誰よりも路上にいるホームレスが写す。 100の使い捨てカメラで切り取る彼らの街 「MY LONDON」

Share
Tweet

この写真たち、誰が撮っていると思いますか。

photo by Desmond Henry from MY LONDON
Photo by Desmond Henry from MY LONDON
photo by Diogo Virolli from MY SÃO PAULO
Photo by Diogo Virolli from MY SÃO PAULO

これらが、来る日も来る日も路上とともにある、家なき“ホームレス”の人々が切り取ったものだとしたら。

photo by Matheus Leandro Barbosa from MY SÃO PAULO
Photo by Matheus Leandro Barbosa from MY SÃO PAULO

それも、ズーム機能もないフラッシュのみのシンプルな、“使い捨てカメラ”によって、だ。
ホームレスが路上から見ているあなたの街は、いつもと違う表情を見せる。

photo by Ellen Rostant 2 from MY LONDON
Photo by Ellen Rostant from MY LONDON

100の使い捨てカメラとホームレス

 ゴミいっぱいのショッピングカートを脇に新聞を読む男性の写真、チープなカメラならではのブレのある写真、はたまたかわいい犬のヘッドショット。切り取る目線もバラバラ。千差万別の写真がそこには並ぶ。

「MY LODON(マイ・ロンドン)」という写真コンテスト、
・撮り手はホームレス ・カメラは使い捨て
 この二つが、参加の前提条件だ。

 MY LONDONチームは、ホームレス支援団体が実施するアートワークショップへと赴き、その場で100個もの使い捨てカメラをホームレスの人々に手渡していく。
 もちろん、いきなりカメラを手渡されてもそこにはあるのは懐疑心のみ。「なんなんだこいつら」と。しかし、ただギリギリとフィルムを巻いてシャッターを押す。単純すぎて考える必要もないから、とりあえずやってみる。撮れる。
 “撮る”という行為に楽しみを覚えるのに、そこからは早かった。

photo by James Robson from MY LONDON
Photo by James Robson from MY LONDON

 カメラを携え2日間、思いのままにホームレスがそれぞれの“MY LONDON”を撮っていく。そこには何一つ定めごとはなく、写したいものならなんでもいい。彼らにとってのMY LONDON「自分の街」は、自分の目の前を足早に過ぎて行く人だったり、忘れられない場所や日々変わりのない風景だったり。如何様にもなる。彼らが見ている、ロンドンという街なのだ。

photo by XO
Photo by XO
photo by Ellen Rostant from MY LONDON
Photo by Ellen Rostant from MY LONDON

 ホームレスによってシャッターを切り終えられた使い捨てカメラをMY LONDONチームが回収、約3,000にも上るその写真からTOP12を選定していく。選んだ写真はエキシビョンとして開催し、その後、カレンダーとしても出版される。

「彼らに創作活動を通し、自信と自尊心を取り戻して欲しいんだ」。こちらの問いを前に、ブレのない口調で語りだした、MY LONDONのファウンダーであるPaul Ryan(ポール・ライアン)。

Exif_JPEG_PICTURE
今回、身一つでロンドンへ行ったため、カメラは10年前の小さなリコーのコンデジで。

 MY LONDONは写真コンテストのみで終わることはない。これを機に「本格的に写真を学びたい」というホームレスの声に応えるべく、写真学校と提携し、フォトワークショップを定期的に開催している。また、ロンドンにある20以上のカフェに協力を募り、ホームレスの人々による写真・ペインティング・オブジェクトなどを展示する「CAFE ART」と呼ばれるプロジェクトも運営し、繋げていく。

それぞれの、路上までのストーリー

「6年間の軍役を終えて、念願だった自分のレストランを開いた。
でも、突然の心臓発作で働けなくなって店は潰れた。何もかも失った」

 これは、カレンダーとして出版されたMY LONDONの写真に添えられた一人の撮り手の、パーソナルストーリーだ。

「ホームレスのそれぞれに人生があり、ストーリーがあり、路上に至るまでの経緯がある。しかしながら、“それ”を知る術がない。まずは第一にそれを知ってもらう必要がある。多くの人は、ただただホームレスを偏見の目で見るだけなんだ」とポールは話す。

photo by Rudnei Barbosa from MY SÃO PAULO
Photo by Rudnei Barbosa from MY SÃO PAULO

 これまでに発行されたカレンダー3冊には、選出された写真のフォトグラファーのライフストーリー、“家なし”になるまでの経緯、と彼らの現在がありのままに綴られている。
 特筆すべきは同プロジェクトの参加者の多くが若くして病により(鬱病なども含む)、失業し家賃支払い能力を失い、路上生活を余儀なくされたことだ。
 事実、2015年ロンドンでは、25歳以下のホームレスが5年前に比べ、2倍以上に増加している。

photo by Leandro Alves Baz from MY SÃO PAULO
Photo by Leandro Alves Baz from MY SÃO PAULO

 先程のストーリーは、参加者の一人、David Tovey(デヴィット・トベイ) 38歳のもの。突然の心臓発作により、長期にわたって働くことができずにすべてを失った後、ロンドンの家賃高騰は飽くことがないため、路上に出るほかなかった。

「MY LONDONに参加する前は、喋ることはおろか、人と目を合わせることも出来なくなっていた」と話すデヴィット。希望に満ち足りた日々から突然の転落。そして、社会から向けられるのは容赦ない冷淡な目。自己肯定など遥か遠く、絶望の淵での参加だった。
 手にしたたった一つの“使い捨てカメラ”で、じんわりと血が通うのを感じたデヴィット。ファインダーに覗く一筋の光を逃さなかった。MY LONDON、2015、2016年ともにTOP12に選出され、現在では自身のソロエキシビションを行うまでになる。

photo by David Tovey from MY LONDON
デヴィットの作品。Photo by David Tovey from MY LONDON

「ホームレスである人、ホームレスでない人も同じ人間。隔てるのは、運や機会、そういった薄い壁で、言うならば、誰でもホームレスに成りうる。MY LONDONが、彼ら一人一人のストーリーをより多くの人に認知してもらうきっかけになればと思います。それが社会とホームレスの人々をもう一度繋ぐ橋渡しとなり、彼らが本来あるべき姿を取り戻してもらいたい」。その言葉にはポールがこのプロジェクトにかける想いが滲みでていた。

photo by Amadeus Quadeer from MY LONDON
Photo by Amadeus Quadeer from MY LONDON

 ホームレスを支援すると聞けば、思い浮かぶのは炊き出しや衣服、住居など形あるもの。一方、MY LONDONでは創作活動を通し、路上のどこかに置き去りにしてしまった自信や生きがいなどを取り戻す“きっかけ”を支援している。いわば、人間活動再開の足掛かりだ。

photo by Frances Whitehouse from MY LONDON
Photo by Frances Whitehouse from MY LONDON

 このプロジェクトはいま、世界各国に広まりつつある。昨年ブラジルにて“MINHA SÃO PAULO(MY SÃO PAULO)”を開催、今年11月にはカナダはトロントにて開催予定である。

 取材最後に「TOKYOでもこのプロジェクトを始動させたい」とポール。柔らかな眼差しの奥にちらつく強固な意志と確信に、肌で感じる。“MY TOKYO”開催は近い。

photo by Dino Jose from MY SÃO PAULO
Photo by Dino Jose from MY SÃO PAULO

———————-
All Images Via Paul Ryan
Text by HEAPS, editorial assistant: Shimpei Nakagawa

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load