アマゾン:「悪くないけれど、もっと良い選択肢がありますよ」
L.L.ビーン:「どうか、ここではなく他の企業を選んでください」
メイシーズ:「イチオシ」
一見するとなにか消費者口コミサイトのようだが、そうではない。このサービスでは企業の政治献金(政治家や政党に資金を提供すること)データを、消費者に無料で公開する。昨年12月に登場した、スタートアップによる消費者啓蒙サイトだ。
青か赤か。ナイキとアディダス、どっちを買う?
クラウドファンディングしかり、自分と近い価値観を表明する企業にお金を使いたいと考える消費者は、確実に増えている。
「消費者のみなさんが、自分の購買選択に自信を持てるようにエンパワメントするのが狙いです」。そう話すのは、米国ワシントンDC発のスタートアップ「プログレッシブ・ショッパー(Progressive Shopper)」の共同創始者たちだ。米大手企業500社以上の政治献金データをわかりやすい形式にまとめ、消費者(ユーザー)に無料で提供している。
プログレッシブ・ショッパーのオフィシャルウェブサイトより。
プログレッシブ・ショッパーは、名前の通り「プログレッシブ=進歩派」と呼ばれる左派で、民主党の支持者によるスタートアップだ。お騒がせ止まないトランプ大統領は共和党。
16年の大統領選以降、米国ではインターネット上で、トランプ大統領やその娘で大統領補佐官、かつ実業家のイヴァンカ・トランプ氏と取引がある企業などに対し、「グラブ・ユア・ウォレット(財布のひもを締めよう)」など不買やボイコット運動が勢いをみせているが、プログレッシブ・ショッパーの提供するサービスも同じ流れを汲むもの。「消費者アクティビズム」こと、個人の消費者や団体などが不買キャンペーンなどを通して、企業や組織に対して自分たちの主張を訴える運動を活性化するものだ。企業の政治献金が「民主党か、共和党か」を明らかにして、いち消費者の買い物を政治に繋げていこうという。
つまり、プログレッシブ・ショッパーは「消費者が自分の購買選択に自信を持てるように手助け」をするサイトであり、彼らのいう「消費者」とは「プログレッシブ=進歩派の」消費者。青をイチオシ、赤を非オススメ、紫はまあまあ、という指標にしている。
なぜ、青か赤かというと、米国では近年、民主党を青、共和党を赤とし、大統領選における政党支持傾向をこの2色によってわけるからだ。大統領選中に、米国が赤い州(共和党指示)と青い州(民主党指示)に色わけされているのを、テレビやネットで一度は目にしているだろうと思う。プログレッシブ・ショッパーがオススメするのが青であるのは、上述したが彼らが民主党の支持者だから。つまり、「青への啓蒙サイト」ということもできるだろう。
たとえば、靴のカテゴリーで、青の度合いが最も高いのは「クロックス」。そのほか上位10位内には「トムズ」「ティンバーランド」「ザ・ノース・フェイス」「ヴァンズ」など。
その後に続く「アディダス」「リーボック」なども青だが、30位の「ナイキ」からは紫に。民主党と共和党の両方にほぼ同額の献金をしている中道となる。そして、34位の「アシックス」以降、「ニューバランス」「プーマ」などはレッド。「×」のマークとともに「どうか、(このブランドではなく)他のブランドを選んでください」というメッセージが表示されている。
プログレッシブ・ショッパーのオフィシャルウェブサイトより。
いち市民が意思をしめす機会を「毎日へ」
企業が政党や政治家に献金していること自体は、なにもいまさら驚くことではない。資本主義においての企業の目的は、端的にいって「利益追求」。自分たちの利益追及に有利に、または競合他社に対して不利に働きかけてくれる政党や政治家を、企業がサポートし当選させる——といったストーリーを、映画や政治ドラマなどで見たことがある人も多いのではないだろうか。
“サポート”といえばやんわり聞こえるが、結局はお金の話だ。その政治献金となる企業の大金を生み出しているのは、私たち消費者。私たちの消費行為、「どこにお金を落とすのか」という毎日の選択は、政治と無関係ではない、ということになる。
「米国民が自分の“意志”を、政治に反映させるチャンスである選挙は、2年に1回。ですが、買い物は毎日のこと」。また「寄付をしたり、デモには参加しない人も、買い物はしますよね」と、消費者一人ひとりの日々の購買行為で政治に関わるアクションを起こせることを強調する。
実際、米国では消費者側のプレッシャーから、企業側が政治的立場を表明しなければならなくなるケースも少なくない。たとえば、米フロリダ州の高校で17人が死亡した18年の銃乱射事件後には、大手小売りのウォルマートや、航空会社のデルタやユナイテッドなどが、全米ライフル協会(NRA)との関係を切ること、つまり、銃規制を支持する立場であることを公に発表した。ちなみに、NRAは16年の大統領選でトランプ氏に多大なサポートをあたえたことでも知られる“赤い組織”だ。
自分がお金を落とした企業の政治献金先が、青(左派)か赤(右派)か、はたまた、紫(中道)なのか。それは「消費者が知るべき情報」だという。もともと、企業の政治献金データ自体はFEC(連邦選挙委員会)によって一般公開されていたが、そのデータの容量は「膨大かつ非常に複雑」。しかも、巨大なデーターベースに埋もれているものも無数にあり「専門知識があっても難解」という問題があった。それを独自にリサーチし、一目瞭然の「3色分け」という、どんな消費者も簡単に理解できるユーザーフレンドリーなものにまとめたところに、プログレッシブ・ショッパーの新しさがある。アプリは無料で提供されており、マネタイズは成功報酬型広告とターゲティング広告の組み合わせで実現しているそうだ。
もちろん、啓蒙サイトとはいえ、青か赤かという企業情報だけで消費者の購買行動のすべてを変えるのは難しいと思われる。同じ品質であれば安い方や優待割引がきく方を、また、デザインで選ぶことも少なくない。ただ、企業やブランドのマス向けのブランディングからは見えてこない、意外な政治的立場を知ることができるのは興味深い。なにより、「3色わけ」「ランキング形式」と非常にわかりやすいので、政治に関心のある人たちだけでなく、その他の人たちの意識をも喚起できる、という意味では、大きな意義があるのではないか。
情報提供:progressive shopper
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine