしている」とのこと。

 長い時を経ていま、ニューヨークではLGBTQへの理解が深まり、より多様なセクシュアリティのあり方が受け入れられている。家族や自身の周りで、LGBTであることをカミングアウトされても、驚く者は少ない。そんな時代であることも踏まえて、JDとアリエルの二人の関係を見ていると、「どうして同性を愛するのか」などと考えるのは愚問だ。
 彼らはたまたま同性が好きなだけで、異性を好きになる人たちのその感情と何も変わらない。むしろ、周りが考えるほど、彼らは難しく考えたりせず、もっと自身に素直でシンプルな生き方を送っている。それこそが自分を愛することであり、パートナーを愛することでもあるのだというように。「We love US」(私たちが私たちであることを愛する)、見習いたい生き方だ。

Photos by Omi Tanaka
Text by Yoko Sawai 

掲載  Issue 17 

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