“巨大空間”ではじまるアメリカン・ファッション再生劇。95%の仕事を失ったNYアパレル産業エリア
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ファッションの聖地と名高いニューヨークだが、華やかさの裏で実はその「生産業」においては墜落し続けてきた。マンハッタン「ガーメント・ディストリクト」、ガーメント(衣服)の名の通りアパレル産業エリアだ。
ショールームや卸問屋、デザイナーや製造者が密集しアメリカファッションの中心地としてその名を馳せたが、20世紀をピークにファッション業界のグローバル化に伴い、競争力を失い衰退の一途をたどる。いまや、針とボタンの大きなモニュメントに虚しさすら感じさせるほど。
その現状を打破すべく、ブルックリンのサンセットパーク地区にある巨大空間「Manufacture New York(マニュファクチュア・ニューヨーク)」 はアメリカのファッション産業の再生をかける。

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ブルックリンの巨大スペースで再生するアメリカン・ファッションの絆

「かつてはアメリカの衣料品のほとんどがここニューヨークで生産されていました。しかし人件費の安い海外に生産機能が移転されることが多くなり、ここ30年でファッションの製造業に関する仕事の約95%がなくなりました」と話すのは、マニュファクチュア・ニューヨークの創設者でCEOのボブ・ブランド。

 100年以上続くガーメント・ディストリクトだが、ファッション産業を支えてきた多くの人々が、そこから去ることを余儀なくされてきた。近年の再開発でホテルや商業スペースに建ち変わり地価が高騰したことが原因だ。仕事は割安な海外に流れ、人は散り散りに去っていった。
そこでマニュファクチュア・ニューヨーク、ブルックリンの少々辺鄙な場所に「巨大スペース」を手頃な価格で提供し、デザイナーから製造者までがともに作業できる場所を確保。バラバラになった生産者や縫製者、デザイナーが再び一つの場所に集まることでまずは失った結束力を取り戻そうということだ。コミュニティとしての機能を持ち、新しい生地、スタイルやデザインが生まれる可能性の広がりが期待できる。
 打ちっぱなしコンクリートの床に丸い柱が均一に並ぶこのだだっ広い空間には、現在は二つの生産工場と約20名のデザイナーが活動してる。

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 来年には1,4864平方メートルのスペースがオープンし、最大30の生産会社が入り、デザイナーのシェアスペース、個人用スタジオまで用意される。デジタルプリンティングなどの機材や備品をシェアすることもできるそうだ。この巨大空間で、「デザインから生産まで」が行われるということだ。

「生産者が無理せずに払える価格のスペースを提供することはアメリカのアパレル製造業の力を取り戻すことにつながります」とボブは力強くその可能性を話す。
一度に大量の生産しかオーダーを受け付けない工場とは違い、マニュファクチュア・ニューヨークでは少量のロットでの製造を可能にすることで小さいファッションブランドでもビジネスを持続できるよう支援する。

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テクノロジーも、“着る”

 この新たな「ガーメント・ディストリクト」は、新時代ならではの試みも忘れない。次にファッション産業のカギを握るといわれるウェアラブルテクノロジー、その規模はまだ小さいが、国内のアパレル製造業はウェラブルテクノロジー産業と共に成長していくと彼女は予測。
「私たちには、テクノロジー企業とファッションデザイナーが一緒になって作業できる環境にがあります。ファッションに新しいものをもたらすあらゆるものが、この巨大スペースにはあるんです」
例をあげれば、3Dプリンティング会社や疎水性ナノテクロジーを応用したテキスタイル企業、衝撃と摩擦を軽減する素材で作る疲れにくいハイヒールを開発する会社と協力体制にある。こういったテクノロジー系の企業が増え、デザイナーや製造者と一つ屋根の下で作業できる環境は、ファッションとテクノロジーの融合を容易にし、ファッション業界の発展に大きく貢献する「新しいプロダクト」を生んでいく。

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巨大スペースが埋まるとき、NYファッションの新時代が到来する

 素晴らしいデザインを考えるだけでなく、その服をいかに売るのか、どう顧客にアピールするのかといったビジネスセンスもデザイナーには必要になってくるとボブは考える。
 ファッション業界はこれまで人材育成などのサポートシステムが不十分だったことをふまえ、マニュファクチュア・ニューヨークではデザイナーがコレクションを発表するのに必要なビジネススキルや資源の提供をサポート。たとえば、デザインを妥協することなく“コスト削減”を実現するため、国内で生産された手頃な価格の素材の紹介などを手広く行う。
「ニューヨークのファッションの発展のために、デザイナーや製造者、メディアなどファッション業界の様々な分野の人々が結束し、協力していくことに期待している」と協力関係の重要性をボブは示唆する。

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 それから、この「再生」には若手デザイナーこそが重要だ、とも。「たとえ自分のラインを立ち上げることが難しくても、若いデザイナーが他の新しいラインの立ち上げに参加できるようになれば、次世代のデザイナーも育っていくと思います」。ニューヨークには世界有数のファッションスクールであるファッション工科大学とパーソンズ美術大学がある。若いデザイナーが増えるこの地で彼らの活躍する場が広がれば、ファッション業界の未来はおのずと開けてくるのかもしれない。

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 まだそのほとんどががらんどうで、閑散とした工場のようなマニュファクチュア・ニューヨーク。しかしそこには「ガーメント・ディストリクトを再生する」という明確な信念とそれを実現させる確かなビジョンが息づく。そして何より、一度は失った結束力が戻りつつある。新たな「ガーメント・ディストリクト(アパレル産業地区)」の誕生だ。この空間がファッションに情熱を注ぐ人たちで溢れるとき、それはアメリカンファッションの新時代の到来だ。今度は、ブルックリンで。

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Photos by Sako Hirano
Writer: Akihiko Hirata

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