30年間、映画に伴奏を捧げてきたオルガニスト、Ben Modelに聞く。「サイレント映画のための音楽」とは
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現在、ニューヨーク近代美術館MoMAは、サイレント映画を定期的に上映しているのだが、そのラインナップには、「サウンド版の存在しないもの」も。
この30年間、その音楽の存在しないサイレント映画のために伴奏をし続け、「上映可能」にしてきたオルガニストがいる。
“サイレントを生かす音楽を”、と追求し続けたその彼、Ben Model(ベン・モデル)にサイレント映画のための音楽についてを聞いた。

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HEAPS(以下、HEAPS):
今日もここMoMAにて、サイレント映画に伴奏を行うそうですね。ちなみに今日は何の映画なのでしょうか?

Ben(以下、B):
『Branding Broadway(都の汚辱)』です。今日は前回の上映とは違う音楽をつけての伴奏予定です。

HEAPS(以下、HEAPS)
違う、ということは、伴奏は同じ映画でもよく変えるものなのですか?

Ben(以下、B)
毎回変える、ということはありません。が、「毎回向上させよう」とはしています。基本的に、毎回「improvisation(即興)」なんです。もちろん大枠のようなものは用意しておきますが、アレンジを“本番で”どんどん加えていく。どれだけ僕の伴奏が映画にはまるのかを見ながら、余計な部分を差し引いたり、新しいものを組み込んだり。その映画の上映のたびに良い伴奏を作り上げていっている、という感じといいますか。

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H:
即興とは驚きました。これまで30年間伴奏をされてきたということですが、相当数の映画に対して音楽をつくり伴奏をするための“引き出し”はどこから?

B:
過去にたくさんの音つきのサイレント映画を見てきたというのは大きいですね。子どもの頃、ちょうど近所にサイレント映画のコレクターがいて、毎週月曜日は僕の好きなものを見る日だったんです。そこで、様々なサイレント映画のための音楽を楽しみながら知りました。

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H:
ベンさんは、中でもチャップリンなどコメディを好むと聞きましたが、そういったサイレント映画って、コマ送りが速かったり俳優同士のやり取りがこう、バタバタしている、というか。伴奏のタイミングを掴むのが難しそうなイメージがあります。

B:
そうですね、そこはもう経験、です(笑)。ひたすら弾いて、タイミングを掴む。これはばっちり決まらないと映画を台無しにしかねません。

僕がサイレント映画の伴奏をはじめたのは学生のとき。実は、音楽関係の学校には行っておらず、映像制作の専攻だったんですよ。それで、サイレント映画のヒストリーのクラスではたくさんの音のないサイレント映画をみるわけです。
僕たちは子どもの頃に音付きのチャップリンの番組を見てきた世代ですから、音のないサイレント映画はなんとも味気なかった。そこで、「僕が伴奏しますよ」と提案してみたんです。

H:
なるほど。ということは、もともとピアノは弾けた、と?

B:
5歳からやっていました。といっても、自宅で。母がバイオリニストでして、ピアノもできたんです。音楽にはずっと触れ合っている環境でした。

H:
自宅でピアノを学び、サイレント映画への伴奏も大学のクラスで行い…
現在はMoMAの公式の伴奏者ですよね。どうやってそこまで?

B:
学生のときのクラスで弾きはじめてからも、音楽の学校などには行っていませんので、まさに練習と経験です。クラスでの伴奏はいい練習になりました。人前での演奏にも慣れました。
それと、昔からサイレント映画への伴奏者という仕事はありましたから、そのときのオルガン伴奏者の方を尋ねてはコツや、すべきこと、備えておくべきテクニックなどを教わって歩きました。

H:
サイレント映画のための曲作り、それから、その伴奏の極意、みたいなものをお聞きしても?

B:
作曲についていえば「複雑な音楽になりすぎないこと」。音楽が複雑になりすぎると、映画を見ている人の注意を引いてしまう。そうすると、映像を見ていて無意識にでも気が散ってしまうんですね。
音楽は単純でいいんです。いかにそのシーンにふさわしく、それからタイミングよく添えられるか。
飽くまでも、サイレント映画の引き立て役なんですから。

それと、伴奏中は絶対にミスはできません。これもやはり、僕がミスをすれば「映画を見ている人の気を散らしてしまうから」です。
映画によっては5時間ぶっ続けというものもありますので、こういうのは中々大変です(笑)

H:
5時間!かなりの体力と集中力が必要ですね。ベンさんがサイレント映画のための伴奏をし続ける理由とは?

B:
サイレント映画が好きだからです。サウンド版のないものにも、みるべき映画はたくさんあります。音をつけられなかった頃の映画は、俳優の演技力やタイミング、コマ送りのスピードなんかがかなりこだわって作られているんです。映像として本当に素晴らしいもの。それが、サウンド版がないからと埋もれて、人の目に止まらないのはもったいない。

実は、30年前、MoMAで伴奏者として仕事をはじめたときはボランティアでした。
サイレント映画が好きで、MoMAでも上映すべきでは、と持ちかけたのですが「サウンド版がなければ無理です」とすっぱり断られてしまった。
サウンドを作るには予算も時間も必要ですから、それなら「横でオルガン弾きますよ」とはじめたんです。

あれから30年、いまでもたくさんの人が見てくれています。子どもたちが純粋にチャップリンを見て大笑いするのなんかを見るとやっぱり嬉しいですよ。

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これまで伴奏をつけたサイレント映画で、最近気に入っているものを聞くと、教えてくれたのがこちら。

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Photos by Kohei Kawashima

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