人生変えた“落書き”「仕事中の暇つぶし」を本業にしたイラストレーター、道具はふせんに蛍光ペン
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退屈な授業中は教科書の人物写真に。眠気に襲われそうな会議中はプリントの隅っこに。うまいヘタはおいといて、誰もが描いたであろうアレ、そう、落書き。サラリーマン、マーロン・サッシー(Marlon Sassy)も同じく退屈な勤務中、せっせと落書きに精を出していた。まさかその落書きによって、本業が変わってしまうとも知らずに…(もちろん、いい意味で)

「暇つぶしの落書き」を本業にしてしまった(脱サラ)イラストレーター

 カナダはバンクーバー出身の絵描き、マーロン・サッシー a.k.a. Gangster Doodles(ギャングスター・ドゥードゥルズ)は、いま世界中のストリートヘッズたちから絶大な支持を得ている。その魅力といえば、ユーモア溢れる独自のスタイル。描くのは主にラッパーから俳優、キャラクターもので、その絶妙な表情や特徴を捉えた味のあるイラストに、日本にもファンが多い。彼のポップでユニークな世界観を見ればホラ、な~んか癖になって、指が勝手にスクロール。

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いま、マーロンの一番お気に入りラッパー、Kendrick Lamar
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Mike Tysonと鳩Mike Tyson
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SADE

「せっかく描いたし、SNSにでも公開するか」。所詮落書き、しかしお蔵入りにするのはもったいないし、どうせなら。軽い気持ちでタンブラーとインスタグラムにポストしたところ、その人気はじわじわ沸騰。「あれ、これイケるかも」。9年も嫌いな会社で頑張ったし、とSNSのレスポンスに後押しされ脱サラして29歳で絵描きに転身。脱サラ大正解、いまファンと企業からラブコールの止まらない実力派だ。

道具は「付箋(ふせん)と蛍光マーカー」

 使う道具といえば「会社での暇つぶしに使っていた落書き道具といまも変わらず、付箋に油性ペン、あとは蛍光マーカー」。シンプルな道具に黄色の紙質を感じる背景のポストに、いつも彼の作品とわかる。ゆるいのにうまくてめっちゃいい。

 今回、作品集『ギャングスター・ドゥードゥルズ・ブック』の発売を記念し来日、世の中の才能をつなぐアートコレクティブ「CULTCLUB」主催のもと、ファッションブランドのマーク・ジェイコブスが展開するブックストア「BOOKMARC」の地下ギャラリーにて個展が実現。彼の「異色の経歴」や「どうやってここまで有名になったのか」などなど知りたくて、サイン会の翌日、図々しくもスカイプを繋いでもらった。

HEAPS(以下、H):今日は取材を受けてくださり、ありがとうございます! サイン会、いかがでしたか?

Gangster Doodles:Amazing(最高)!たくさんのヘッズやちびっ子が遊びに来てくれて、終始大盛り上がり。購入してくれた本を片手に色々質問してくれたり、紙幣にサイン書いてって渡されたり、すごく嬉しかったな。来日はこれが初めて。っていうか、ぼく自身個展を開くのが初めてで。それが日本だなんて感激だよ。

H:あのぅ、ギャングスターの名とはほど遠い優しいお顔立ちをされていますが、なぜ「ギャングスター・ドゥードゥルズ」?もしや元ギャング?

NO!(笑)ギャングスターって、いかついイメージでしょ?それに対してにドゥードゥルズ(落書き)って、組み合わせが可愛いでしょ。このギャップがおもしろいかなって。

H:ほうほう。元々、テレビ制作会社で9年間オフィスマネージャーとして働いていた。で、3年前に退職。

そう。主にリアリティーショーやドキュメンタリーなんかを撮る会社でね。ぼくは毎週、事務用品を注文するっていうクリエイティブとはほど遠い仕事を。職場環境も人間関係も全然好きじゃなかった。

H:つまんなかったんですね、仕事。それで暇つぶしに落書きを?

いかにも。昼休憩のとき同僚はみんなランチルームでワイワイしてたけど、ぼくはひとりデスクで音楽を聴いていた。たまたまスヌープ・ドッグの「ドッグ・ファーザー」をかけたとき、アルバムの表紙を見て「これ描けたら、クールだよな…」ってふと思って…それがきっかけで描きはじめたんだ。落書き中、誰かがこっちに来たらパソコン入力するフリをして誤摩化してた(笑)。仕事は嫌いだったけど、そのおかげでギャングスター・ドゥードゥルズが生まれたんだ。

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KAWS
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鼻血がで出たのでタンポンをぶち込む、コメディアンLarry David。マーロン、彼が大好きらしい
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Chance The Rapper

H:上司や同僚は、マーロンがネット上で人気沸騰中だったこと、後々気づいた?

誰にもバレなかった。なんで辞めんの? って言われたときも「I don’t know、わかんない。ただ辞めたいからさ」ってな感じで。将来の保証なんてもちろんなかったし正直不安だったけど、ここで辞めなかったら、一生このままだって思って。

H:ぶっちゃけ、オフィスマネージャー時代といま、どっちが稼げてますか?

…そりゃあ、いまさ(ニヤリ)。アートワーク以外にも、ブランドとコラボして洋服ラインを展開中。サラリーマン時代に比べて、できることの幅が広がったのが大きいね。

H:退職の判断は正しかった、と(ニヤリ)。作品が仕上がるまでの過程を教えてください。

モチーフはいつも映画や音楽、テレビに漫画など小さい頃から見てきたもの、いまハマってるものからランダムに選ぶ。特にラッパーは、それぞれ特徴があって描きがいがあるから好き。で、ひとつのモチーフにつき5~7パターンの違ったバージョンを描く。その中から気に入った一枚をスキャン。あ、ちなみにいま使ってるプリンターは会社からパクってきたもの(笑)。

H:事務用品はマーロンが管理してたからバレなかったんですね(笑)?

その通り。で、次にフォトショップで読み込んで余計な線を消したり、ぼやけてる部分を補正する。そうしてやっとSNSにポスト。一枚の落書きを仕上げるのに4~7時間ほど費やす。大きな作品になると15~20時間程かかる。「ペペッと描いてハイ終わり」に見えるでしょ? 実は結構時間がかかってるんだ。

H:てっきり15分で終了だと思っていました。プロとして初めての仕事は覚えていますか?

LA拠点のヒップホップレーベル「ストーンスロー」のアーティスト、Jonwayneが音楽シリーズをリリースするから、そのアートワークを担当しないかと話をくれたんだ。プロとしての初めての仕事だった。きっかけはインスタグラムのDMだった! いい時代だよね。だってぼく、これがなかったら存在してないからさ。

H:インスタ、ハマってます?

重宝してるけど、依存はしたくない。コメントやイイネから作品への反応が知れるのはいいけど、誹謗中傷だってある。ネガティブな気分になりたくないから、一度ポストしたら次のポストをするまでインスタを見ないようにしてる。ちなみにタンブラーの方がフォロワー数は多いけど、仕事のオファーが舞い込んでくるのはインスタからの方が断然多いかな。

H:ギャングスター・ドゥードゥルズのスタイルは唯一無二です。一体何にインスパイアされたんでしょう。

ぼく、実は落書きの前にペインティングをやってて。それも結構本気でね。400〜500近くの作品がベッドの下で眠ってるよ。いまの落書きとは真逆のスタイルなんだけど、そのとき「テイストがどれもバラバラで統一性がない」って批判を受けたことがあった。それで、ひとつのスタイルを確立することが大事だと知ったんだ。そこから一貫性、スタイルというものを強く意識しはじめて、おかげでいまは誰が見てもぼくの作品ってわかってもらえる。

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チャリに乗るAction Bronson
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海外でも大人気、アニメ「ワンパンマン」のサイタマ
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誰が誰かわかるかな?

H:暇つぶしだった落書きが突然新しいキャリアになった。当初、働き方というかプロとしてのやり方、ですかね。そういうのがわからずに悩んだことってありました?

落書きで頭を悩ませたことは正直ないかな。ペインティングをやってたときは辛かったよ。当時はそれを本職にしたくて必死だったのに、個展も開けなければ、絵もまったく売れない。で、売れたいなんてこれっぽっちも思ってなかった落書きが売れるようになった。そういう不意をつかれた感じ、あまり構えていなかったから、落書きに対してはわりと楽観的。頭を抱えることはないかな。

H:これからもっとたくさんの企業やブランドとコラボしていくと思うのですが、そのスタイルは貫く? もし、結構違うスタイルを要望されちゃったら?

スタイルを変えるつもりはない。けど、成長はしていきたいからできるものには柔軟に応えるよ。たとえば使う色を増やしたり、マテリアルを変えたり。
違うスタイルを要望されたら、それはぼくの作品じゃなくなるじゃない? 描いてておもしろくなくなっちゃう。だから仕事はしっかり選んでいきたいね。

H:なるほど。では今後どうやって仕事の幅を広げる予定ですか?

なるべく毎日欠かさずSNSを更新すること。最初の2年はできてたんだけど、ここ1年は忙しくなっちゃって中々更新できてない…。あとはもっと個展の回数を増やして、色んな人に知ってもらいたい。

H:イラストレーターって、マーロンにとって理想の仕事? もしそうなら、もう退屈じゃないよね?

いい仕事だよ。時間に縛られないし、上司にもガミガミ言われない。自分でコントロールできるしね。でも企業とコラボするときは別。「あと10カ所直してくれる?」なんてザラさ。おかげで退屈はしないけどね。

H:もし落書きしてなかったら、いま頃何してたと思う?

サラリーマン続けてただろうね、きっと。家賃も車のローンも残ってたし(笑)。

H:落書きから学んだことって?

ちょっとクサいかもしれないけど「Anything is possible(何でもできる)」ってことかな。人生ってどこにチャンスが転がってるかわかんない。ぼく自身がいい例。“ただの暇つぶしだった落書き”でこうやって東京で個展を開けたんだから。だからこの機会にたくさんの人に僕の作品を見てもらえたら嬉しいな。この記事を読んでるキミ、もし東京にいるなら是非足を運んでみて!

All images via Gangster Doodles

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【CULTCLUB presents GANGSTER DOODLES EXHIBITION】
日時/開催中 ~ 7月30日(日)
時間/12:00~19:00
会場/BOOKMARC(ブックマーク)
住所:東京都渋谷区神宮前4-26-14 
電話:03-5412-0351
営業時間:11:00~20:00 定休日:不定休

※詳しくは CULTCLUBへ。
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Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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