汚染運河に浮かぶ。希望の「スモールアイランド」
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ここでハーブが育ったとしたら、それはどこでも育つってこと。

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ブルックリンを流れるゴワナス運河。全米で最も汚染されていると“名高く”、もっぱら「Dirty(不潔)Sewage(汚水)Gross(キモい)」の単語で形容される。そんな悪評立つ運河に、突如現れた“謎の小島”。のんきにプカプカ浮かんでいると思ったら大間違い。身近に存在する植物たちを生やしたその小さな島こそ、低コスト・省エネで最悪の汚染水を浄化するという。その革命的な「希望の小島」の正体とは?

ブルックリンを流れる、全米で最も汚ない運河

 ブラウンストーンの暖色系ブルックリンを想像して行くと、産業化の残滓を留める冷たい鉄筋コンクリートの世界にアレ?となるのがここゴワナス地区。そこを流れるのが地名由来の、ゴワナス運河。長年にわたる廃棄物や暴風雨による水や下水道からの流出、産業性汚染物質などが原因で、いまでは「全米で最も汚染された運河」のひとつに名を馳せる。

 科学調査では「ヒ素や発がん性物質・放射性物質・細菌」などが検出されており、今年のアースデイには、水質汚染反対活動家の男がなんとこの運河を泳ぎ、浄化の必要性を訴え話題となった(遊泳後は過酸化水素水でしっかり殺菌をしたそうな)。
 過去に何も試みてこなかったわけではない。1972年に水質汚染防止法が施行されたが、虚しい程に変化はほとんどなし。さじを投げられっぱなしの汚い運河の、まだまだ払拭されない悪評を拭うべく浮かべられたのがこの小島。仕掛人は、ニューヨークに拠点を置く国際都市・景観デザイン会社「バルモリ・アソシエイツ」だ。彼らは今年9月中旬、一見のんきな小島こと「汚染水浄化実験プロジェクト『GrowOnUs』」を始動した。

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“エリアのお洒落化”にあわせて汚染クリーンナップ

 小島の正体はずばり「水上園芸」。外観は主に金属パイプで構成されており、その内部にアヤメなど7種類の浄化作用のある植物とその他12種類が植えられている。浮力には大量の廃棄ペットボトルを使用。7種類の植物が可能にする「ファイト・レメディエーション」という働きが汚染水に効くという仕組みだ。

「ファイト・レメディエーション」とは、生物による環境修復の一つで、ファイト(植物)レメディエーション(修復)を意味し、植物が気孔や根から水分や養分を吸収する能力を利用して、土壌や地下水、大気の汚染物質を吸収、分解する技術のこと。従来の機械装置を用いてのそれに比べてかなりの低コストかつ省エネと、社会的貢献にも一役買っている。

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「ゴワナス運河は、悪評高い有害廃棄物の土地。ゴワナス地区自体が少しずつお洒落なアートスペースやライブハウスも増え、ゴワナス地区は劇的な変貌を遂げつつあるの。それなら長年無視されてきたこの状況も変えなくてはと、プロジェクトを開始した」と話すのはバルモリ・アソシエイツの創設者ダイアナ・バルモリだ。

“誰の目にもオープン”の実験

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 プロジェクトの行程は塩ロット(冬の間、市が塩を保存する場所)と呼ばれる運河に隣接した建物内で行われた。繰り返し行われた浮力実験は、約ワンシーズンと予想外に長期に渡った。加えて、設計・施工には特に重点を置き、費やすこと約3ヶ月。
「このプロジェクトは、私たちの長期に渡る研究の成果。アイデアと実験が功を奏したのよ」と笑みをこぼす。

 コミュニティからの反応もいい。データ収集のためカヌーで小島に向かう際、道行く人々からは毎回ポジティブな言葉をもらうという。「地元住民が予想外の緑地に驚き、感謝してくれているの。それだけで感動しちゃうわ」と、興奮を抑えられない様子の同職員。
 住民など誰の目にも触れられる場所でオープンに、「公共の研究所」のごとく実験を続けていることが「GrowOnUs」の魅力なのだ。

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 このプロジェクトでは植物の浄化作用や水上園芸で植物が育つ過程、また汚水との関係性を提示しているが、「難しいことは考えずこの小島をコミュニィにプラスなパブリックアートとして捉えてもらえれば」と話す。
 1972年に約5億ドル(約610億万円)が必要だったとされる浄化作業だが、「GrowOnUs」が成功すれば2万ドル(約240万円)という超低コストで可能になる。低コストに加え、エネルギー消費はなんと「ゼロ」、さらに前述の「ファイトレメディエーション」は環境への二次的負荷がないとくるこのプロジェクト。気象条件に影響されやすく、植物の生育に時間がかかるといった短所もあるが、遅かれ早かれ、何もしないよりは充分に意味があるし、可能性も広がる。また、全米で最も汚染された運河が浄化されれば、どこでも浄化可能という証になる。

 バルモリ・アソシエイツの今後の目標は、より「大きな島」に育ててゆき、最終的には他の場所で多くの水上園芸を始動させたいとのこと。そして、それができれば生産が合理化でき、収穫した植物をレストランや農場市場で販売し、資金調達を視野に入れている。「このゴワナスで育ったパセリやバジルが食卓に並ぶことは、まだ期待しないでね。あくまでまだ実験段階だから。でも最初の実験が“全米一汚い”わけだから、ここで成功すればその先はもう見えてるわ」と笑顔で締めくくった。

※1ドル121円で換算

Writer: Yu Takamichi, edited by HEAPS

All images and works ゥ 2015 Balmori Associates, Inc. All rights reserved.

Project team:
Diana Balmori, Jessica Roberts, Noemie Lafaurie-Debany, Conor O’Brien, Leeju Kang, Kelsey Wakefield, Javier Gonzalez-Campana, Izzy Lezcano, Hao Liang.

Project Partners:
Cornelia & Michael Bessie Foundation; Greenbelt Native Plant Center, NYC Parks; Gowanus Dredgers Canoe Club; Serett Metalworks; Textile Arts Center; Consulmar; Brooklyn New School.

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