「ブラにすぽっ!」両手を離しても動き回っても大丈夫。1世紀も止まっていた母たちの必需品「搾乳器」が進化中

問題「1854年に男性によって開発されたプロトタイプから、1980年まで進化してこなかった女性用のプロダクトって?」。正解は、世の母さんたちの必需品「搾乳器」。
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ここ数年で、“女性の体に関するプロダクト”は劇的に進化している。露骨な形からシリコンでポップになったセックストイに、ナプキンいらずの生理用下着、家で手軽にできる不妊検査キットなど。そしてもう一つ、ここにくわえたいのが「搾乳器」。母乳育児をする世の中のすべてのお母さんの必需品が、驚くほど便利に進化している(もちろん見た目もいまっぽく)。

進化中。母乳育児母さんの味方「搾乳器」

 搾乳とは、文字通り「乳房から母乳を搾りだすこと」。赤ん坊と授乳のタイミングが合わないときや乳首が傷ついていて吸われると痛いとき、赤ん坊の飲み残しでおっぱいが張っているとき…など、おっぱいから母乳を出す必要があるときに搾乳する。この時に必要となるアイテムが「搾乳器」なのだが、従来の搾乳器を使った搾乳が、これまた大仕事だった。

 搾乳器は、大きく分けて手動と電動の2種類。手動は、電動に比べ安価で薬局などでも手軽に購入できるが、搾乳器を持ちながらの搾乳になるため手が疲れる。そもそも、両手がふさがっていては、子どもから手を離せないときには一苦労だし(子どもは一人と限らないし)、ただでさえ育児で忙しいのに手持ちぶさた状態だ。

 一方、電動は手動に比べて楽だが、本体は重いし(軽いものでも500〜750グラムほど。週刊漫画雑誌くらい?)、作動音もうるさく、またコンセントを確保する必要がある。おまけに、両方の乳房を搾る場合に要する時間、20分。ママの20分は貴重だ。これが毎日数回繰り返されるとなれば、そりゃあグッタリ…。おまけに搾乳器の洗浄や消毒など、使用後のケアにも気が抜けない。

 近年、こういっためんどうを取っ払おうと商品開発も進み、搾乳器が取りつけ可能なブラジャーなどが発売されていた。ブラの乳首の部分が開くようになっていてポンプがにゅっと出ているように見えて…正直、使用する場所を選んでしまうようなルックスだし、外で利用するにはちょっと大変そう。もっとスマートな見た目で、使い勝手のいい搾乳器はないのか…?(もちろんあるからこの記事ですよ…!)

ブラに“すぽっ”、アプリを“ポチっ”で、「ながら搾乳」

 常になにかの作業を抱える母たちのために、デザインよし機能性よしの搾乳器が話題になっている。それがこちらのふたつ。

ブラの中に入れるだけ。スマホとも連動するスーパースマート搾乳器「ウィロー」

2017年、米国での発売以来、2万人の母さんに愛用されている着用可能なスマート搾乳器が「ウィロー(Willow)」だ。コードレスでボトルレス。ブラに挟み入れるだけで搾乳できてしまう優れもの。電動式だが動作音は静か。本体には交換可能なミルクバッグ(母乳を保管する袋)が内蔵されており、搾乳後は本体から取り出してそのまま保存できる。搾乳量はアプリがトラッキングもしてくれる。新バージョンのウィロー2.0は、ユーザーからの意見を反映させ、搾乳速度がアップしている。


@willowpump

42億円の資金調達に成功、商品紹介CMもシュールでセンスある「エルビー」

ロンドンのスタートアップが開発。ベスト・ベビーテック賞を受賞した実力派エルビー(Elvie)」は、機能性はほぼウィロー同様。違いは、ミルクバッグではなく専用ボトル(150ml)を使用するため洗って何度も使えること、ボトルが満杯になると搾乳が自動で止まること

アプリとも連動しており、搾乳の強さも7段階で調整可能だ。個人的には、牛を背景に激しくダンスする女性たちが踊り終えたあと、搾乳器を取り出すPR動画がシュールで好き。今月、約42億円の投資を受けたことでも話題となった。

 両方に共通する最大の魅力は、

・搾乳場所を選ばずブラの中に入れるだけで“ながら搾乳”ができ、
・両手があくので搾乳の時間を使って家事や仕事ができること。

 装着中のバストのシルエットも自然で、音も静か。シャツを脱ぐ必要がなく動き回っても大丈夫。これなら母乳育児中の働く母たちも、職場でも搾乳できる。




Image via Elvie Press Kit

進化遅れた搾乳器シーン、フェミテックが引っ張る未開拓市場

 テクノロジーとデザインで進化した逸品が続々と登場している昨今の搾乳器シーンは革新的だ。というのも、1854年に初めて発明されてから、搾乳器は1980年代までアップデートされていなかった。男性の発明家によって開発された最初の搾乳器は、乳首の上に置かれた円錐形のカップと手動ポンプを使用したデザインで、なんとそのスタイルは80年代まで進化することがなかった。
 80年代に電動ポンプの搾乳器が登場するも、家庭用として市場に出てきたのは90年代になってから。エルビーの創始者で実際に昔ながらの搾乳器を使った経験をもつタニアは、「『母親として、なんで1980年代の“遺物”のようなもので我慢しなきゃならないの?』と思ったんです」。

 ここ数年で、女性起業家たちはテックとデザインにこだわって、女性の体にまつわるプロダクトを破竹の勢いでアップデートしてきた。たとえば、ひと昔前の露骨な形から現代風のシンプルでポップ、ニュートラルに姿を変えた「デイム・プロダクツ」のセックストイ、 生理用品がいらない生理用下着「シンクス」、自宅でできる不妊検査キット「モダン・ファティリティ」、 生理日を予測しおやつを配達してくるアプリ「ムーン・サイクル・ベーカリー」。そして今度は、搾乳器。女性向けの健康関連テクノロジー〈フェミテック〉の市場規模は2025年までに500億円にのぼるともいわれている。必要なものは、やっぱり使う本人たちが一番知っている。見過ごされていた未開拓市場は、まだまだ勢いよくひらいていきそうだ。

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Eye catch image via Elvie Press Kit
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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