「テクノロジーとアートの融合で人を刺激する」をコンセプトに、2018年に一般公開予定のサイエンス・ギャラリー・ロンドン。先月開催されたプレオープンのポップアップイベントにて、一風変わったワークショップが話題をかっさらった。その名も「The Fellatio Modification Project(フェラチオ改良プロジェクト)」。講師を務めたのは大人気AV女優、ではなく勉強熱心な「歯科医」。
講師は歯科医。オーラルセックス・ワークショップ
11月初旬、ギャラリー側からのラブコールを受け開催されたこの過激なタイトルのワークショップ。内容は「歯を立てず、舌を上手に使って…」の手取り足取り特訓…ではなく「テクノロジーを駆使し、いかにパートナーを喜ばせるか」。
参加者は「オーラルセックスのワークショップなのに、内容はすごくサイエンス的」と、歯科技術に基づくフェラ用おもちゃを作成しながら、トークショーを楽しんだ。
「口腔機能は、美学(感情表現)、発音(言葉を発する)、咀嚼(そしゃく:かみ砕く)の3つが代表されます。どれも人が社会で生活するうえで重要な機能。そして、僕が第四に掲げたいのが、セックスへの機能です」
セックスも、僕らの生活の一部ですし!と、スカイプ画面越しに熱っぽく話すのはKuang-Yi Ku(クアン・イ・クゥ)。ワークショップで講師を務めた超本人だ。
Kuang-Yi Ku(クアン・イ・クゥ)氏
台湾の国立大学の歯学修士課程を卒業後、歯科医師として働きながら美術大学のデザイン科へ進学。歯科学的観点とアーティストとしての感性の両面から「デンタルテクノロジーを、堅苦しくない方法で世に広めたい」と開始したのがこのプロジェクトだそう。
自身もゲイであることから、特に同性愛者のオーラルセックスに焦点を置き、口腔組織が性的快感にどれだけ影響を及ぼすのかを探究したかった。
その目的。舌の長さと形状の拡張?
ワークショップは、クアン・イの「フェラチオ・モディフィケーション・プロジェクト」と、これに影響を受けた歯学生2人とのコラボレーションで遂行された「クンニリングス/アニリングス・モディフィケーション・プロジェクト」なるものから構成。当日紹介されたユニークな作品が、こちらだ。
ヒントはTENGAから。フェラ用「マウスピース」
素材は人間の口腔組織によく似た医療用シリコン。歯を保護しつつ、突起(個数や形状、配列はカスタマイズ可能)でペニスに程よい刺激を与える。製作工程は銀歯同様、まずは歯型の採取から。そのあと石膏で複製した歯に合わせてマウスピースを作っていくという、オーダーメイド制だ。
装着中は流暢に話すのが困難なため「パートナーがより愛らしく思えるという相乗効果もアリです」と、歯医者さんニヤリ。
デンタルダムを使ったクンニリングス/アニリングス用「コンドーム」
挿入時に限らず、オーラルセックスからも性病やHIVに感染する。そこで開発したのが、オリジナル「開口器」と「保定装置」。歯科医が実際に局所治療に使用するデンタルダム(ラテックス製の薄くて丈夫なフィルム状シート)で作られており、装着することで性器と口、肛門と口の直接の接触を防いで感染を予防する。「機能的ですが、どうセクシーに見せるかという改善の余地はありますね」
舌の長さと形状を改良する、外科手術(あくまで妄想)
一瞬「痛っ!」と目を覆いたくなるのが、人間の口腔組織に近い組織を使用し、舌の長さや形状を改良させる外科手術編。現時点では実現不可能なのだが「近い将来、さほど珍しいことではなくなると思うんです。特に痛みを好むセクシャルマイノリティーには広く受け入れられるかと…」
「結局、時間はかかるんですけどね」
「フェラ用マウスピースは、自分用にも作ったんです。彼氏を喜ばせたくて。でも仕上がったと同時に別れちゃいました」と、当の本人はいまだ未使用。パーソナル・エクスペリエンスがダメなら、とレズビアンの友人やゲイカップル、大学時代の教授らからのユーザー・エクスペリエンスの聞き込みに専念。自信はあったが意外にも「堅過ぎてちょっと痛い」「柔らかくて特に変化を感じない」と意見は様々。マテリアルにもテクスチャーにも問題はなかったはずなのに。
「リサーチを重ねて気づいたんです。みんなが同じ快感を得られるユニバーサルなデザインって存在しないんだなって。当初は万人に通じる製品開発に取り組んでいたんですけど、快感の感じ方ってやっぱり十人十色ですし」。パカッとはめただけで、パズルのピースが噛み合ったような感覚を与えられるわけではない。時間をかけ、パートナーの好みを知り、どう使いこなすかが重要だと再確認した。
「満足できていない部分もあるので、まだまだ尽力しますよ」と目を細め、そっとグラスの水を飲み、スカイプを終了。歯科医師として、アーティストとして。歯科医、クアン・イの研究はまだまだ続く。
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Photos Via
Text by Yu Takamichi