フロアを最高に沸かせるのは、「カセットテープのDJ」だ! Awesome Tapes from Africa
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ブルックリンのローカルがよなよな足を運ぶとあるクラブ。今夜、フロアを沸かせるのはDJ、Brian Shimkovitz(ブライアン・シンコヴィッツ)。彼がプレイするのは、アフリカの名もなきアーティストたちの音楽だ。そして彼の手元に並ぶのはレコード、ではなく、「カセットテープ」。

Awesome Tapes From Africa

道ばたで売られる「カセットテープ」でフロア大沸き

「Awesome Tapes From Africa(以下、ATFA)」(訳すなれば「アフリカより、超イケてるテープを」とかだろうか)。ブライアンはATFAとして活動するDJなのだが、名前の通り、彼がプレイするのはアフリカン・ミュージックだ。なので「あ、知ってるぞこの曲」は(ほぼ)絶対に見込めない。さらにオーディエンスを驚かせるのは、ブライアンが回しているのがレコードではなく、カセットテープだということだ。予定調和ゼロ、これが大きな魅力の一つだろう。

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 ATFAはアフリカン・ミュージックを発掘するレーベル/ブログでもあり、倉庫に所有するカセットテープはなんと、4,000本超(いまだにすべて聞けていないそう)。彼の活動が巷で話題になり、世界各地から莫大な量のカセットテープが届くからだ。

 もともと、ブライアンはアメリカのフルブライト奨学金(*)で民族音楽の研究のためにガーナにいた。ハイライフ(1920年代にガーナなどから西アフリカに広まった、ジャズとアフリカ音楽がミックスされた音楽)とヒップホップが融合したガーナのダンス・ミュージックである「ヒップライフ」に触れるうちに、ブライアンはアフリカン・ミュージックにのめりこみ、道端で売られるカセットテープまで買い漁るように。
 買ったテープからわかるのはアーティスト名のみ。誰がどこに住んでいて、何を演奏して、いつ録音されたかなんてわからない。それこそどこからリリースされたかなんて特定不可能なものばかりらしい。

*アメリカ合衆国の学者、教育者、大学院生、研究者、各種専門家を対象とした国際交換プログラム、および奨学金制度

世界をまたにかけるカセットテープDJ

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 2006年、ガーナから帰国したブライアンは、そんな名もなきアーティストたちの音楽を友人周りにシェアできればいいなあ程度でATFAのブログをはじめポストしていたという。しかし「こんな音楽、はじめてだ」と次第に知り合いや友達の枠を超えて広まっていき、彼は2011年にはATFAをレーベルとして立ち上げた。現在ではDJとしても活動し、Boiller Roomなどはじめ世界各地のイベントに出演している。実は、2015年には来日ツアーも行ってソールドアウトを果たしたほどだ。

「DJはお金を作る為のもの」と、回す本人。作ったお金の使い道は、彼が発掘してくる、日の当らないアーティストのプロモーションやツアーに充てることだ。とことん、アフリカのアーティストたちに惚れ込んでいる。
「テープを作ったアーティストを探し出して、正しいかたちで世に出したい」
 レーベルを設立したときの思いが、変わらずにある。ガーナの露店で偶然出会った作品をCD化しリリースしたのは、彼の思いが最も集約された出来事なのではないだろうか。

 音楽業界の主流である、MP3やCD、今日音楽産業を賑わせているストリーミング配信などのフォーマットは、アフリカでは未だに行き届いてないのが現状で、いまだにカセットリリースが主流。だからこそ、カセットというフォーマットをブライアンがコレクションするのはごく自然な流れなのだ。
「時代はストリーミング」。デジタルミュージックや新しい音楽産業のありかたとやらにばかりに気を取られていると、世界にはそれの及ばない場所がやはり存在し「そこの主流」がある、ということにすっかり気付かなくなってしまう。

最高にノれる!世界一無名なアーティストたち

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 ブライアンがプレイするフロアはなんだろう、カオティックで、すごくおもしろい。パーカッションや民族音楽特有のオーガニックで陽気な要素や、表情豊かなラップ、耳にすっと入るボーカルがクラブミュージックのリズムに乗ってミックスされると、世界の音楽を同時に聞いている感覚。さらに、あまり知られていない曲どころか誰も知らない、ブライアンさえもよく知らないアーティストの音楽。ここでノッときゃ間違いない、という答えもナシ。だからこそ無駄な予定調和がなく、みなが思い思いに本能的に踊る。その時だけしか生まれないグルーヴがフロア内で生まれていく。
 それは一瞬新鮮な感覚を覚えるのだけど、それでいて違和感がない。音に委ねて自然に体を動かす。なにか人間の本能的な、昔から親しんできた場所に戻れた気がして安心する。

 クラブってこんな自由だっけ?ライブハウス育ちでクラブシーンに疎くて、実はすこしドキドキしていた自分が一番楽しんでいたことにハッと気づいたのは、疲れ果ててほろ酔いのままブルックリンの寒空の下に出たときだった。
 思い出してもニヤニヤしてしまう。僕らが最も沸かせられたのは、アフリカの、無名の、道ばたのカセットテープだったなんて。

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Awesome Tapes From Africa awesometapes.com
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Text by Takuya Wada
Photos from top by Bmore Music/DIS-PATCH/Desert-Island, Brian Shimkovitz/chris atto/DIS-PATCH/Split Works, Catch Images via Northern Winter Beat

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