激辛インドカレーに学ぶ NYで成功する方法

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「これは痛み、発汗をともなうものです。仮に食後、身体的、および精神的ダメージを受けたとしても、当店は一切の責任を負いかねます」

こんな注意書きがメニューの一つに記載されていた。ガスマスクを着用して調理をする、このインドカレーは「世界一辛い」といわれる「Phall(ファール)」だ。激辛インドカレーの誕生に隠された秘話、そして、ニューヨークで店を成功させるために考えた戦略を聞いた。

ロンドン発祥の激辛インドカレー
「ファール」の誕生は酔っぱらいのリクエスト

 この世界一辛いカレー「ファール」を提供するのは、ニューヨーク市内に6店舗 を構える人気インド料理店「Brick Lane Curry House(ブリック・レーン・カレーハウス)」。ブリック・レーンと聞いてピンときた方もいるだろう。同店の名は、英国のロンドン東部にある、通称「カレーの聖地」と呼ばれる通りに由来する。ファールとは、ロンドンで生まれた激辛インドカレーで、米国中で、「化学兵器レベルに辛いカレーだ」と噂が飛び交うほどの代物。少量で感じる殺人的な辛さでありながらも、同店では1日10食以上、多い日には15食も出るという。「最初は誰もオーダーしてくれなくてね、メニューから外そうかとも思ったけど続けてよかったよ」と嬉しそうに話すのは、同店オーナーのSati Sharma(シャティ・シャルマ)だ。

「ファール」の発祥地ロンドンのブリック・レーン通りは、バーやクラブなど、ナイトアウトスポットの多い「バングラディッシュ人移民のカレー屋街」。英国では「飲んで、酔って、カレーを食う」という飲み歩きの習慣があり、英国人にとってカレーは、日本人にとってのラーメンのような「シメ飯」的存在として親しまれてきた。深夜に徘徊するハイテンションの酔っぱらいから「もっと辛く」と要求され、バングラディッシュ人シェフが、どんどん唐辛子の量を増やしていったのが、ことのはじまり。その要求がエスカレートし、とどめに「これでもか!」と生み出されたのが、激辛カレー「ファール」だった。

「ファール」を看板メニューに、激戦区ニューヨークへ進出

 シャティが「ファール」と出会ったのは、遡ること15年程前。当時ロンドンでインド料理シェフとして働いていたときのことだった。“金持ちの英国人”を相手に、高級インド料理店で腕を振る舞っていたシャティ。「ブリック・レーンの若者の間で、とんでもない激辛カレーが話題らしい」という噂を耳にした。興味本位で食べにいき、驚いたのはその辛さもそうだが、「ファール」を囲む客たちの盛り上がりようだった。「“激辛”というだけで、人はこんなに楽しくなれるのか。変なものでも混ざっているんじゃないか?」。そんな好奇心からバングラディッシュ人シェフにレシピを聞くも、「とんでもない辛さの唐辛子のオンパレード。ただ(辛いという)それだけ」というから、笑い飛ばすだけの存在に過ぎなかった。

 間もなくしてシャティに転機が訪れる。ニューヨーク在住の友人から「投資するから、こっちで本格的なインド料理屋をやらないか」と誘われたのだ。「“本格”をうたうカレー屋が星の数ほどあるニューヨークで店をオープンするには、“キャッチーさ”が不可欠。そこに話題性のある『ファール』がピッタリだと思った」

 ニューヨーク1号店をオープンさせたイーストビレッジ地区について、「様々な国の移民がいて、文化が混ざり合い、強烈に主張しあっているところが、ブリック・レーン通りによく似ている」とシャティ。異文化の交差点という共通点がある街だからこそ、そして新しいことが好きなニューヨーカーだからこそ、ブリック・レーン通りで流行っているものはきっとニューヨークでも「ウケる」と思ったという。しかし、それを見込んではじめたものの「オープン当初はせいぜい、1週間に5皿ほど」で、人を呼び込めるほどの看板商品にはほど遠かった。

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起爆剤はテレビ番組 辛いもの好きが挑戦するカレーに

 しかし2010年、米国の人気バラエティ番組『Man v. Food』で取り上げられてたことをきっかけにファールの知名度が一転。米国のタレントが、他の来店客の注目を一身に浴び「世界一辛いカレーに挑戦」と、汗や涙を流し体を張ってファールを完食する姿が人々の興味を引きつけた。「辛いもの好き(の米国人)は、どれだけ辛いものが食べられるかを人に見せたがる」ともシャティ。彼の当初の考えは、あながち間違ってはいなかった。以来、グループで来店してファールをオーダーし、「世界一辛いカレー」に挑戦する客が激増。そんな現象に「昨日来た人たちも、男女4人がかりで2時間かけて、大騒ぎしながら『ファール』を平らげていったよ」と店員たちも嬉しそうだ。

しかし、ニューヨークで店をオープンして10年以上経つが、今でもインド人客からは、「このファールって何?」とよく聞かれるのも事実。それに対するシャティの答えは意外と冷静だった。「It’s a crap(食べるもんじゃないよ)」。日本人からすれば、インドのカレーは辛く、「インド人=辛いモノが好き」という認識が強いが、シャティは「インド人はそんなに辛いものを食べない」と言い切る。「妻が妊娠中だったとき、予定日を1週間過ぎても陣痛が来ないもんだから、僕が焦って医者に相談したら、『激辛カレーでも食べに連れていって刺激をお腹に与えてこい!』って言われたことがある。つまり、激辛なんてものは、僕らインド人にしてみたら“ジョーク”でしかない」

 彼によると、インドではスパイスの効いたものは常食しているが、「激辛」を食す習慣はないというのだ。そもそも、インドは食べる物が有り余っているような状況はなく「辛さの限界に挑戦」などというアイデアは生まれない。シャティは米国人を引きつけるために、このロンドンで生まれた「ファール」をさらに辛くして看板メニューとして作っただけなのだ。ファールをきっかけにして、次回は「僕らの自慢の本格インドカレーを食べてもらえれば」という戦略だった。

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誰もやっていないことをやる 成功のルールは「出る杭になれ」

 店の成功について、「まだ誰もやっていないことをやったから」とシャティ。ブリック・レーンを店名に掲げ、「英国生まれのインド料理」だということを包み隠さず全面に出した点と、「インド人シェフがバングラディッシュ人が考案した『ファール』をメニューにした点が型破りだった」という。「宗教の戒律の違いから、基本的に牛肉を食べないヒンドゥー教のインド人は、イスラム系の多いバングラディッシュ人のカレー屋には行かない。だから、バングラディッシュ人が生み出した『ファール』をインド人が店で堂々と出すなんていうのは、当時は“ありえないこと”だった」という。日本の寿司職人が、米国で改良された「カリフォルニアロール」を和食屋で取り入れることと同じなのだろう。

シャティは、異国で成功するインド人に共通する考え方だと前置きし、「人と同じことをしていては、普通かそれ以下で終わってしまう」と、“出る杭になる”ことこそが成功のカギだと説く。そして、「スパイス料理はインド発祥だけれど、それをCurry(カレー)として世界へ広めたのはイギリス。そのお陰で僕らを含めたインド人シェフたちが世界各国でビジネスをできるようになったんだ」と、授かった恩恵への感謝を忘れない。

植民地化され長年にわたり搾取され続けたインドだが、「災い転じて福となす」という言葉もあるように、「これも神様の決めたことだから仕方ない」という感じが潔い。米国に住むインド人移民の9人に1人は億万長者、ビリオネアは世界の10パーセントを占めるともいわれている。インド人がグローバルに活躍している理由は、柔軟に順応する能力にあるのかもしれない。

Brick Lane curry house
1664 3rd Ave. (between 93rd St. & 94th St.)
TEL: 646-998-4440 I
bricklanecurryhouse.com

掲載 Issue 16

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