首謀者、圧倒的多数。ストリート・ゲリラ「ゴースト・バイク」
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自転車乗りを殺さない。

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ニューヨーク・シティの道路脇を彩る花束がある。花束は無造作に路上に置かれているわけでなく、丁寧に花壇に植えられているわけでもない。
その花は、一見不法投棄された「まっ白塗り」の自転車に添えられている。不意に目に飛び込んでくるその自転車は、ある理由から道の片隅に置き去られ「ゴーストバイク」と呼ばれている。

“Cyclist killed here” 自転車乗りがここで命を落とした

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 ゴーストバイクは、自転車乗りを襲った交通事故の現場に、真っ白に塗装された自転車をインスタレーション(特定の場所にオブジェを置いて、空間全体を作品として表現する)として設置するというゲリラプロジェクトだ。
 事故の被害者を弔うために、ニューヨークの道端に “Cyclist Killed Here(自転車乗りがここで 命を落とした)”の短い言葉とともに、ひっそりと佇んでいる。あるものはありったけの花で飾られ、あるものは写真やメッセージが飾られている。被害者が大切にしていたものが添えられているものもある。ニューヨーカーの自転車乗りなら誰しもが見たことがあるものだ。自転車が纏う、荒い塗りだが無垢な白が、記憶に深く残る。

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 ニューヨークの路上はカオスだ。特にマンハッタン、山手線におさまるほどの小さな街に約800万人の市民が忙しく行き来をし、キャブをはじめとする荒々しい運転の車、自転車・バイクでの通勤者やメッセンジャー、デリバリー、スケーターがでこぼこの道路を行き交う。種々雑多なのは人種だけでなく、ストリートの上も一緒だ。
 ニューヨークでは48時間に一人が交通事故によって路上で命を落とし、さらに12歳以下の死亡原因で最も多いのが交通事故だという事実がある。いまや銃よりも、さらにはどの感染症よりも車がニューヨーカーの死を引き起こしている。激増する自転車乗りの安全を考慮し、先日ニューヨーク市がサイクリストレーンの拡張を決定したのも非常にタイムリーな話題で、事態の深刻さを物語る。 

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 2003年、アメリカではミズーリ州で初の「ゴーストバイク」がゲリラ的に設置された。1990年代にニューヨークでよく見られた「警察が事故現場に残す、白チョークでなぞった遺体の輪郭」を真似て、犠牲者の名前と亡くなった日を事故現場に記して弔うプロジェクトがはじまりといわれている。ミズーリ州の後を追うかたちでニューヨークでも目撃されるようになった。

 ニューヨークでゴーストバイクを運営するのは、The Street Memorial Project。路上で起きてしまった事件の記憶を風化させないために様々なメモリアルプロジェクトを行っており、ゴーストバイクはその一環だ。ゴーストバイクは世界中に広まっており、ニューヨーク、ロンドン、べルリンなどをはじめ世界210都市の路上に設置されている。

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赤が“止まれ”なら、白は「死なないで」

 ゴーストバイクの首謀者は世界中に存在する。というのも、「誰もが」設置することができ、このゲリラアクションの張本人になることができるからだ。ゴーストバイクのウェブサイトにはその設置方法まで記載してあり、さらにサイト上では認識された設置場所がマッピングされて、事故が起こってしまった場所を世界中に知らせることができる。

 つまり、設置されるゴーストバイクは、単に起きてしまった悲しい事故を弔うためだけのものではなく、事故が起きやすい場所を自転車乗りと歩行者に教えてくれるのだ。起こってしまった過去を、家族が、近所の人々が、コミュニティが決して忘れないためのモニュメントでもあり、すべての自転車乗りにセーフライドを忘れさせない。彼らの未来への標識でもある。

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 ゴーストバイクは、どれもそれぞれの街の日常にひっそりと溶け込み、普段特に話題にあがることはない。しかし歩行者、自転車乗りの脳裏に焼きついて、静かに、強烈にメッセージを放っている。
 実はHEAPS編集部オフィスの目の前の交差点にも一台、そっと置き去られている。色むらがある自転車の白を鮮烈なカラーの花たちが覆っていて、儚さと同時にかつての出来事の鮮明さを物語っているようだ。通るたびに、車両の確認を促す。

 ニューヨークの交通死亡事故の多さに驚くかもしれないが、多方面の様々な努力により現在交通事故での死亡者数は劇的な改善を示している。それでは東京はどうか。同様に、48時間に一人が交通事故で亡くなっている。読者のみなさん。くれぐれも、Safe Ride!

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Photos by 今井竜也 / tatsuyaimai.com
Writer: Takuya Wada

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