ゲリラで笑わせろ!とある男の“カラダひとつ”で、街がハッピー

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日常に“クスリ”を潜ませる、神出鬼没のコメディアン

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スマホの画面に夢中なあなた、気づいていないだけで 「知らない男が後ろで不格好に踊り狂っていた」なんてことがあるかもしれない。
時にニューヨークの地下鉄に機材を持ち込んで乗客に「はい」とミニライトを手渡し。「今日はここがクラブになりまーす!」と持参のマイクで叫び、車両をミニクラブにしてしまう。またある時は自分を保護材の“プチプチ”で何重にも覆い「ハグの変わりプチプチ一つつぶしていいよ」と道行く人にハグを求める。
ユーモア溢れるいたずらで、いつもと変わらない日常に“思わぬ笑い”をあたえるコメディアン(であり、俳優であり、ディレクターの…)Meir Kalmanson(メイア・カルマンソン)。彼は街のいたる所に、「笑えるゲリラ」 をしこむ。うんと自分の体を張って、だ。
毛むくじゃらのヒゲで覆われた彼の素顔と「いたずらゲリラ」とは何ぞやを探りに、カルマンソンを訪ねた。指定された待ち合わせ場所は、ブルックリンのスターバックス。

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—カルマンソンさん、はじめまして。あれ、今日もTシャツなんですね。

Kalmanson(以下、K):今日すごくいい天気じゃない?これ、新しいTシャツなんだ。見て、これ、横断歩道をイエローキャブが渡ってるところなんだ。僕の「High Five New York(ニューヨークでハイタッチ)」にぴったりでしょ? 今日は写真も撮るって聞いてたから、絶対これ、と思ってさ。

— けっこう寒いのに、ありがとうございます。「High Five New York(ニューヨークでハイタッチ)」といえば、カルマンソンさんの最初のゲリラ行為だったかと思います。

k:そう。「街中でタクシーを捕まえるために手をあげている人にハイタッチしてまわる」っていうアイデアはずっとあたためてたんだけど、実際に実行するまでには6、7ヶ月かかった。友人に相談したら「お前、絶対 パンチされるぞ!」って猛反対されたよ。でもその友人も結局はビデオで協力してくれた。最初の一人はちょっとドキドキしたよ。でも、“ゲリラハイタッチ”だから、考える暇も、よける暇もないでしょ?だから、いろんな人とハイタッチできた。

—ニューヨーカーって、忙しい人が多く気分屋な人もとても多い。“ハイタッチ”やその他の“いたずら”で嫌な反応をされたことはありますか?嫌な反応されたら、と考えるといざ実行するってなかなか難しいんじゃないかと。

k:実際、ハイタッチのときはネガティブな反応もあると思ってタッチした後にうしろは振り向かなかった。でもビデオを取ってた友人が「おい!超笑ってるぞ!大成功だ!」って僕を追いかけながら叫んでた。考える暇もないから思わずハイタッチしちゃって笑う、みたいな感じじゃない?もちろん、何人かは避けたし、嫌な顔をした人もいたよ。でも、「ネガティブな反応をされるかもしれない」「嫌なことをいわれる かもしれない」っていう不安はあまりないかな。もともとの性格なのかもしれないし、生まれ育った環境もあるかもしれない。

僕はオーソドックスジューイッシュ(正統派ユダヤ)で、小さい頃からその集まりが多くいろんな人に囲まれて過ごしてきた。それから旅をするのも好きで、シンガポールで大学に通って、たくさん旅をして、バーニングマン にも参加して…って25年間人生を生きてきたら、自然と人と関わることで生まれるだろうネガティブなことよりも、やっぱり“いいこと”の方を見るようになったよ。

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ー25歳!てっきり、30歳くらいかと…。
ところで、いまの時代ネット上で面白いものはいくらでも見つかると思うんですが、同時に“悪意”が潜んでいるものも多い印象があります。カルマンソンさんがいたずらをして動画を作るときに大切にしているコンセプトなどは?

k:30歳!それはきっと髭のせいだよ。コイツがないと、ほんとベイビーみたいだよ、僕。僕が髪の毛ぜんぶ剃った動画見た?髭も剃ればよかったかな。
誰かが笑っていても誰かが嫌な思いをしているっていうのは、心から面白いものじゃない。誰かが「笑いの的」になっていて、その人自身が嫌な思いをしていたらそれは見ている人にも伝わる。誰も嫌な思いをせずに、心からくすっとして欲しい。暖かい気持ちがわくようなものを作っているつもり。

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ーメッセージ性を持ったものもありますよね。街のいたるところにベッドを置いてその上で好きに飛び跳ねてもらう「Be A Kid Again、もう一度子どもになろう」とか。

k:その動画は、病気と闘う子もたちをサポートするChai Lifelineという団体のために作ったビデオなんだ。毎年、数千もの子どもたちがガンと診断され、病院での暮らしを余儀なくされている。その子どもたちは、無邪気な“子ども時間”をおくることができなくなって「子どもでいること」がどんなことなのか忘れてしまうんだ。

その事実と団体について、それから「子どもでいられること、子ども心を持っていること」 がどれだけ大切なことなのかを、より多くの人に伝えるために制作したんだ。この制作がいままでで一番大変だったよ。いろんなスポットにベッドを設置したんだけど、どうしても「タイムズスクエア」でやりたかった。でも、あそこは観光客が多いからNYPD(警察)も多い。速攻で止められたよ。「何やってんだ、お前ら」ってあきれ顔。それで「お願い、5分だけ!」って懇願した。でもダメ。それでも食い下がって「5分!5分!」 とまとわりついていたら「最高責任者に電話をする」と電話をしはじめて…。電話を切ったあと、彼から出た言葉は「5分だけだぞ」。
「タイムズスクエアにベッドを持ち込んだやつは初めてだよ」と最後は笑ってくれたよ。

ー単純に人を笑わせたいということであれば、必ずしも“ゲリラ”である必要ってないと思うんです。実際、カルマンソンさんのYouTube動画はゲリラじゃないものも面白い。それでもゲリラを選ぶ理由って何でしょう。

k:ハイタッチの話もそうだったけど、「突然」だからこそ、考える暇もないから本当にそのまま“自分らしい”反応をさせられることが大きい。まったく笑う予定のないときに生まれる笑いって、予定していたものよりもずっと“純度”の高いもので、“笑い”に感謝もできる。もしかしたら嫌なこと、悲しいことがあった人が僕に“思わず”出くわして、笑ってくれるという状況を生み出せる。それから、街の人たちの「生」の表情が見れるのも、笑わせる側の醍醐味かな。多くの人が僕のいたずら動画を好きになるのも「仕込んでない」からこそ、素直に見て、笑って、感動できるというところによると思うんだ。

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話を終えたあと、ポートレイト撮影にもひとしきり協力してくれた彼。コメディアンだけあって、その表情とポージンは豊富。電柱によじ登 ったりと、サービスも忘れない。 さて、冒頭の“クスリ”は、もちろんドラッグでもなんでもなくクスっとするそれを意味したものだったのだが、どこまでもハツラツ、街の人を笑 わせたい一心でゲリラを仕込む若者と話をしていて思う。忙しない街のすさんだ心をあたため、無表情の地下鉄を賑やかにし、出会った一 人ひとりを笑顔にしてしまうこの男の「体ひとつで挑むゲリラ」、都会人が何よりも必要としている“薬”でもあるのかもしれない。

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Meir Kalmanson Youtube / AMK Productions

< Issue 30『都市を変えるのは、ゲリラだ』より>

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