焼酎ブーム開幕前夜のニューヨーク〜アメリカ人オタクに聞く、ヒットの法則〜

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数十年前にニューヨークを席巻したSUSHIブームと共に日本酒は当地に根付いたといえる。一方で、長く日の目を見ることのなかった兄弟分が、焼酎だ。それが「ついにニューヨークでもブームになる日は近い!」と話すのはStephen Lyman(スティーブン・ライマン)。 半年かけて自ら「焼酎ダイエット」で8キログラムの減量を成功させ、焼酎のヘルシーさを実証してみせるほどの筋金入り「焼酎オタク」。そんな彼に日本の焼酎は米国人にどう映るのか「焼酎ブームの背景」を聞いてみた。

 大きな買い物袋をぶら下げて現れたスティーブン。「近くのリカーショップに立ち寄って焼酎を買ってきたんだ」と、袋に入った4本の焼酎を見せた。「これがここ(居酒屋『天』)で初めて飲んだ焼酎」と白いボトルを取り出した。「いいちこ」だ。「さあ、中へ入ろう」と、チェルシーにあるリノベーション中の店舗に入っていく。工事まっただ中の空間を見回して、「ここは焼酎と出会った場所、居酒屋『天』だった場所なんだよ。だからインタビューはここがいいって思っていた」と目尻を下げて笑う。この二つが揃ってスティーブンの心は「Ready」になった。

「さあ、焼酎の話でもしましょうか」

HEAPS(以下、H):今週は本業の方のミーティングが50近くあったようで忙しかったとのことで。焼酎関係のお仕事は本業ではないんですね?
Stephen(以下、S):そう、昼はメディカル・リサーチャー(医学研究者)、夜は「焼酎オタク」に変身ってところかな。

H:そもそも、どうやって焼酎に出会ったのですか。
S:初めて焼酎に出会ったのは2008年。ここ(居酒屋「天」)の隣にあるスペイン・タパスで飲んだ後、2件目でここに立ち寄ったんだ。「焼酎ボトル1本、18ドルキャンペーン」をやっていたからさ。焼酎が何かよく分からなかったんだけど、とにかく「安いし、じゃあ“その”お酒ください」って感じで頼んでね、それがはじまり(笑)。

H:初めての味はどんな感想でしたか?
S:よくわからなかった、っていうのが本音。でもウォッカやジンと同じように、米国人の僕にも親しみやすい味だって思ったよ。日本酒は「ちょっと甘すぎる」と思っていたから、日本にはこんなお酒もあるんだって初めて知った、いい機会だった。

H:嗜好の域を超えて、あなたをここまで焼酎に駆り立てたものは何だったのでしょう?
S:もともとウイスキーやジンといった強いお酒が好きだったから、焼酎もロックで飲んだんだ。そしたら、香りもしっかりしていて、アルコール度数が高くてパンチがある。飲みごたえのある酒が好みだった僕にはもってこい。それでいて、後味はすっきりしている。それから聞けば、同じ作り方でも、米や麦だけじゃなくて、いろんな風味の焼酎があるっていうから、オタク心をくすぐられただんだ。

それに、ちょうどその頃、理学療法士の仕事で福岡県と鹿児島県を訪れて、九州の焼酎文化に初めて触れる機会があった。小さな酒蔵で丹誠込めて作られる工程はまさに「忍耐」だね。完成までに6ヶ月以上を要し、杜氏(とうじ)によって味わいが変わる。そういう日本的な繊細なものづくりに惹かれた。その旅では、焼酎がライフスタイルや文化を反映するものだとも知った。僕の性格柄、データ化するのは得意で、味わったすべての焼酎の成分、価格、アルコール度数などすべての情報をノートにまとめ、ボトルを写真に収めていた。それから何種類の焼酎を飲んだか、一本いくらするかなんてメモをしていたんだけど、焼酎を語る上で取るに足らないことを目の当たりにした。大切なのは焼酎から見えてくる日本のクラフトマンシップ(職人魂)。すべてを安価に量産しようとするアメリカのものづくりの潮流と違う。僕にとっては衝撃的だったんだ。こだわりのために手間ひまを惜しまない醸造所での焼酎づくりには学ぶものがある。

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H:なぜ日本酒でもウォッカでもなく、焼酎に?
S:日本酒はちょっと特別なときに飲むイメージがあったんだけど、焼酎は「気取って飲むんじゃなくて、いつもそばにあるもの」というのを日本滞在の間に感じたんだ。仕事終わりにみんなが頼んでいたのは、日本酒よりも焼酎が多かった。でもその事実を僕ら米国人は、知らないんだよ。「日本といえば日本酒」っていうイメージがあるけど、本当はちょっと違った。安いという理由も大きいだろうけど、ガテン系や庶民の飲みもの。シャイな日本人が焼酎の力を借りて打ち解け合う姿がすごく好きだ。日本酒にない、焼酎のチカラを感じたんだ。それに、ヘルシーっていうのも魅力だった。お酒飲んでるのに、痩せるんだから!

H「: 本当の日本を垣間みた」ってところがちょっとした通になったような嬉しさがありますよね。その後から焼酎オタクとして、ニューヨークをベースに、焼酎文化啓蒙の活動されているとのことですが、どんなことをしているんですか。
S:アメリカでは、「SAKE」として定着している日本酒に比べ、焼酎はまだまだ知られていないのが現状。だから、焼酎をどう広めていくかってことを全般に手伝ってるんだ。米国の焼酎の輸入業者や取扱店に対しては、「焼酎とは何か」という基本的なことから、飲み方、日本の居酒屋文化まで、焼酎の役割なんかを具体的に話すんだ。 一方で、ニューヨークでの焼酎の反応やマーケットを知りたいと思っている、日本の焼酎醸造所や輸出業者にもいまの現状やこれからの解決策をアドバイスしてるんだ。どんな味が好まれているのかとか、どんな風に焼酎を説明すべきかとかね。それから、焼酎を知らない米国人に、はじめの一杯目をすすめる方法はどうするか、とかもね。でもあくまでも、僕はアンバサダーではないよ。

H:アンバサダーではないというのは、醸造所、輸入業者や酒屋、焼酎を飲む消費者のすべてにとって正直でフェアな立ち位置でいられるし、信頼されますね。正直なところ、いままで焼酎が長らく普及しなかった理由はなんだと思いますか?
S:ただ焼酎の魅力を発信するのが遅れた、ということが大きいよね。たとえば、寿司に合う酒として日本酒がSUSHIブームに乗ったのに対し、香りが強い焼酎は寿司に合わないとされ、見過ごされたことは大きな一因だね。そこで、次の一手を打てなかった。でも実は米や麦焼酎はすごく寿司に合うんだよ!焼酎の存在がまだまだ認知されていない、というのがやっぱり大きい。

それと、名前が似ている韓国の伝統酒「ソジュ」としばしば混同されることも理由の一つ。「ソジュ」も焼酎同様、米や麦を発酵したものでアルコール度数は24%以下。これはソフトリカーとされる。これに対して、焼酎は25%以上だからハードリカーになってしまう。ライセンスの取得も難しくて、酒税も高い。手に入りやすいソジュで作った酎ハイを提供してごまかす日本食レストランもあるくらいなんだ。日本の焼酎がソジュの知名度に便乗してしまっている現状が、焼酎の大衆化を妨げていると思う。

あと、たとえばテキーラ業界なんかの宣伝にかける意欲と金額に比べたら、日本の国酒である焼酎の海外向けのプロモーションに焼酎業界や政府はまだまだ意欲的とはいえない。ソジュも韓国が国を上げてサポートしているから酒税が安く、一般の人にも手頃な値段で売れる。だから普及する。競争が激しい酒類業界のなかで生き残るには、政府や業界のサポートが不可欠だね。

H:米国ならではの販売の規定があるということですね。ここ数年でいうと、ニューヨークでも新しい居酒屋が次々にオープンしていますね。どんな流れなんでしょうか。
S:毎月ニューヨークのどこかで新しい居酒屋がオープンしてて僕も驚いてる。10年前はスペイン・タパスだって知られていなかったでしょ。同じように、SUSHIブーム、SAKEブームの後に、新しいもの好きなニューヨーカーは次の食文化を求めていて、大衆向けにもっと気軽に楽しめるスタイルの日本食が注目されている。小皿に入ってくるおつまみや、 みんなで分けるスタイルなんかも受けているんだと思う。米国では、一人ずつにワンプレートでどーんとサーブされるしね。あとは、ボトルキープという習慣も日本発のもので、米国にはなかったんだけど、いまではすっかりニューヨーカーの心を掴んでいるよ。日本らしいサービスだよね。開封後も味が落ちにくい焼酎にはぴったりだしね。

H:「IZAKAYAブーム」と呼ばれているようですが、このブームが焼酎にどのような影響を与えると思いますか?
S:居酒屋ブームは焼酎業界にすごい大きな影響を与えることになると思う。ポイントはこの居酒屋と焼酎が最強のタッグだってこと。「寿司には日本酒」といわれたように、「居酒屋には焼酎」なんだ。日本の居酒屋では焼酎を飲む人の方が多いし、この居酒屋文化に焼酎なしでははじまらない。単独でブームが起きるのは難しいけど、お互いに支え合うものがあって、一緒に認知されていくことでより深くなる。居酒屋には、焼酎なんだ。だから焼酎の時代が来ることは間違いない!

H:ニューヨーカーに焼酎をすすめるときのポイントは?
S:食べ物との相性をふまえて焼酎をすすめることはもちろん、その人の普段好きな飲み物、飲み方などの嗜好から、好みに合う焼酎をすすめるんだ。たとえば、ウイスキーやビール好きの人には麦焼酎、白ワイン好きには米焼酎、テキーラやスコッチをよく飲む人にはパンチのある芋焼酎という風にね。 僕が焼酎アドバイザーとしてレストランに行くときは、「いま、何飲んでるの?」って話しかけて、その人がどんなお酒を好んでいるのか聞いてみる。それから、飲み方もストレートがいいとかオン・ザ・ロックがいいとか、普段飲むお酒の嗜好を聞いて、それを焼酎で置き換える。そうすると、違和感なく焼酎を飲んでもらえる。あとね、基本的に米国人に馴染みのない「お湯割り」は、初心者にはあまりおすすめしないかな(笑)。

H:食べ物との相性について、もう少し教えてください。
S:芋焼酎にはね、実はステーキが最高なんだよ。強い肉の香りに負けないからね。焼酎はアメリカの食事にももっと「普段使い」できることを知ってほしいよね。

H:ニューヨークと日本の焼酎愛好家たちに違いはありますか?
S:日本ではみんなごく気軽に焼酎を楽しんで、製造工程や材料にまで興味を持つ人は少ないよね。一方で、現在ニューヨークで焼酎を嗜むのは、探究心の強い人たち。そういう意味で、ニューヨークは焼酎オタクが育ちやすい環境ではあると思う(笑)。

H:そのオタク知識を生かして、自身で焼酎を作ってみたいと思いませんか?
S:実は毎年秋、鹿児島の酒蔵でインターンをして学んでいるんだ。いつか自分の焼酎レーベルを立ち上げるときは、ニューヨークではなく、僕が焼酎を学んだ鹿児島の酒蔵で作りたいって思ってる。だから、来週からまた日本にいくつもり。でも僕自身の焼酎づくりより、まずいまはニューヨークの焼酎ブームが楽しみなところだね。

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