観光名所、セルフィーの裏側〈つまらなそうな旅行者たち〉。不機嫌、退屈、爆睡。旅先での“撮られたくない一枚”

旅先からの充実ポストの裏、こんな表情してたりして。旅行先の名所にて退屈な旅行者たちをパチリ、112ページ続く“つまらなそうな顔”。

旅行先では映える“充実写真”が撮り放題だ。そりゃあいつもの日常から飛び出して旅行に来ているんだもの、「こんなに素晴らしい旅」だと伝えたくなるのはいた仕方なし。バケーションにやって来たぞ〜という開放感も手伝ってテンションは上昇。比例してSNSに投稿するペースもついついあがる(そして過度な連投によりいいねの数が伸び悩む、とは筆者経験談)。

でも、セルフィー用の笑顔を閉まったら、旅人たちはすんごい疲れた顔をしているかもしれない。退屈してたりもするんです。ある写真家が切り取ったのは「旅行者の素の表情」。つまり、彼らにとって一番撮られたくない全然たのしそうじゃない姿だ。

〈退屈そうな旅行者たち〉だけにシャッター切る写真家

 スペイン・バルセロナを訪れたなら一度は行ってみたいのが、バルセロナ大聖堂ことサンタ・エウラリア大聖堂。カトリックの国ならではの荘厳なゴシック建築で、訪れる者を圧倒。思わずカメラを向けたくなるような、写真映えのする観光地のひとつだ。

 英国の写真家ローレンス・ステファンズもまた、旅行者に混じりカメラを携え大聖堂を訪れていた一人だった。「バルセロナに移住したばかりのころです。新しいフォトプロジェクトを模索していた夏の午後、あんまりにも日差しが強いので大聖堂に避難したんですね。聖堂内は、涼しくて薄暗くてとても静かでした」。重厚な造りの聖堂を適当に眺めたり写真を撮ったりして終わりだったかもしれない。が、写真家は気づいた。「美しい建築の中では、たくさんの困惑顔、がっかり顔、退屈すぎて半分寝かけたような顔が並んでいたんです」。観光スポットにぞろぞろと連なる疲弊しきった観光客。 英国人らしいブラックユーモアでもって、写真家は目に飛び込んできた“美しい建築と退屈そうな旅行者たちのコントラスト”にシャッターを向けた。

 この主題が気に入った彼、それから3年の夏をかけ、スペインとポルトガルをまわり、美術館や公園、市場、教会に存在する退屈そうな旅行者たちを撮影。今夏晴れて写真集を出版した。タイトルは直球に『Bored Tourists(退屈そうな旅行者たち)』。キャプション一切なし。112ページにわたり、彼が惚れ込んだ〈つまらなそうな顔〉だけが紙面を彩る。


プロ仕様カメラでスイカを撮るお父さん。ベンチで爆睡する家族。

 念願の観光地にて、長旅の疲労からか険しい顔のマダムたち。チケット売り場の真ん前で爆睡かますバックパッカーズに、これまたベンチで爆睡する家族。張り切って早起きして観光しようとしたもんだから、ひたすら眠い。なぜかしょーもない工事現場を必死に撮るお父ちゃんに、リア充セルフィーを撮ろうと必死な女性の隣でふてくされ顔の女性。で、極めつけは最大の謎、プロ仕様のビデオカメラでなぜかスイカを接写するおじさん。とまぁ、どれもこんな具合に「美しい背景 v.s. 退屈そうな旅行者」の温度差が風刺をきかせている。


 つまらなそうな表情の旅行者とはうらはらに、「旅行中に退屈したことはない」と言い切る写真家。ただの退屈な人たちを撮るのではなく、大切なのは“退屈のあくび”が聞こえてきそうな臨場感を出すこと。そのため、毎回あらかじめ撮影箇所を2、3ヶ所にしぼり事前に“スポット”を調査したのだとか。スケジュールを練り、お目当の被写体に出会えるまで「少なくとも1ヶ所に3時間は費やしますね。たいていは撮れずに終わっちゃいますが。でも、最高の被写体ってのは、忍耐なくしては出会えませんから」。いい被写体が見つからなかったら? 「根気強く待ちますよ。見つけるまで何時間でもね」。

 写真家が選出したマイ・ベスト退屈旅行者は、“路上に捨てられたマットレスで仮眠をとるおじさん”。ホームレスではありません。旅行者です。このワンショットの経緯は? 「その日、退屈した旅行者に出会えず、肩を落とし帰路についていました。そしたら、家の近所でたまたま爆睡おじさんを発見したんです。すぐさま走りよってシャッターを切りました。その後、完璧すぎる構図に『誰かのためにポーズしているのでは?』と勘ぐり、起きないかなぁと15分くらい待ってみたんですね。でも、本当に寝てたようで起きる様子もなかった。おもしろい形のサングラスをかけて、ネオンピンクのスーツケース片手に路上のマットレスで仮眠をとる男性なんて、ヤラセと思われても仕方がない。でも、これ、本当に偶然だったんですよ」。

退屈旅行者のスナップは、まるで〈SNSリア充ポストの裏側〉?

 無論、旅行者全員が退屈な思いをしているかといえばそうでもない。「僕が退屈そうな旅行者を撮った理由。それは決して『旅行ってつまらないものなんだ』と伝えることではない。普遍的な人間性、人間くささを表現したかった。たとえば、期待ってよく失望に繋がるでしょう? これが顕著に現れるのって、“旅行”だと思うんです」。

 一度は旅先で経験したことがあるかもしれない。あれほど事前にガイドブックを読みこみ胸をふくらませて行った観光名所で「あれ、なんかしょぼい…」。お目当のレストランに行ったものの「こんなもん…?」。混みすぎて「人を見にきたようなもんだな」で辟易。肩を落としつつも、せっかく来たんだから撮影しておこう。そして、せめて写真は良いものに..。と、ここで写真家、指摘をもうひとつ。「最近は、スマホとソーシャルメディアの登場で、これまで以上に“旅行への期待レベル”が上がっていると思います」。その通りだ。ハッシュタグで観光名所を検索すれば、そこにはフォトジェニックな写真がスクロールしてもとまらず、「いまが最高潮」な顔をしている。ここってこんなたのしい場所なんだ、と行く前から期待は上昇。そして実際に観光名所を訪れたら(いくらそこがおもしろくなくても)、今度は自分がその旅のアピール側にまわる。そうして撮った一枚はフォロワーの“旅への期待”を押しあげていく。そこに行ってみたい、よりも「そこで写真を撮りたい」という気持ちが大きいほど、旅行体験と旅行写真のコントラストはあがってゆく…。


 特に予定もなくだらだらして過ごしきった休日、タイムラインに流れてきた友人の“充実感にじみでる旅写真”に、ケッと毒づきたくなる者たちよ。SNSポストの裏で彼ら旅人だって、“退屈な”表情をしているのかもしれない。「これを手に取った人が、この美しい背景と退屈そうな旅行者のコントラストをたのしんでくれたら、それで僕の任務は完了です」

Interview with Laurence Stephens
All images: © Laurence Stephens


‘Bored Tourists by Laurence Stephens is published by Hoxton Mini Press.

Text by Chaz Bear
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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