地球に優しい美食家は「花食家」。
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テラスに向かうと、“彼女流もてなし”が待っていた。小さなテーブルにはうずらのゆで卵に、ピッチャーに入った黄緑色したジュースのようなものと、氷とグラス。「さ、どうぞ」と注いでくれたので、さっそく一口。じんわり甘く、何かを焦がしたような香ばしさが鼻を抜ける。これまでの人生では味わったことのない、独特な風味。

「これは、このあいだ摘んできた花で作ったジュースなの。ニワトコという、クリーム色の小さい白い花なんだけれど見たことあるかしら。種まで使ったのよ」

夏はこれを炭酸水で割って飲むのがお気に入りだそう。マリー・ビルジョエン、彼女は「花食家」だ。

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「今夜は野草のパンケーキ」

 夏空がよく似合うこの花食家、文字通り、野生の花を食べるグルメだ。花だけでなく野草、木の実、木イチゴ、キノコなど、自分で“見つけた”素材で食卓をつくる。ちなみに前日の夕食には、ミルク・ウィード(ちぎると白い液体が出てくる野草)とひよこ豆でパンケーキを焼いたのだそう。

「私の夫って、とっても勇気があると思わない?だって山や野原で摘んできた植物の食卓に、毎日チャレンジしてるのよ?」とくすくすと笑う。なんだか、美しい少女という感じ。マンハッタンに住み、オーガニックスーパーも近くにあり、素敵なレストランは軒並みで、美味しい食事には困っていなさそうなのだが。

 一体なぜ野草を食べるのかと聞くと、「むしろ、どうしてスーパーマーケットにあるものだけを食べるの?この世には、美味しいものが無限にあるのよ。どんな味がして、どう使うかを知っている食べ物だけって、それじゃああんまり発見がないじゃない?」と、こちらの顔を覗き込む。「食べられるものを自分で探す」が、当たり前ベースの意識として存在するのには、彼女の生い立ちが関係していた。

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「アフリカ生まれ」は自然に美食家

 マリーの生まれは、南アフリカ。20年程前にワシントンD.C.に留学するまでは、両親の仕事の都合でそこで暮らしていた。

「貧富の差がすごくてね、家族が多かったり、余裕のない家庭では足りない食材を山で見つけて補っているのよ」。彼女の家自体は裕福な方であったというが、その環境で育ったのであれば“食べる”=“食材を店で買う”というベースが築かれないのもうなずける。そして、実は「ものすごく美味しい」野草が多くあるというのが、都市に住むいまでも食べられる野草を探し続ける理由だ。

 ちなみに、初めて食べた野草はMorogo(モロホ)という、いうなればアフリカの“野生のほうれん草”。子どもの頃にハウスキーパーや母親が作る「野草のシチュー」なるものが、大好物だった。なんでも、そのモロホや他の野草を入れてじっくり煮込むと、シーゾニングと塩ほんの少しで事足りるほど味わい深いらしい。いまでも時々、故郷に帰って新しい野草をみつけては新しいレシピを楽しんでいるという。

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“攻撃的な草”を食べて、地球を守る

 彼女は、セントラルパークやブルックリンブリッジパークなどパブリックスペースで見つかる、食べられる植物を教えるツアーも定期的に行っている。その目的は、ただ「食べられる」植物を教える、というだけはでない。彼女が「摘む」野草には“美味しい”に加えてもう一つの基準がある。

「たとえば、竹はほかの植物に対してとても侵略的。イギリスでは竹の排除にとんでもないお金が割かれていたりするのよね。でも竹ってピクルスにしたりすると、美味しいのよ」と。筆者の実家も竹に両隣を囲まれており、切っても切ってもいつのまにか増えている竹にはほとほと困らされていたが、まさか食べて失くすなんて発想は露もなかった。

 そのほかにも、ピッグ・ウィード(オカヒジキ属)や、デイ・リリなど、除草しても除草してもどこまでも生え、少し放っておくと、ほかの植物を侵略して気づけばその雑草一色に…なんてほどにアグレッシブで、生態系には“望まれない”草は数え切れない。

「ピッグ・ウィードは気づけば路地まで侵略してくるやっかいな草なんだけど、たっぷりのバターでソテーにして、パンやピザにのせてとっても美味しいし、デイ・リリは夏のサラダに最高なの。“侵略的”な植物たちは、人間にとっては最高の食材だったりする。ほかの植物に害なものを、“食べる”ことで排除してあげられるのは人間だけ」と話す。“侵略的”な植物を美味しく食べることで、生態系を守っているのだという。

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“食料危機”に対抗する“美味しいもの”探し

 少々攻撃的すぎる植物たちと、四季を通して彼女はこんなふうに楽しんでいる。たとえば、春は丸々と太った野草たちをサラダにしたり、グリルの香草に使い、秋は木イチゴやキノコを探す。冬は新鮮な野草は採れないが、前年に仕込んでおいた“木イチゴのブランデー”をちびちびとやる。最近の発見は、オリーブの代わりに、どこにでも生え放題なノビルの塩漬けを入れるとマティーニが病みつきな程美味しいこと。

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「スーパーマーケットだけじゃ物足りない。人生の間に何度も迎える食卓が、ずっと同じもので作られていたら、退屈じゃない?“探す”と“作る”の二つの冒険があってこそ、“食”は最高のクリエイションだと思う」と、プランターの丸い葉をなでて、あ、今夜食べごろね、と独り言をいいながら。

 新しい食材を見つけては、どう食べたらいいのか試行錯誤する。失敗を重ねて、最高のレシピを生み出す。「去年のレシピを今年はちょっとひと味変えて」なんていうアレンジもたまらなく面白いのだという。それから最後、もう一つアドバイスをくれた。

「たまの外国旅行で、新しい食材を使った料理に驚きながら舌鼓を打つことは旅の醍醐味だと思うけれど、住み慣れた都市や街でも、それは毎日でもできるのよ」。周りには未知の“美味”があちこちに潜んでいるのよ、と。

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 マリーのように、“食べられるもの”に関して、これまでに培ってきた固定概念をとっぱらったとき、「食文化」というものは再びガラリと変わるかもしれない。近未来に食料危機が迫る、牛肉は食べられなくなる、といわれるいま、急増する人の数だけ、食べられるものも増える必要がある。もっと単純にいえば、食べられるものを個人ベースで考える必要に迫られているのかもしれない。

 と、真面目に考えてみたが、“食べられるもの”を広い視野でみれば、まずは自分の家の食卓が変わる。「本当に美味しいものを見つけちゃって」と、友人に野生のベリーを差し出すのは、人気カフェのスイーツよりも特別感があって、楽しそうだ。

 好奇心旺盛で生態系に優しい美食家の、なんとも愉快で美味しい人生を覗いた昼下がりだった。

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Food photos by Marie Viljoen

Photographer: Kohei Kawashima

Writer: Sako Hirano

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