市営がだめなら“私”営だ!「臨終間際のデトロイト」の蘇生を後押ししたのは、“一人の男とバス”
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さて、財政破綻をし「誰が住みたい、こんな街」のデトロイトだったが、市民と自転車によって「臨終間際の再生劇」がはじまっているという話をした(記事、最悪級のスラム都市、“臨終間際の再生劇開幕”)。
もう一つ、「破綻した街」のロールモデルにも成りうる、一人の市民がはじめたビジネスを紹介しよう。

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「バーからバーへの巡回バス」 で活気づく“破綻の街”

デトロイトに住むその男の名前は、Andy Didorosi(アンディ・ディドロシ)。もともとは「Paper Street (ペーパーストリート)」というシェアオフィスをD.I.Y.方式ではじめ、アートやビジネスのクラスを開講し「自分と同じ世代」のクリエイターたちを招待していた。いわゆる今風でありがちのヒップスターだ。

 これが軌道にのると、「見捨てられた市営公園」でスクーターや自転車のレースイべントを開催。そのイべント会場への集客のためには「バスが必要だな」ということで、“来場者の足”用にバスを購入。これを機に、アンディは、バス会社をはじめてしまった。

 前記事の通り、2013年に負債総額180億ドルを抱えて財政破綻したデトロイトでは市バスが「機能不全」。貧民層は通勤の足を奪われた。「市」がやらないなら「私」がやろう、と立ち上がったアンディ。手はじめに「バーからバーへの巡回バス」を私営で開設したところがヒップスター的だ。ちなみにデトロイトは、社会不安の影響か、市民一人当たりのバーの数が全米1。時には浸りたくなる「悲しい酒」もハシゴのための足がないとなれば、「もっと悲しい酒」になってしまうのだ。

市営がダメなら“私”営で運転

 運転代行ならぬ“バーの巡回バス”は、2011年12月に開業すると、案の定、大人気を博し14年には保有台数6台にまで成長。バー巡回バスは当然(?)有料で、これで得た収益を元手にアンディ、貧困スラム地域で市バスが営業停止したために住民、とくに学童たちが困っているエリアに無料でバスを提供しはじめた。

 子どもたちの多くは、親が共稼ぎかシングルマザーで、放課後の移動手段がまったくない。学校と学童保育や放課後活動を結ぶアンディの私(わたくし)営バスが、親たちから感謝の喝采で迎えられたことはいうまでもない。弱冠26歳のアンディは熱く語る。

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Images by Michigan Municipal League

「この調子でバス台数を増やして、今後は空港と市内を結ぶ路線や、失業者を仕事の面接まで運ぶサービスもやりたい。この街で私営バス会社ができること、やるべきことは山のようにある。僕らは慈善団体でもないし、非営利団体でもない。これはれっきとした事業。デトロイトのように破綻した街だからこそ機能し、需要がある事業なんだ」。アンディは続ける。「でもデトロイトは、世界で最後の破産自治体ではない。僕らの経験で、都市蘇生の成功例を示せるだろう。これから世界で生まれゆくだろう破産自治体に道を示すんだ。公共事業をプライべートセクターが提供することで、デトロイトには社会意識の高いビジネスの新拠点になる可能性があるんだ」

 自転車ビジネスも私バスも、“崖っぷちに追いつめられた市民”が苦肉の策であみだした新産業。いずれも公共性と環境への優しさをべースにしているところが、単なるビジネスとは違う。その街で起こるすべてに左右される市民だからこそ、“何が一番痛いか”を知っている。だから、“何が一番欲しいか”が手にとるようにわかる。破綻した街を救うのに一番近い場所にいるのは、やはり“他人事”ではいかない市民なのだ。

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< Issue 31 『都市を変えるのは、ゲリラだ』>
Writer: Hideo Nakamura

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