タイムリミットは、“放課後から門限まで”。「思春期キッズを撮る」
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先生も親もいない。放課後から門限までの“キッズだけ”の時間を撮る。

The After School Project

「所構わずはしゃぐティーンズって、正直苦手です。どうして彼らを被写体に?」
「それが彼らのあるべき姿だと思うんです。全力で、自分を素直に表現するのって、実はなかなか難しい。この歳だけの特権だと思うの」
ティーンズのみを撮るフォトジャーナリストがいる。シャッターチャンスは、放課後のチャイムが鳴ってから夕飯時の門限まで。先生と両親の監視の目がない、彼らにとって一番自由な時間帯だ。その“マジックアワー”にだけ、捉えられる表情がある。

あの頃の、懐かしい表情だらけのアカウント

 インスタグラムのタイムラインに偶然流れてきた友人のリポスト。そこにはサポーターに血をにじませ、背を向け必死に涙をこらえる男子学生の姿があった。試合に負けたのだろう。キャプションを読まずして情景が伝わってくる。なんとも刹那的なポストだった。

The After School Project

 ついつい惹かれてタグ「#afterschoolproject」を頼りにググってみると、どうやらティーンズのみを被写体としたインスタグラム上で展開するプロジェクト「The After School Project」の一枚。フォトジャーナリストCassandra Giraldo(カサンドラ・ジラルド)によるもので、彼女、ブルックリン在住らしい。同郷にオフィスを構える我々が取り上げなくて誰が、と根拠のない責任感を感じながらさっそく取材を取り付けた。

 オフィシャルサイトによれば、彼女は英語・フランス語・スペイン語を操るトリリンガル。現在、世界屈指の名門校コロンビア大学(卒業生にはオバマ大統領も)にてジャーナリズムを専攻する学生とのこと。どんなお嬢様のお出ましかと身構えていたから、拍子抜けした。
「待った?」と小走りで向かってくるのは、どこかあどけなさの残る可愛らしい女性だった。

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「13歳女子2人組」の“引力”

 両親は、コロンビア人とメキシコ人。それぞれの故郷を訪れる旅にはいつもカメラを携えていた。だから「カメラのドキュメンタリーにはずっと携わってきた」。
 その彼女の目に留まったのが、門限はとっくに過ぎている夜中に「バーガー・キング」で“男友達”とぎゅうぎゅうに座って時間を潰す女子たち。学校の課題である被写体探しの途中だった。偶然出くわした、大声で騒ぐApril(エープリル)とDesire(デザイア)。ティーンズ特有の無敵さゆえの、素直な所構わずのおしゃべりに惹かれた。

「ほとんど直感だった。あなた達の写真を撮らせて!って。最初は戸惑ってたけど、すぐにOKしてくれた。中学生として最後の歳を過ごしていた彼女たちと、毎週放課後は公園をぶらぶらしたり、モールでショッピングしたり。一緒になって遊んだわ」。心を開いてもらうべく、時々はカメラを向けずに過ごしたという。これが、ティーンズを追うきっかけとなる作品『April&Desire』として完成した。

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 ティーンズたちの悩みは聞けば懐かしさでむせかえしそうなほど身に覚えがある。それも、カサンドラが彼らの魅力に取り憑かれた一因だ。
 成績が上がらず親からのプレッシャーに、女子のグループ間の派閥に悩み、来週になれば彼氏が違う、めまぐるしい日常。一端の悩みを持ってオトナのように悩み、コドモ扱いを嫌うかと思えば笑う顔は無邪気だ。“コドモ”と“オトナ”の間をアンバランスに生きる、若く未熟なティーンズが懐かしく、心を打たれた。
 その日常を体感するティーンズたちよりも、ひょっとすれば10代を終えた世代こそ、このプロジェクトに惹かれるのかもしれない。どの写真をみても、沸いてくる「あ、知ってる」という感覚。部活の試合、たった2週間の彼氏、道路で肩を寄せ合って話をしているだけで楽しかったこと。写っている人物は違えど、彼女、彼らたちに“あの頃”を重ねてしまう。

いつもの撮影場所でキッズが死んだ次の日

「数週間前にね、アップルビーズ(日本でいうサイゼリア的なファミレス)前のストリートで発砲事件が起きたの。放課後、ティーンズたちがスナック菓子片手にたむろしてるいつもの場所で。男の子が一人死んだわ」。事件を知ったとき、フランスのICP(International Center of Photography)にて、フォトジャーナリズムとドキュメンタリー研究プログラムを学んだ彼女の血が騒いだ。翌日カメラを抱えて現場に向かい、顔見知りのキッズに事件の様子を聞いてまわった。が、そこで感じたのは男の子が一人死んだところで彼らの世界はあまり変わっていなかったということ。警察や市が、キッズたちの放課後の過ごし方をどうしようか取り締まろうかなどと躍起になっているのを余所に、キッズたちはいつも通りまた安いファミレスやファスト・フード店やストリートにたまって遊んでいた。

 ロサンゼルスで生まれ育った彼女にとって、ニューヨークに生きるティーンズは特別だった。多種多様な人種と文化が混在し同化し、いつ何が起きるかわからないこの街で、周りのことよりも“自分たち”のことでいっぱいで、その表現はいつでも偽りがない。時に、良くも悪くも。それをひっくるめて「だから、撮るのが面白い特別な被写体」なんだとカサンドラ。

「変に大人ぶる必要はない。周りの目に怖じ気づかないで、偽ることなく素直な感情のまま動く。それがティーンズのあるべき姿だし、私たちが忘れかけてる最大の魅力」
 ここ数年、学業の合間を縫いフリーランスカメラマンとして、ウォールストリートジャーナルやニューヨークタイムズなどの報道機関で定期的に働いているカサンドラはこういう。「フォトジャーナリズムは時事問題ベースだったり、パンチの効いたニュース志向である必要があるけど、『物語』は、ふとした日常の何気ない瞬間から生まれてると思う」

The After School Project

 彼女の選んだ被写体は、シャッター音と同時に100点満点の笑顔を作り出すモデルではなく、思春期の多情多感で繊細な若者。そんな彼らの、その瞬間にしか見せない感情的な表情をとらえた作品はどれもノスタルジックに感じる。歳のせいだろうか。
 いきなり始まり、あっという間に終わるが、死ぬまで思い出して楽しめる青春時代。「#The After School Project」をスクロールし、ノスタルジックでおセンチな気持ちになりながら「あの頃は〜」と、遠い日々を振り返る筆者だった。

Photos by Cassandra Giraldo / cassandragiraldo.com

Interview Photos: Alexia Adana
Text: Yu Takamichi, Edited by HEAPS

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