ようこそ、僕の妄想世界へ。“いい大人”の目論見詰まった秘密基地 「KidSuper」
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ブルックリン、サウスウィリアムズバーグ地区。まだスラム臭がほのかに残る、このちょっとくすんだエリアに、パステルブルーの一際目立つ一軒のショップがある。噂に寄ると「アパレルショップ」らしい。らしい、というのもこの店、シャッターはほぼ毎日閉まっており、ドアにも鍵が掛かっている。一体いつ営業しているのか。そんな謎めく店、「KidSuper」に連絡を試みること数回、「いつでも来ていいよ」との返信が来たので、いざ、潜入。

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家全体が、「自由すぎる大人の遊び場」

 出迎えてくれたのは、壁一面に自由奔放に描かれた色とりどりのアート。ビリヤード台の上にディスプレイされた洋服や小物を見る限り、ふむ、イマドキのアパレルショップだ。
「いま片付けるからちょっと待ってて」と、オーナーのカルロム・ディランが出てきた。声からして恐らく「電話するまで寝ていた」のは間違いない。「いつでも来ていい」などよくいえたな…と思いながらも連れて行かれるままに店を見て回る。

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 地下には、大量の洋服とガラクタのようなものが大散乱。制作途中の作品が散らばり、床にはスプレー缶が転がっている。奥には薄暗くて小さな個室があり、その中にマイクが見える。アートワークスタジオとレコーディングスタジオのようだ。

「次はこっち」と、さらに連れて行かれた裏庭にはサッカーフィールド、手前に自身とゲスト用のベッドルームが二部屋。これはただのアパレルショップではなさそうだ…アトリエ、いや秘密基地といった方がしっくりくる。なんとすべて彼の手作りというから驚きだ。この男、一体何者か。

「僕?僕はね、アーティスト。それに、デザイナー、ディレクター。あとコメディアンだし、志の高ぁーいモデルでしょ、大工、スーパーヒーロー、自伝専門の小説家…はは、半分以上は冗談ね」と、いい大人が無邪気に笑う。

「FUCK FASHION!! FUCK TREND!!」“ファッションもトレンドもくそくらえ!”

 山のように積まれた洋服を目の前に、アパレルショップのオーナーの口から出たとは思えない矛盾的発言。カルロムは続けて話す。まだ高校生だった彼の周りには、クールに見られたいというだけの理由で洋服に大金を注ぎ込む友人が多かったという。「洋服に費やした金額と、君がどれだけクールかっていうのは比例しない。SupremeやBapeを買いまくるだけで周りからチヤホヤされるのって、バカらしいじゃん。それなら自分で作ってやるよ!」

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 なるほど、現在「KidSuper」での取り扱いブランドが、自身のオリジナルブランドKidSuperのみというのも納得。また、自身でデザインするようになってからは、一度も洋服にお金を使ったことがないというほどに徹底している。物質主義の「マテリアリズム」に反対派の彼には、観念主義の「イデアリズム」という言葉がしっくりくる。

実はブラジル仕込みのサッカープレイヤー

「サッカープレイヤー」という肩書きに突っ込んでみると、4歳からサッカーに魅了され、17歳から18歳までブラジルでそれに明け暮れる日々を送っていたという、筋金入りのサッカー少年だったカルロム。2014年にブラジルで開催されたサッカーW杯では、世界35ヵ国に展開する若者向け媒体VICEの、スポーツに特化したチャンネル「VICE SPORTS」でベルリンに飛び、現地レポーターを務めた。現在も週に5回程フィールドに出向いて練習していると、リフティングをしながら笑顔で話してくれた。

“アスリート学生”だったのかと思えばそうではない。アイルランド人の父と、スペイン人の母をもつ彼は、英語・スペイン語・ポルトガル語の三ヶ国語を流暢に操り、某有名大学で数学を専攻していたということから、知的な一面も垣間見える。また、昔から絵を描いていたという母の影響もあり、アート活動にも積極的だった。

 とにかく三兔でも四兔でも興味を持ったら追うカルロムは昔からのようだ。

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実は日本でも「ソールドアウト」の人気ぶり

 同郷ブルックリンを拠点とするヒップホップ界のトレンドセッター「Beast Coast Movement」との交友関係について触れておきたい。メンバーは、プライベートはもちろん、ミュージックビデオ内でもKidSuperを着用したり、店頭にて共にイベントも開催、カルロムは自身のブランドのルックブック用モデルにメンバーを起用するなど、親交の深さが伺える。また、メンバーの手書きイラストがプリントされたコラボレーションアイテムも発信しており、日本の取扱店ではソールドアウトの商品も。

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 KidSuperは次世代のブルックリンコミュニティーを代表する要注目ブランドであるといっても過言ではなさそうだ。現在は自身のアートワークスタジオにて、メンバーからの直接依頼により、ディレクターとして新しいミュージックビデオの制作に精を出している。なるほど、地下に転がっていたガラクタやスプレー缶はそれのためだったか。

合理的かつ論理的な妄想もある。その証拠がこの秘密基地

「僕が今やってることに優先順位なんてつけられないよ。アート、ショップ、サッカー…全部が大好きでどれも欠かせない。だからここKidSuperをつくったんだ。すべてを自分で出来る場所をね」
 好きなことは何でもやりたい。ちょっと子ども地味た想いを純粋に、恥じることなく持ち続けているオーナーだからこそ、このアパレルショップは妙で面白く、あらゆる人が集まる場所でもある。

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 ただ自分の好きな物だけを詰め込み、単なる気分次第で開店し閉店する自己満足的なアパレルショップだと勘違いしていたことを謝罪したい。すべて撤回するわけではないが、“単なる”ではなく、とにかく自由にアイデアを発信する立派な妄想秘密基地であることは間違いない。

 ショップの設立から約2年経った今も、昔と変わらず新鮮な気持ちのままだというカルロム。彼には目論見がある。現在ビルの地下と一階がKidSuper、二階、三階に彼の友人が住んでいるわけだが、このビル全体をアートビルにしたいという。地下と一階はこのまま、二階をアートスペース、三階をゲスト専用の宿泊スペースに。「三階から一階の僕の部屋までポールを設置してさ、消防士みたいにサーッと降りて来れたら最高じゃない?」と笑顔を絶やさずそう話す彼の姿は、まるでイタズラを企む少年のようだった。

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Photographer: Kohei Kawashima

Writer: Yu Takamichi

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