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  • May 21, 2016
ドアを開け閉めするだけじゃない。「ドアマン」という仕事人から学ぶ、プロフェッショナルの流儀。
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ドアマンという職業を知っているだろうか。
ホテルやレジデンスのドアをひたすら開け閉めする、あのお仕事。
表舞台に出ることのない仕事人からこそ、学べる姿勢というものがある。

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「住民にドアを触れさせない」

 ホテルやレジデンス(居住)ビルの玄関で、燕尾服のような制服に身を包んだスタッフが笑顔でドアを開ける。統計によると、ニューヨークで働くドアマンの平均年収は3万5,000ドル(約370万円)。
「ロビーに突っ立って、ドアを開けるだけでそんなにもらえるのか」と思うなかれ。
 ドアマンの仕事の幅は広く、深い。試験や資格こそないが、空気を読む力など高いコミュニケーション能力が求められる。

 日本ではまだ馴染みが薄い職業だが、ここニューヨークでは、ドアマンビルに住んでいることはちょっとしたステータスでもある。マンハッタンの居住ビルのドアマンたちには「住民にドアを触れさせない」というポリシーもあるらしい。

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 さて、ドアマンの仕事とはに戻るが、住人や客を迎え入れ、送り出すだけではない。人の出入りを注意深く観察し記憶するのも、保安管理と信頼維持、両方の点から重要な仕事だ。いまビル内にいる人、いない人を把握できていればいるほどいい。また、届いた荷物の管理、言いつかった用件やトラブルを的確な判断で冷静に片付ける。何よりも、「ビルの顔」として常に誠実であることが求められる。

 面白いのは仕事の得かた。自分の働きをアピールすることこそが出世の定石ともいえるアメリカ社会だが、ドアマン業界(サービス業界全般といえるかもしれない)では、「ヘッドハンティング」だ。
 たとえば、新しいホテルやレジデンスビルが完成するころ、ドアマンの求人は大きく市場に出ることはなく、現存の優秀なドアマンを探す。「あのビルのあいつがいい」という、評判がベースの引き抜き合戦が行われるのだ。

「いつも誰かが見ている」ことを意識

 実際に、高級ドアマンの仕事ぶりってどんなものなんだろうか。セントラルパーク近くの高級レジデンス、「Grand Tier」に勤務するドアマンを訪ねてみた。

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 制服負けしない凜とした立ち姿がその存在を際立てる。ドアの内側から通りを見つめる眼差しは鋭いが、過度な緊張感はない。フロントデスクにいようと、彼らの意識は常にドアの前方と後方にある。25年のキャリアを持つというチャーリーは静かに語る。
「わたしたちの仕事は、このビルのクオリティーを体現するものだから」  

「いつ誰が見ているか分からないからしっかりやれ」という小さい話ではない(そうであっても教訓にはなるが)。お天道さまが見ているという言葉があるが、チャーリーが周囲への心配りを意識したのは、自身がひざの手術のため1週間ほど休んだ後、職場へ戻ったときだったという。

「最近見なかったけれど、どうしてたの?」

 住民ではない。ビルの前をいつも歩いているという通行人が声を掛けてきたのだ。
「気づかないだけで、常に誰かが見ていてくれていたことに気づいたのです。こんな素晴らしいことってないでしょう?そうと知ったら、下手な態度で仕事はできません」と微笑む。

 自意識過剰ではなく、他者に与える印象を意識して自らを律するために、胸を張り背筋を伸ばす。この姿勢こそが、プロフェッショナルの流儀だ。

「誰かがどこかで働きを見ている」。ドアマンのヘッドハントは評判ベースであると前記したが、出世のためだけではなく、プロとしてその意識を持つのと持たないのでは大違い。ドアマンだけでなく、どんな職種のプロにも教訓となる姿勢だ。ではドアマンとして、住人やコミュニティーと良好な関係を築くコツとはなんだろう。

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つかず離れず。絶妙な距離感を保つ

 たとえば同じビルで10年働くドアマンにとっては、ある家族の子どもの成長をその年月にわたって近くで見守ってきたことになる。そんな住民とは「家族のような関係」にもなりうるが、つかず離れず、絶妙な距離感を保つことがプロの条件だそう。
 住民の私生活ゾーンの一部にいることを理解し、尊重する。その姿勢と態度こそが、住民とのより強い信頼関係を築く。  

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 住民の家族形態は様々、年齢も様々だ。人間も十人十色、「適切な距離感をどう学ぶ?」と聞いたところで、「とにかく感じて学んでいくしかない。“too much(やり過ぎ)”だったら相手の顔と態度で分かる」と答えるのは若手のペドロ。「失敗した」と感じたら軌道修正し、ベストな関係を築くために日々、誠実に冷静に仕事で示していくしかないという。  

 住民とドアマンが、ハイファイブ(手を掲げてたたき合う)やフィストバンプ(こぶしをぶつけ合う)で気取りのない対等なあいさつを交わす姿を見ると、「いいレジデンスなのだろう」と思う。そんな日常の一コマが、ここニューヨークにある。
「誰かが見ている」、そう意識するだけで仕事の質も人間関係も向上するならば、一つやってみようじゃないか。

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Special thanks to: Mr. Charles Crawford, Mr. Pedro Rosario, Mr. Dionis Diaz, Ms. Maggie Hawryluk from Quinn & Co., Mr. Gene Wetzel from Glenwood, Ms. Nozomi Terao

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