地元民と一致団結!リオのスラム街・ファベーラの丘をキャンバスにする、巨大壁画プロジェクト「Favela Painting」
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そのアイデアはファベーラの丘を眺めていた彼らの頭の中で突然として生まれた。
「この丘全体をカラフルにペイントしたらどうなるだろう?」

2005年、初めてリオのファベーラに足を踏み入れたオランダ人アーティストデュオの「HAAS&HAHN(ハース&ハーン)」。地元のヒップホップ文化についてのドキュメンタリー作品を制作すべくJeroen Koolhaas(イェロン・クールハース)とDre Urhahn(ドレ・ウルハーン)はファベーラに滞在していた。

丘の斜面を埋め尽くすかのように立ち並ぶ家々には、外装も施されず未完成の家も多い。
アーティストならではの感性が“ファベーラにアートの花を咲かせる”という閃きを生んだのだ。

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Photo by TED Conference
(左がドレ、右がイェロン)

突如あらわれた、“凧を上げる少年”

「ファベーラが世界の注目を浴びる理由はその暴力性。でも本当は、素晴らしい所。そこに住むみんなはフレンドリーなんだ」と話すのはイェロン。

 犯罪、暴力、貧困などのネガティブな言葉だけで語られるファベーラだが、そこには市井の生活があり、個性豊かな住民たちがいる。ドキュメンタリー制作中、実際コミュニティの中に入り込み、現地の人と交流したからこそわかったこと。コミュニティのみんなと一緒に壁を塗ることで、リオのファベーラに持つ世間のイメージをも塗りかえようとしたのだ。

 こうしてファベーラの壁画アートプロジェクト「Favela Painting(ファベーラ・ペインティング)」を立ち上げた2人は、2007年にVila Cruzeiro(ヴィラ・クルゼイロ)地区に戻ってくる。

 最初に手掛けた作品は、「Boy with Kite(凧をあげる少年)」。真っ白なTシャツを着た少年と真っ青なバッググラウンドが印象的な、大きな壁画だ。

haas hahn boy with kite total 2007
Photo credit: Haas&Hahn

 デザインしたのはイェロン。「アイデア源は地元で見た光景だよ。ファベーラでは子供たちや大人たちまでもがよく凧あげしてるんだ」。

 高校を卒業して就職口を探していたサッカー少年2人を右腕に、壁いっぱい描いた。

 この壁画、よく見ると少年が引っ張るヒモの先には肝心の凧がない。

「完成後、子供たちが僕たちのところに来てこう尋ねたんだ。『どこに凧があるの?』って。『想像すればいいんだよ』って答えたら、『想像するってどういう意味だよ?実際に凧をあげなくちゃ。兄さんたちアーティストなんでしょ?』って。だから後で本物の凧を、後ろにある建物にあげたんだよね」と笑う。
 

ファベーラを“日本の川”が流れる?

 コミュニティの中心部に描かれた凧あげ少年の壁画は、「コミュニティのアイコン」になり、地元やブラジル国内メディアのみならず、英ガーディアン紙が大きく取り上げ、世界の注目をあびた。

 さらなるアート制作のために、二人は一度母国に帰り、イェロンが描いたファベーラの絵を売って資金集めをした。翌年ファベーラに戻ったときに連れてきたのが、知り合いのオランダ人彫り師Rob Admiraal(ロブ・アドミラル)。専門は和彫りだ。

 彫り師の采配のもと約8ヶ月をかけ制作し、こうして坂に完成したのが「Rio Cruzeiro(リオ・クルゼイロ)」。日本画風の鯉が悠々と大河を泳いでいる巨大壁画だ。

Mural in VIla Cruzeiro
Photo credit: Haas&Hahn

Mural in VIla Cruzeiro
Photo credit: Haas&Hahn

 思いがけない川の出現に住民も感嘆した。「ブラジル人は日本画デザインのタトゥーが好きだしね」。

 ただし、ペンキによるペイントは10年もたないため、より持続性のあるモザイク画に変えたいそうだ。ふたりのアイデアと野心は尽きることがない。

仲良くなるにはBBQがもってこい、でしょ?

 犯罪が常に隣り合わせのファベーラでのアート制作。特に鯉の壁画制作中は、地元の麻薬組織と警察の抗争が絶えない「張り詰めた状況」だった。
 多くのファベーラでは麻薬組織が地元コミュニティを統括しており、抗争の流れ弾で一般市民も犠牲になることも少なくない。イェロンの知り合いの中にも命を落とした者もいるそうだ。

Kopie van haas hahn rio cruzeiro detail 2008
Photo credit: Haas&Hahn

 そんな殺伐とした状況のファベーラのコミュニティだが、イェロンとドレはあることも学んだ。それは「バーベキューの大切さ」。

「『凧をあげる少年』完成を祝ってみんなをバーベキューに招いたのが最初だったんだ。それ以前にも近所の人たちのベーべキューを呼ばれたりしていたんだけどね。バーベキューに呼んだり呼ばれたりすることが地域のネットワークづくりに一番だと気づいた。新しい仲間に出会ったり、新しい仲間を連れてきたりして、繋がりがどんどん広がっていくっていうね」

 バーベキューを通してコミュニティとの結びつきを強くし、2010年にはSanta Marta(サンタマルタ)地区の34戸の家をキャンバスにした「 Praça Cantão(プラサ・カンタオ)」を、18歳から40歳までの30人と手掛ける。8ヶ月かけた鯉の壁画プロジェクトの後だったため、もっとシンプルなデザインにし、より多くの人と手掛けられるものにしたのだとか。

cantao panorama final
Photo credit: Haas&Hahn

“変革”ではなく“刺激”を   
「まだ仕事をしたことのないティーンや若者に『責任を持って仕事をして賃金をもらうこと』を体験してもらいたい。そしてコミュニティの一員として地域に貢献する経験も」。

 彼らのプロジェクトに携わる人々に、無給ボランティアはいない。ペンキを混ぜたり、壁を塗ったり、個人の家に許可を得るなどの作業をしてお金を得ている。

haas hahn santa marta painter on scaffold 2010
Photo credit: Haas&Hahn

「このプロジェクトを通して、コミュニティをchange(変革)するというより“stimulate(刺激)”したいんだ」

 アーティストが異国の地にやってきて作品を手掛けるのではなく、地域住民も巻き込み一つのアートを作り上げることで、若者たちの中に“自らの手で地元にいい影響を与えられるんだ”という自信や、“その経験が将来の人生を考える上で役立つかもしれない”という可能性を芽生えさせている。

Image work in progress Santa Marta
Photo credit: Haas&Hahn

 彼らが手掛けたアートを見にファベーラを訪れる観光客も実際増えたのだとか。
 2014年には今後のプロジェクト資金として11万6,655ドル(約1254万円)を集めた彼ら、2~3ヶ月後にファベーラを再訪し、今後のプランを地元住民と話し合う予定だという。

 異国の人が握ったペンキのはけ。そして地元民と塗った壁の一色。無色のものに色を加えるただその行為が、地元民の意識を、そしてファベーラに対する世界の認識を少しずつ変えていくのかもしれない。

Favela Painting

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Text by Risa Akita

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